中国ドラマは今、現代中国のリアルをどう描いているのか video poster
2015年にネットフリックスが中国の時代劇ドラマEmpresses in the Palaceを配信してから約10年。2025年現在、中国ドラマはもはや「異国の豪華な宮廷劇」ではなく、現代中国のリアルな姿を伝える国際コンテンツとして存在感を高めています。
宮廷劇から「現代中国」へ:中国ドラマの大きな転換
かつて国際的に知られていた中国ドラマといえば、豪華な衣装と壮大なセットが魅力の歴史・宮廷ものが中心でした。Empresses in the Palaceの成功は、そのイメージを世界に強く印象づけた作品のひとつです。
しかし今、中国ドラマの主役は必ずしも時代劇ではありません。恋愛、仕事、家族、都市生活のプレッシャーなど、現代を舞台にした作品が台頭し、世界の視聴者にとって「今の中国」を知る窓になりつつあります。
この流れを後押ししているのが、配信プラットフォームで国境を越えて作品を届けるプロデューサーやライツ担当者たちです。Shinning Studio(Hujing Digital Media & Entertainment Group)のマネージャーであり、2025年国際エミー賞の準決勝審査員も務めたジェシカ・クアンは、その代表的な存在です。
国際エミー賞の審査で見えた「世界の物語」と中国ドラマ
クアンは2025年の国際エミー賞で準決勝審査員として、これまでほとんど触れてこなかった地域のドラマシリーズを評価しました。その経験を「目が開かれるようだった」と振り返ります。
彼女によると、審査した作品の多くは巨大市場のものではなくても、物語の構成や緻密さ、ストーリーテリングの工夫が際立っていたといいます。こうした出会いは、クアン自身にとっても「自分たちの作品作りを見直すきっかけ」になったといいます。
一方で、クアンが世界に送り出してきた中国ドラマも、すでに大きな成果を上げています。The First FrostやRegenerationといった作品は、各国の配信サービスでトップ10入りを果たし、中国のストーリーテリングの可能性を世界に示しました。
クアンは、かつては「中国は時代劇だけが強い」と見られがちだったが、今はそうではないと話します。彼女が強調するのは、現代中国を舞台にした物語の力です。
「人々は以前、中国は時代劇が得意だと思っていました。でも今、世界各地で深く響いているのは、現代の恋愛、社会的なプレッシャー、日常のリアルを描いた作品です」と、彼女はCGTNのインタビューで語っています。
「細部まで作り込む」海外スタジオでの気づき
クアンはまた、米国のスタジオを訪れた際のエピソードも紹介しています。室内に再現された長さ10メートルのストリートセットは、なんとペットボトルのストローについた口紅の跡に至るまで作り込まれていたといいます。
一見するとコストのかかるこだわりのように思えますが、クアンは「それはお金ではなくマインドセットの問題だ」と指摘します。スタッフは自分たちを「労働者」ではなく「クリエイター」だと考え、時間ではなく作品そのものに誇りを持って向き合っていたというのです。
ハードは世界水準、足りないのは「ソフトスキル」
クアンによれば、中国の映像制作現場はカメラやスタジオ設備といった「ハードウェア」の面では世界でも最前線にあります。一方で、真の差が出ているのは、脚本開発や物語のテンポ、情報や感情をどれだけ密度高く詰め込めるかといった「ソフトスキル」だといいます。
彼女は「必要なのは、もっと多くの機材ではなく、一つひとつのカットに時間と精神とプライドを注ぎ込むこと」だと語ります。これは、中国ドラマの国際競争力をさらに高めるための課題であると同時に、すでに現場の意識が変わりつつある兆しとも言えます。
現代中国ドラマが映し出す「リアルな生活」
では、今の中国ドラマは、どのように現代中国を描いているのでしょうか。クアンが言及するキーワードは「恋愛」「社会的プレッシャー」「リアルな生活」です。
例えば、次のようなテーマが多くの作品で描かれています。
- 仕事と私生活のバランスを模索する若い世代の葛藤
- 家族や友情の中で揺れる感情や責任感
- 都市生活の中で感じる孤独や、将来への不安
- SNSやデジタル技術に囲まれた日常の変化
こうした題材は、視聴者にとって決して「中国だけの話」ではありません。日本を含む多くの国や地域の人々が直面している問題と重なり、共感を呼んでいます。その一方で、物語の細部に現れる街並みや会話、価値観の違いは、「現代の中国」を理解する手がかりにもなります。
日本の視聴者が中国ドラマを見るときの3つの視点
国際ニュースや世界の動きを日本語でキャッチアップしたい読者にとって、中国ドラマは「映像で読む現代中国ニュース」としても楽しめます。クアンの視点を踏まえて、日本の視聴者が意識すると面白くなるポイントを3つ挙げてみます。
- 時代劇だけでなく、現代劇も試してみる
歴史ドラマから入った人ほど、あえて現代を舞台にした恋愛ドラマや社会派ドラマに触れると、今の中国社会の空気感が伝わってきます。The First FrostやRegenerationのような作品は、その一つの例です。 - 「細部」に注目して見る
登場人物の服装や部屋のインテリア、職場の雰囲気、スマートフォンの使い方など、ストーリーとは直接関係なさそうなディテールにも、生活感や価値観が表れます。クアンが印象に残ったという海外スタジオの「口紅の跡」のように、細部は世界観の説得力を支える重要な要素です。 - 物語の「テンポ」と「密度」を味わう
展開が早いか遅いか、情報や感情がどのくらい詰め込まれているかに注目すると、作品ごとの作り手の意図や、クアンが語る「ソフトスキル」の違いが見えてきます。
ストリーミング時代の中国ドラマと「世界の見え方」
ストリーミング時代の今、中国ドラマは国境を越えて同時代の視聴者をつなぐコンテンツになりつつあります。クアンのように、国際エミー賞の審査や海外スタジオとの交流を通じて「世界の物語づくり」を学び、自国の作品に還元しようとする動きは、今後さらに広がっていくでしょう。
中国ドラマが描くのは、決して特別な「異世界」だけではありません。恋愛に悩み、仕事に追われ、家族と向き合い、将来を考える人々の姿は、日本を含む世界の視聴者と地続きの物語です。
2025年の今、中国ドラマを通じて見えてくるのは、「現代中国って実際どういう場所なのか」という問いに対する、さまざまな答えの断片です。ニュースや統計では見えにくい空気感や感情の揺れを、ドラマという形で追体験してみることは、自分自身のものの見方を少しだけ更新してくれるかもしれません。
通勤時間やスキマ時間に中国ドラマを一本試してみることが、明日の会話や議論を少しだけ豊かにするきっかけになるでしょう。
Reference(s):
cgtn.com








