米国関税で失速するユーロ圏経済 第2四半期は成長率0.1%
ユーロ圏の今年第2四半期(2025年4〜6月期)の経済成長率が前期比0.1%と、ほぼ停滞状態まで減速しました。背景には、米国の関税強化による不確実性の高まりがあり、世界経済にも波紋を広げています。
ユーロ圏経済、第2四半期は「かろうじてプラス成長」
EUの統計によると、ユーロ圏の第2四半期の実質GDPは、
- 前期比(第1四半期比)で+0.1%
- 前年同期比で+1.4%
という結果でした。前期の第1四半期には前期比+0.6%と予想外に堅調な伸びを見せていましたが、第2四半期は一気に減速し、2024年初め以降で最も低い四半期成長率となりました。
欧州委員会などが警戒していたとおり、米国の関税政策をめぐる不透明感が企業マインドを冷やし、輸出や投資の足を引っ張った格好です。
国別に見る明暗:ドイツ・イタリアはマイナス、スペインは好調
ユーロ圏の中でも、国によって景気の明暗ははっきり分かれています。
- ドイツ:第1四半期は+0.3%だったものの、第2四半期は▲0.1%とマイナス成長に転落。輸出と製造業に依存する構造が、関税ショックの直撃を受けています。
- イタリア:貿易摩擦に敏感な経済構造を持ち、第1四半期の+0.3%から、第2四半期は▲0.1%へと悪化しました。
- スペイン:一方で、個人消費と投資が牽引し、第2四半期も前期比+0.7%とユーロ圏で最も力強い成長を維持しています。
- フランス:前期比+0.3%と、緩やかながらプラス成長。
- ポルトガル:+0.6%と比較的高い伸びを確保しました。
- アイルランド:第1四半期に+7.4%という急伸を記録した反動もあり、第2四半期は▲1.0%とユーロ圏で最も大きな落ち込みとなりました。
ユーロ圏全体としては「かろうじてプラス成長」ですが、中核国であるドイツとイタリアのマイナス成長は、域内経済に重くのしかかっています。
米国関税がユーロ圏を直撃:鉄鋼・アルミから「15%関税」へ
今回の減速要因として最も大きいのが、米国の関税政策です。欧州中央銀行(ECB)は、米国の関税をユーロ圏経済にとって最大級のリスク要因の一つと位置づけています。
今年3月、トランプ政権はEUから輸入される鉄鋼・アルミ製品に対し、25%の関税を発動しました。この関税率は5月末までに50%へと引き上げられ、欧州の鉄鋼業や関連産業に大きな打撃を与えています。
ドイツの鉄鋼メーカー、ザルツギッターのグンナー・グレーブラーCEOは、米国の動きを次のように批判しています。
「米国の不安定な関税政策は、特にドイツを中心に、欧州経済を厳しく打撃しています」と述べ、輸出企業が受ける影響の大きさを強調しました。
その後、EUと米国は協議の末、多くの欧州産品に対して一律15%の関税を課すことで合意しました。これにより、当初懸念されていた30%関税という「最悪のシナリオ」は回避されたものの、負担が軽くなったわけではありません。
ケール世界経済研究所の国際貿易専門家ジュリアン・ヒンツ氏は、今回の合意について「良い合意ではなく、事実上の譲歩だ」と指摘します。EUが短期的な貿易戦争を回避する代わりに、世界貿易機関(WTO)のルールに基づく多国間の貿易体制という「長期の利益」を損なうおそれがあるとの見方です。
前倒し輸出の反動:第1四半期好調から一転
ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁は先週の記者会見で、第1四半期の高成長について「前倒し輸出の効果があった」と説明しました。関税発動前に企業が輸出を急いだことで、第1四半期の成長率は押し上げられましたが、その反動が第2四半期に表面化した形です。
ラガルド総裁によると、第1四半期の成長を支えた要因は、
- 関税前を見越した前倒し輸出
- 個人消費の底堅さ
- 投資の持ち直し
などでした。しかし、第2四半期には輸出関連が一気に失速。特に輸出依存度の高い国が米国向けの関税強化の影響を強く受けています。
どれだけ成長を削るのか:関税の「数字」で見る影響
民間機関の試算では、今回の関税合意がユーロ圏全体のGDPに与える影響は「一度きり」で0.3〜0.5%ポイント押し下げるとの見方が多くなっています。中でもドイツが最も大きな打撃を受けるとされる一方、フランスやイタリアへの影響は比較的限定的との分析もあります。
インターミディエイト・キャピタル・グループの経済・投資調査責任者ニック・ブルックス氏は、ドイツは輸出依存度が高く、自動車や機械など関税の影響を受けやすい品目が多いと指摘します。
さらに、キャピタル・エコノミクスの欧州担当シニアエコノミスト、フランツィスカ・パルマス氏は、15%の米国関税がユーロ圏のGDPを約0.2%押し下げるとの見通しを示し、「今年残りの期間も成長は弱い状態が続く可能性が高い」と述べています。
インフレは一服、PMIは小幅改善:見える「底堅さ」
一方で、ユーロ圏経済には依然として一定の「底堅さ」も見られます。ECBは声明で「厳しい世界環境の中でも、ユーロ圏経済は総じて底堅さを示している」と評価しました。
物価動向を見ると、ユーロ圏のインフレ率は5月の1.9%から6月には2.0%へと小幅に上昇したものの、概ね落ち着いた水準にあります。ECBは、ここ数年続いた「インフレショック」は峠を越えたとの認識を示し、
- 財政政策(政府支出)
- 構造改革(生産性向上や競争力強化)
によって、ユーロ圏経済はより生産的で競争力があり、ショックに強い体質へと変わっていくべきだとしています。
景気の先行指標である製造業・サービス業の購買担当者景気指数(PMI)でも、ユーロ圏の総合指数は6月の50.6から7月には51.0へと小幅に上昇し、拡大・縮小の分かれ目である50を上回る水準を維持しました。勢いは決して強くありませんが、「縮小ではなく、緩やかな拡大」というメッセージを示しています。
欧州委の見通し:2025年0.9%、2026年1.4%成長を予測
欧州委員会の予測では、ユーロ圏の実質成長率は、
- 2025年:+0.9%
- 2026年:+1.4%
と見込まれています。高成長とは言えないものの、「低成長だがプラス」というシナリオです。
ただし、米国による15%の関税が続く限り、企業の投資マインドやサプライチェーン(供給網)の再編コストが重荷となり、成長の上振れ余地は限定的との見方が少なくありません。
多国間貿易体制への揺さぶり:WTOの役割は
今回の米欧合意をめぐっては、数字以上に「ルール」の面での影響も懸念されています。ヒンツ氏が指摘するように、世界貿易機関(WTO)のルールに基づく多国間体制は、これまで欧州の繁栄を支えてきました。
しかし、二国間交渉や関税の応酬が前面に出る展開が続けば、WTO中心の枠組みは徐々に形骸化しかねません。これは、輸出に頼る多くの国・地域にとって、長期的な不確実性の増大につながります。
日本の読者にとっての意味:何をウォッチすべきか
では、日本やアジアに住む私たちにとって、このユーロ圏の減速と米国関税の影響はどのような意味を持つのでしょうか。いくつかポイントを整理します。
- 世界需要の減速:ユーロ圏は世界第3位の経済圏であり、自動車や機械、化学製品など多くの分野で重要な市場です。ユーロ圏の成長鈍化は、日本を含む他地域の輸出にもじわじわ影響し得ます。
- サプライチェーンの再編:欧州企業が関税を避けるために生産拠点を移す動きが加速すれば、アジアに新たな投資が向かう可能性もあれば、逆に不透明感から投資が慎重になるリスクもあります。
- 為替・金融市場:ユーロ圏の低成長やECBの政策スタンスは、ユーロ相場や世界の金利動向を通じて、日本の金融市場にも影響を与えます。
- 貿易ルールの行方:WTO中心の多国間貿易体制が揺らぐかどうかは、日本の輸出産業にとっても重要なテーマです。
こうした点を踏まえると、ユーロ圏の最新経済指標だけでなく、米国との通商交渉の行方や、EU内での財政・構造改革の議論にも注目していく必要があります。
まとめ:低成長でも「崩壊ではない」ユーロ圏
今年第2四半期のユーロ圏経済は、米国の関税ショックと前倒し輸出の反動から、前期比0.1%というギリギリのプラス成長にとどまりました。ドイツやイタリアのマイナス成長など不安材料はあるものの、スペインやポルトガルなどが支え、全体としてはかろうじて拡大を維持しています。
インフレはほぼ落ち着き、PMIも拡大圏を維持していることから、ユーロ圏は「低成長だが耐えている」状態とも言えます。一方で、米国の関税方針や多国間貿易ルールの揺らぎといった構造的な不確実性は残されたままです。
景気の数字を追うだけでなく、その背後にある貿易ルール、通商政策、経済構造の変化をどう捉えるかが、これからの国際ニュースを読み解くカギになりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








