トランプ米大統領、新関税ラッシュ インド・ブラジル・韓国と銅製品に波及
米国のトランプ大統領が今年7月末、インド、ブラジル、韓国をはじめ、銅製品や少額輸入品も対象とする一連の新たな関税措置を打ち出しました。8月以降の世界貿易の流れを左右しかねないこの関税ラッシュを、日本語で整理します。
関税ラッシュの全体像:8月1日を前にした一斉発表
7月30日水曜日、トランプ米大統領は複数の大統領令や布告を通じて、新たな輸入関税と制度変更を立て続けに発表しました。背景には、多くの国から米国への輸入品に対する関税率を引き上げる「8月1日期限」があり、トランプ氏はこの期限をテコに世界の貿易ルールを再構築しようとしています。
発表された主なポイントは次の通りです。
- インドからの輸入品に一律25%の関税を課す方針
- ブラジルからの輸入品に追加40%、合計50%の関税
- 韓国とは15%関税と引き換えに、巨額の対米投資とエネルギー購入で合意
- 半製品など銅関連製品への一律50%関税(8月1日から適用とされる)
- 800ドル以下の少額輸入品に適用してきた免税制度(デミニミス)の停止
いずれも単発の措置ではなく、2025年の世界貿易の枠組みを米国主導で再編しようとする一連の動きの一部として位置づけられます。
インド:25%関税と貿易交渉の行方
関税ラッシュの口火を切ったのは、インドに対する新たな輸入関税でした。トランプ大統領は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、インドからの輸入品全般に25%の関税を課す方針を発表し、この措置が8月1日から適用されるとしました。
ワシントンとインドのニューデリーの間では、数カ月にわたり二国間の通商協定をめぐる交渉が続いてきましたが、合意には至っていません。トランプ氏は投稿でインドを友人と呼びつつも、同国の関税水準が世界でも際立って高いと批判し、ロシアからの軍事装備やエネルギーの購入を続けていることにも不満を示しました。
これに対しインド側は、公正でバランスが取れ、互いに利益となる二国間通商協定の妥結に引き続きコミットしていると強調しています。トランプ政権は4月にも最大27%の関税案を打ち出していましたが、いったん保留しており、今回あらためて8月1日(金)を最終期限と位置づけ、インドを含む各国に「合意か関税か」の選択を迫ってきた格好です。
ブラジル:50%関税と政治的緊張
ブラジルに対しては、追加40%の関税を課す大統領令にトランプ氏が署名し、既存の関税と合わせて実質50%の関税水準とする方針を示しました。この関税は署名から7日後の東部時間午前0時1分以降に発効するとされ、一部の品目は例外扱いとなります。
今回の強硬措置の背景には、ブラジルと米国の間で高まる政治的・経済的な緊張があります。トランプ氏は7月9日の声明で、ブラジルへの高関税方針を打ち出し、その理由として、2022年の大統領選で敗北したジャイル・ボルソナロ前大統領による権力維持の試みをめぐる裁判に反対していることを挙げていました。
その後、米政府は同裁判を担当するブラジル連邦最高裁判所の判事8人に対するビザ発給を停止する措置も取りました。これに対し、ルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領は、ボルソナロ氏の裁判はブラジルの内政問題だと述べ、米国の関与を批判しています。
7月21日には、フェルナンド・ハダジ財務相が、トランプ氏による輸入品50%関税の脅しに対し、ブラジル側は交渉を通じて妥協点を探る考えを示しました。ルラ大統領も、米国との外交チャンネルを開いたままにしておきたいとの意向を示しており、高関税をめぐる攻防は今後も続く可能性があります。
韓国:15%関税と引き換えの巨額投資
同じ日、トランプ大統領は韓国との間で新たな通商合意に達したと発表しました。この合意では、韓国からの輸入品に15%の関税を課す一方で、韓国側は米国に3500億ドルの投資を行い、さらに1000億ドル相当の液化天然ガス(LNG)などのエネルギー製品を購入することになります。
15%という水準は、トランプ氏が以前にちらつかせていた25%関税よりも低く、日本や欧州連合(EU)との通商合意で決められた水準と同程度とされます。韓国にとっては、より高い関税という最悪のシナリオを回避した形です。
トランプ氏は、さらにかなり大きな追加投資がソウル側から行われると示唆し、その詳細は2週間以内に予定されるイ・ジェミョン大統領のホワイトハウス訪問の際に明らかにすると述べました。この会談は、イ氏が今年6月に大統領に就任して以来、初めての米国訪問になる見通しです。
イ大統領はフェイスブックへの投稿で、この合意を自らの政権にとって最初の大きな通商上の挑戦だったと振り返り、「大きなハードルを乗り越えた」と表現しました。また、この合意によって輸出条件をめぐる不確実性が解消され、韓国の対米輸出品にかかる関税が、主要な競合国に課される関税よりも低いか、同水準に抑えられたと強調しています。
銅関連製品への一律50%関税:市場は急落で反応
トランプ大統領はさらに、半製品などの銅関連製品に対し、一律50%の輸入関税を課す布告にも署名しました。対象となるのは、半製品の銅製品や、銅を多く含む派生製品で、8月1日から適用されるとされています。
布告は、米商務長官に対し、どの銅派生製品を対象に含めるかを決めるインクルージョン・プロセス(対象追加手続き)を設けるよう求めています。また、国防生産法に基づき、国内の銅産業を支援する措置を取る権限も与えました。
この発表を受け、米商品取引所(COMEX)の銅先物価格は20%急落しました。それまでは、米国の銅価格はロンドン金属取引所(LME)の指標価格を約28%上回る水準で推移しており、市場は当初、関税が精錬銅の輸入全体に広く適用されると見込んでいました。
ロンドンの証券会社Panmure Liberumのアナリスト、トム・プライス氏は、市場が精錬銅の価格を大きく織り直していると指摘し、トランプ氏が自ら掲げた輸入関税案から大きく方向転換したと受け止められているとの見方を示しました。米経済がこれ以上の通商ショックに耐えられないことが、ようやく大統領に伝わったのではないか、とも述べています。
少額輸入の免税停止:越境ECにも影響
ホワイトハウスは同時に、いわゆるデミニミスと呼ばれる少額輸入の免税制度も見直す方針を打ち出しました。これまで商用の小口貨物は、一定金額以下であれば関税が免除されてきましたが、この枠が大きく縮小されます。
トランプ大統領の命令によると、国際郵便以外のルートで米国に送られる800ドル以下の小口貨物は、8月29日から適用されるすべての関税の対象となります。つまり、宅配業者などを通じた越境電子商取引(越境EC)の商品にも、原則として通常の関税が課されることになります。
一方、国際郵便を通じて送られる貨物については、輸出国の関税率に応じた従価税(価格に対する一定割合の関税)が課されるか、または当面6カ月間は、輸出国の関税率に応じて80〜200ドルの定額関税が上乗せされます。
少額でも関税がかかることで、海外のオンラインショップを利用する米国の消費者にとっては、送料だけでなく税負担も重くなりやすくなります。越境ECを通じて米国市場に商品を届けてきた企業にとっても、価格設定や物流戦略の見直しが避けられません。
何が見えてくるか:選別されるパートナー、広がる不確実性
今回の一連の発表から浮かび上がるのは、関税を交渉カードとして使いながら、米国にとって戦略的重要性の高い相手国には合意という出口を用意する姿勢です。韓国が投資とエネルギー購入を約束することで25%関税を回避した一方、インドやブラジルには高関税を通じて圧力が強まっています。
銅製品や少額輸入への新たな関税は、特定の国だけでなく、世界中の企業と消費者に影響が及ぶ措置です。素材価格の変動やオンライン通販のコスト増など、グローバルなサプライチェーンと日常の消費の両方に波紋が広がり得ます。
日本企業にとっても、インドやブラジル、韓国などを生産拠点や市場としてきたビジネスモデルが、米国の通商政策次第で影響を受ける可能性があります。どの国がパートナーとして優遇され、どの国に関税というペナルティが科されるのか。その線引きのロジックを読み解くことが、これからの国際ビジネス戦略を考えるうえで、いっそう重要になりそうです。
Reference(s):
Trump strikes tariff deal with S. Korea, ups rates for India, Brazil
cgtn.com








