トランプ新関税で深まる世界の分断 グローバルサウスと世界経済への影響
トランプ米大統領が今夏発動した大規模な新関税が、国際ニュースの焦点となっています。インドや南アフリカなどグローバルサウスを中心に、世界経済の分断と不確実性が一段と深まっています。
関税はどれくらい高いのか:10〜41%の新ルール
新関税は、4月1日に一度発表された案を修正したうえで導入されました。各国の強い反発を受けて一部は引き下げられたものの、依然として水準は高く、輸入品に一律10%のベース関税をかけつつ、国や品目によって最大41%まで上乗せされます。
インドには25%、カナダには35%、スイスには39%の高い関税が適用され、多くの対象国・地域では8月7日から本格的に発動しました。当初予定されていた8月1日から1週間延期されたものの、各国にとって負担の大きい制度変更であることに変わりはありません。
英国や日本など、一部の同盟国は土壇場の交渉で比較的低い税率に抑えることに成功しましたが、インド、南アフリカ、ブラジルなどは最も重い関税を課されています。米国と個別の通商合意を結べなかった国ほど打撃が大きい構図です。
インドや南アフリカで広がる痛み:通貨安と雇用不安
インドは数カ月にわたる高官級交渉にもかかわらず、追加的な制裁的関税を免れませんでした。トランプ政権の関税攻勢を受け、市場は神経質になり、7月にはインドの通貨ルピーが資本流出を背景に一時約2%下落しました。
医薬品、自動車、宝飾品といった幅広い輸出産業が混乱にさらされており、2025〜26年度の国内総生産(GDP)成長率が最大0.4ポイント押し下げられるとの試算も出ています。成長余地の大きい新興経済にとって、これは小さくない数字です。
影響はインドにとどまりません。アフリカ、アジア、ラテンアメリカの多くの国々—いわゆるグローバルサウス—は、米国と2国間協定を持たないケースが多く、平均19%もの関税に直面しています。銅や農産品、繊維など、雇用吸収力の高い基幹産業が特に打撃を受けやすいとされています。
南アフリカでは、新関税が発表される前の段階で、かんきつ産業だけで3万5千人超の雇用が失われる可能性が試算されていました。その他の産業も含めれば、さらに6万5千人規模の雇用が危機にさらされると見込まれており、各国政府は対米依存の高い輸出構造の見直しを迫られています。
「守られた」韓国も安堵できず:非対称なディールの重み
一方で、部分的な関税緩和を勝ち取った国も、必ずしも安心できる状況ではありません。自動車と半導体の主要輸出国である韓国は、8月1日の期限直前になって米国と合意に達しました。その結果、25%まで引き上げられる可能性があった自動車への関税は15%に抑えられ、最悪の事態は回避されたとされます。
しかし、専門家の見方は厳しいままです。合意内容の詳細や根拠となる算定方法は十分に公開されておらず、一部には既存の自由貿易協定の意味を空洞化させかねないとの懸念もあります。
さらに、韓国側が提案した3,500億ドル規模の対米投資と1,000億ドル分の米国産エネルギー購入という条件も、その具体像が明らかになっていません。関税の一部引き下げと引き換えに、長期的にはそれ以上の譲歩を強いられるのではないかという不安が、ソウルの政財界にくすぶっています。
米国内にも跳ね返るコスト:物価高と景気懸念
関税は海外だけでなく、米国内経済にも影響を広げています。輸入コストの上昇は小売価格に波及し、大手小売企業ウォルマートなどは今後の値上げを示唆しました。家計の負担増は、個人消費の減速要因となりかねません。
格付け会社フィッチ・レーティングスは、複数の米国産業の見通しを最大25%幅で引き下げ、「先行きが悪化している」と評価しました。貿易政策の不透明さが企業の投資判断を鈍らせているためです。
アナリストの中には、こうした関税政策を、2026年の米中間選挙に向けた政治的な計算と見る向きもあります。トランプ政権が掲げる「アメリカ・ファースト」の姿勢を内外にアピールしつつ、最近の減税策を支える財源を関税収入で賄おうとする「ポピュリズム的な経済運営」との評価も出ています。
OECDは世界成長率を下方修正:関税がインフレ要因に
国際機関も警鐘を鳴らしています。経済協力開発機構(OECD)は最近の報告書で、世界の実質成長率見通しを2024年の3.1%から、2025年と2026年はいずれも2.9%へと引き下げました。その主因として挙げられたのが、米国の新関税による貿易コストの上昇と、政策不透明感の高まりです。
米国自身の成長率見通しも、2025年が1.6%、2026年が1.5%へと低下が見込まれています。関税が輸入物価を押し上げ、インフレ圧力を強めることで、実質所得や企業収益を圧迫する可能性が指摘されています。
OECDはさらに、もし米国が他のすべての経済に対して追加で10%の関税を課した場合、2年以内に世界の経済規模が0.3%縮小し、米国経済も0.6%のマイナス成長に陥るとのシナリオを示しました。関税は必ずしも「勝者なきゲーム」になりうることを示す数字です。
中国とグローバルサウスが掲げる多国間主義
こうした状況の中で、中国やグローバルサウス諸国は、多国間の貿易ルールを重視する立場を改めて強調しています。BRICS(新興5カ国)のメンバーは共同声明で、一方的な関税措置の拡大に「深刻な懸念」を表明し、世界経済全体への悪影響を警告しました。
中国は、世界貿易機関(WTO)を中心とする多国間貿易体制への支持を改めて表明し、対話と協調による問題解決を呼びかけています。貿易摩擦が拡大する局面だからこそ、ルールに基づく枠組みを維持・強化する必要があるというメッセージです。
日本への示唆:対米依存をどうマネージするか
日本は今回、英国などとともに土壇場の交渉で比較的低い関税率に抑えることに成功したとされています。しかし、それは「危機を回避した」というよりも、「危機がいつでも再燃しうる」ことを浮き彫りにした出来事とも言えます。
日本企業にとってのポイントは、次の3点でしょう。
- 対米輸出に過度に依存しない市場多角化:アジアや欧州、グローバルサウスとの取引拡大
- 関税リスクを織り込んだサプライチェーン再設計:生産拠点や調達先の分散
- WTOなど多国間枠組みの議論への積極的な関与:ルールづくりの場で存在感を高めること
トランプ政権の新関税は、単なる通商政策を超えて、世界経済の構図と国際政治の力学を揺さぶっています。とくにグローバルサウスにとっては、成長戦略の前提が根本から問い直される局面です。
一方で、この混乱は、輸出先の分散やサプライチェーンの見直し、多国間協調の再構築など、長年先送りされてきた課題に向き合うきっかけにもなりえます。日本を含む各国が、短期的な損得を超えてどのような選択をするのか。2026年以降の世界経済を左右する重要なテーマになりそうです。
Reference(s):
Trump's new tariffs deepen global divides amid economic fallout
cgtn.com








