EUと米国の新関税合意、得をしないEU? スペイン経済学者が警鐘
2025年7月末に合意が伝えられた欧州連合(EU)と米国の新たな関税合意について、スペインの経済学者が「EUの得るものはほとんどない」と警鐘を鳴らしています。ドイツやスペインの自動車産業への打撃、そしてEUの交渉力の弱さが指摘されており、2025年の国際経済を考えるうえで見過ごせないテーマとなっています。
EUと米国の新関税合意のポイント
今回のEU・米国の新関税合意では、主に次の点が特徴だとされています。
- 米国がEUからの輸入品に一律15%の関税を課す「ベースライン関税」を導入
- 一方で、多くの米国からEUへの輸出品には関税がかからないとされる
- 欧州委員会は、この合意を全面実施するために「関連する内部手続きに沿って、さらに交渉を進める」と説明
つまり、EU側の輸出品には広く追加負担が生じる一方で、米国側の輸出品は従来通り、もしくはより有利な条件が維持される構図がにじみます。
スペインの経済学者「EUの唯一のプラスは30%ではなく15%になったこと」
バルセロナ大学の経済学准教授であるセルジ・バスコ氏は、中国の通信社・新華社の取材に対し、この新関税合意について厳しい評価を示しました。
バスコ氏は、米国がEU製品に課す関税が15%となった点について、「ヨーロッパにとって唯一のプラスは、30%ではなく15%になったことだ」と述べています。裏を返せば、関税が引き下げられたというより、「高関税を回避できたにすぎない」という見方です。
EU側にとっては、より高い関税という最悪のシナリオを回避したものの、米国より不利な条件での貿易を受け入れた形とも言えます。
ドイツが「最大の敗者」に? 自動車産業への打撃
バスコ氏がとくに懸念しているのが、EUの中核経済であるドイツへの影響です。同氏は、「ドイツは米国への最大の輸出国であり、もっとも多くを失うだろう」と指摘します。
米国向けのドイツ車には15%の関税がかかることになり、バスコ氏は「ドイツ車の米国での販売は減少する可能性が高い」とみています。価格が上昇すれば、現地の消費者が他国メーカーや米国メーカーを選ぶ動きが強まりやすくなるためです。
さらに、この影響はドイツ国内だけにとどまらないとされています。ドイツの自動車メーカーは、スペインで製造された部品を多く使っており、バスコ氏は「ドイツが販売する多くの車にはスペイン製の部品が使われているため、スペインの自動車産業も打撃を受ける」と述べています。
- 米国の関税引き上げでドイツ車の販売が減少
- ドイツ車向けの部品需要が落ち込み、スペインのサプライヤーも影響
- サプライチェーン全体で雇用や投資が慎重になるリスク
このように、一見すると「ドイツの問題」に見える関税も、実際にはEU域内の複雑な生産ネットワークを通じて、スペインなど他の国の企業や雇用にも波及しうると警戒されています。
EU指導部への批判「対応が弱すぎる」
今回の合意内容以上に、バスコ氏が問題視しているのがEUの交渉スタンスです。同氏は、欧州側の対応について「弱すぎた」と批判し、「EUには米国の圧力に対抗するための手段がある」と指摘しました。
また、交渉過程については「さまざまな声が存在したことで交渉が妨げられたのかもしれないが、反応は弱かったように見える」と語り、EU内部の足並みの乱れが結果として交渉力の低下につながった可能性を示唆しています。
別の論評では、今回の合意をめぐって「安定か、それともトランプ氏がEU首脳を『朝食代わりに食べた』のか」といった強い表現も見られ、欧州側がどこまで主導権を握れていたのかを疑問視する声も出ています。
まだ「非拘束」の枠組み 最終決着はこれから
こうした懸念がある一方で、バスコ氏は今回の合意が「非拘束的な合意」にすぎない点も強調しています。欧州委員会は声明の中で、EUと米国の双方が「政治的合意を完全に実行するため、各々の内部手続きに沿ってさらなる交渉を行う」と説明しています。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、この合意を「枠組み」と表現しており、まだ最終的な細部は詰め切られていないことがうかがえます。
さらに、この合意を本格的に発効させるには、EU加盟27カ国すべての承認が必要です。加盟国の大使級が月曜日に会合を開く予定だと伝えられており、2025年夏の時点では、まだ各国レベルでの議論と承認プロセスが続いていました。
2025年8月1日には、ブリュッセルの欧州委員会本部の様子を写した写真が報じられ、この合意をめぐる欧州内の関心と緊張感を象徴する光景として伝えられています。
2025年のEU・米国関係をどう見るか
今回の新関税合意をめぐる議論は、単なる自動車関税の話にとどまりません。バスコ氏の指摘からは、次のような論点が浮かび上がります。
- 高関税という「最悪」を避けただけで、EUは不利な条件を受け入れたのではないか
- ドイツだけでなく、スペインを含むEU全体の産業連関に影響が及ぶリスク
- 多様な利害を抱えるEUが、いかにして交渉の場で一枚岩になれるのか
- 「非拘束の枠組み」という曖昧さが、今後の再交渉の余地にもつながるのか
関税という数字の裏側には、企業の投資判断やサプライチェーンの再編、雇用の行方といった現実的なインパクトがあります。読者のみなさんも、「もし自分がEUの交渉担当者だったら、どこまで譲り、何を守るべきだったのか」という視点で、このニュースをもう一度読み直してみると、新たな問いが見えてくるかもしれません。
2025年の国際ニュースとして、EUと米国の関税合意は、欧州経済の将来像と、国際交渉における「力」と「結束」の重要性を考えさせる出来事となっています。
Reference(s):
Spanish economist says EU gains little from new tariff deal with U.S.
cgtn.com








