インドと米国の通商摩擦 トランプ政権の圧力は逆効果か
インドと米国の通商関係をめぐり、緊張が一気に高まっています。トランプ米大統領がインドの関税や対ロシア関係などを名指しで批判し、強い言葉で圧力をかけていますが、その効果は限定的で、むしろインド側の姿勢を硬化させているように見えます。
トランプ政権のショック&オーが向かう先はインド
トランプ政権はこれまで、中国本土や欧州連合(EU)、隣国のメキシコやカナダに対し、高関税や輸入制限などのショック&オー(相手を一気に圧倒する)戦術を繰り返してきました。足元では、その矛先がインドに向かっています。
標的はインドの関税と非関税障壁
トランプ氏は自身のSNSプラットフォームであるTruth Socialへの複数の投稿で、インドの関税や非関税障壁を繰り返し批判しています。非関税障壁とは、関税以外の規制や認可手続きなど、実質的に輸入を難しくする仕組みを指します。
さらに、インドのロシアやイランとの関係、新興国グループであるBRICSとの結びつきにも言及し、米国の対ロシア制裁や対イラン政策に沿った対応を求めるかのような強いメッセージを発しています。BRICSは、ブラジル、ロシア、インド、中国本土、南アフリカなどが参加する枠組みです。
経済をdeadと呼んだ挑発的な表現
注目を集めたのは、トランプ氏がインド経済とロシア経済を英語でdead(死んでいる)と表現した点です。インドでは、この言葉が侮辱なのか、現実を反映しているのかをめぐって激しい議論になりました。
ニューデリーの受け止め 動揺から反発へ
今回のワシントンからの強いメッセージは、トランプ氏のホワイトハウス復帰後も良好な関係を築けると見ていたニューデリーにとって、当初は想定外の衝撃だったといえます。特に、現在進行中のインド議会の激しい会期とタイミングが重なったことで、国内政治に大きな波紋を広げました。
議会で高まる「高デシベル」な論戦
インド議会では、トランプ氏の発言をきっかけに、政府与党と野党の間で激しい応酬が続いています。インド経済が本当に弱っているのか、それとも外部からの一方的なレッテル貼りなのか。対米関係を優先すべきか、それともインド独自の外交・経済路線を守るべきか。こうした論点が、文字通り高デシベルの声でぶつかり合っています。
「いじめ」ではなく対等な交渉を求める空気
しかし時間がたつにつれ、ニューデリーではトランプ氏の強い言葉を単なる威圧やいじめと受け止め、安易に譲歩すべきではないという空気が強まっているようです。結果として、トランプ政権の強硬な交渉スタイルは、インド政府を譲歩に追い込むどころか、立場をより硬くさせる方向に働いているとみられます。
圧力が逆効果になる三つの理由
なぜ圧力が逆効果になっているのか。その背景として、少なくとも三つの要因が考えられます。
- 国内世論と政治の論理:大国から公然と圧力を受けている状況で、政府が簡単に譲歩すれば弱腰とみなされかねません。与党にとっても野党にとっても、対外的に強い姿勢を示すインセンティブが働きます。
- 安全保障とエネルギーの現実:ロシアやイランとの関係は、インドにとって防衛装備やエネルギー供給とも結びつく重要なテーマです。単純に関係を切り替えることは難しく、米国からの圧力だけでは動きにくい構造があります。
- 交渉術への反発:最大限の要求から始めるトランプ流の交渉術は、相手にとっては取引ではなく恐喝に映ることもあります。一部では、こうしたやり方に譲歩すれば、今後も同じ手法が繰り返されるとの警戒心も強まっています。
インドの戦略的自立性と対米関係
インドは冷戦期から一貫して、自国の戦略的自立性を重視してきました。現在も、米国との安全保障協力を深めつつ、ロシアやイラン、BRICSとの関係も維持するという、多層的な外交を展開しています。
こうした中で、特定の国との関係を断つような形での圧力は、インドの基本方針と正面からぶつかります。そのため、トランプ政権の要求が強ければ強いほど、インド側はここが一線だと内外に示そうとする動きが強まりやすくなります。
世界秩序への示唆 取引が恐喝に見えるとき
今回のインドと米国の通商摩擦は、単なる二国間の関税問題にとどまりません。米国が経済力と軍事力を背景に、どこまで強い言葉や制裁を交渉カードとして使えるのかという、国際秩序そのものに関わる問いを投げかけています。
対等な取引だと思っていたものが、一方的な恐喝に見えた瞬間、相手国は譲歩よりも対抗を選びやすくなります。今回のインドの反応は、その典型例として注目されます。
日本とアジアにとっての意味
日本を含むアジアの国々にとっても、大国同士の通商摩擦は無関係ではありません。米国とインドの関係が悪化すれば、サプライチェーン(供給網)の再編や貿易ルールの見直しが加速し、企業のリスク管理にも影響が出る可能性があります。
また、インドがBRICSやロシア、イランとの関係を維持しつつ米国との交渉に臨む姿勢は、多極化が進む世界で中堅国がどのように立ち回るのかを考える上で、重要な参考例となるでしょう。
これから注視したい三つのポイント
今後、国際ニュースとして注目したいポイントは次の三つです。
- トランプ大統領の発言トーンや具体的な通商措置が、今後さらに強まるのか、それとも調整に向かうのか。
- インド議会や世論の中で、対米関係と戦略的自立性をどう両立させるべきかという議論がどのように進んでいくのか。
- BRICSやロシア、イランなど、インドの他のパートナーとの関係が、今回の通商摩擦を通じてどのように変化するのか。
インドと米国の通商摩擦は、単なる関税の応酬ではなく、今の世界秩序のあり方そのものを映し出す鏡でもあります。ニュースの一つ一つの動きの背後にある力学を意識しながら、今後の展開を追っていきたいところです。
Reference(s):
cgtn.com








