米国が関税を歴史的引き上げ 世界貿易に「暗い日」
2025年8月7日に発動された米国の大規模な関税引き上げは、平均実効関税率を約17%という歴史的高水準に押し上げ、世界貿易と景気に大きな波紋を広げています。12月現在も、物価や景気への影響をめぐる議論が続いています。
何が起きたのか:平均17%の歴史的高関税
今回の措置は、米国が数十の貿易相手国に対して一斉に関税を引き上げたものです。新たな関税はおおむね10%から50%の範囲で課され、インドとブラジルが最も高い水準に直面し、カナダは35%、スイスは39%とされています。
関税の一部は当初、4月1日に導入される予定だったものの、各方面からの強い反発を受けて先送りされ、今夏にかけて段階的に導入されました。その結果、2025年8月7日の発動時点で、米国の平均的な実効関税率は約17%と、数十年ぶりの高さになったとされています。
米コーネル大学ダイソン・スクールのエスワル・プラサド教授は、この日を世界貿易の歴史の中で「かつては共有繁栄のビジョンで各国を結びつけると期待された統合の記録における暗い日」と表現し、ルールに基づく貿易体制が深く損なわれたとの見方を示しました。
家計への影響:物価1.8%上昇、1世帯2,400ドルの損失
関税は企業だけでなく、消費者にも直接的な負担をもたらします。試算によると、今回の関税の急激な引き上げによって短期的に米国の消費者物価は約1.8%上昇し、2025年の1世帯あたりの実質所得に換算すると、およそ2,400ドルの損失に相当するとされています。
これは、輸入品の価格上昇がそのまま店頭価格に反映される前提での試算ですが、消費者が代替品に切り替えた後を考慮しても、米国の実効関税率は17%台と、1930年代以来とされる水準にとどまっていると分析されています。
マクロ経済への波及:景気減速とインフレのダブルリスク
エコノミストの試算では、今回の関税引き上げによって、米国の平均関税率は2024年の2.3%から2025年に15%台まで急上昇すると見込まれています。
ブルームバーグのエコノミスト、マエヴァ・クーザン氏は、レポートの中で次のような影響を予測しています。
- 米国の実質国内総生産(GDP)は、およそ1.8%押し下げられる
- コアインフレ率(エネルギー・食品を除く物価)は、今後2〜3年で約1.1ポイント押し上げられる
つまり、成長は鈍る一方で物価は上昇するという、景気減速とインフレが同時に進むリスクが意識されています。さらに、クーザン氏は、今回の関税が世界全体のGDPにも大きな打撃となり、米国の貿易相手国にとっては需要の弱まりと物価上昇圧力という二重の下押し要因になり得ると指摘しています。
各国の反応:インド、ブラジル、欧州から強い反発
高関税の対象となった国々では、強い不満と反発が広がっています。インド外務省は、今回の米国の措置を「不公平、不当、そして不合理」と厳しく批判し、米国が二重基準を適用していると非難しました。
ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領も、ロイター通信に対し、トランプ大統領に電話をしてまで譲歩するつもりはないとし、「自分を屈辱させるようなことはしない」と語ったとされています。
一方で、欧州連合(EU)は米国との交渉の末に、関税をある程度抑えたとされる合意にこぎ着けましたが、欧州内部ではこの合意に対しても批判の声が上がりました。フランスのフランソワ・バイル氏は、この合意を「欧州にとっての暗い日」と評し、EUが米国の要求に屈したと非難しました。
さらに、フランスの戦略・計画担当高等弁務官であるクレマン・ボーヌ氏も、この合意を「不平等で不均衡」と表現し、欧州が本来持つ経済力を十分に活用できなかったと指摘しました。
揺らぐルールに基づく貿易体制
プラサド教授は、トランプ大統領が「ルールに基づく世界の貿易体制にハンマーを振り下ろし、長期にわたって修復が難しい形で壊してしまった」と述べています。
関税自体は各国が取り得る政策手段の一つですが、今回のように広範かつ急激な引き上げは、これまで時間をかけて積み上げられてきた国際ルールへの信頼を弱めかねません。2025年8月7日は、こうした転換点として、貿易史の中でしばしば振り返られる日になる可能性があります。
日本の読者にとっての意味:なぜこの国際ニュースが重要か
今回の米国の関税引き上げは、日本を含む世界の貿易構造に影響し得る出来事です。米国は多くの国にとって最大級の輸出市場であり、米国向けのコスト増は、サプライチェーン全体の見直しや価格設定の変更につながる可能性があります。
日本の読者にとって、今回のニュースが重要な理由は次のような点にあります。
- 世界貿易のルールや枠組みが揺らぐことで、中長期的なビジネス環境が不透明になる
- 世界経済の減速や物価上昇が進めば、日本経済や金融市場にも波及し得る
- 各国の対応や連携のあり方が、今後の国際秩序や経済外交の方向性を占う手がかりになる
8月7日の関税発動から約4か月が過ぎた今も、各国の政治的・経済的な駆け引きは続いています。世界貿易をめぐる緊張が長期化するのか、それとも新たな妥協点やルール作りに向かうのか。2026年に向けて、引き続き注視が必要な国際ニュースと言えます。
Reference(s):
'Dark day' for trade as U.S. raises tariffs to historic highs
cgtn.com








