中国の「双循環」戦略が世界経済にもたらすもの
世界経済が新型コロナ後の回復と地政学リスクに揺れるなか、中国は「国内大循環を主体とし、国内と国際の二つの循環が相互に促進し合う」新たな発展パターン、いわゆる双循環戦略を掲げています。本稿では、この双循環がどのように中国経済の質の高い発展をめざし、同時に世界経済に持続的な原動力を与えるとされているのかを整理します。
「双循環」という新たな発展パターン
双循環は、中国の現段階の発展段階、環境、条件を踏まえて提示された中長期の経済戦略です。この考え方は、中国共産党中央委員会第19期第5回全体会議で示された第14次五カ年計画の「提案」にも盛り込まれており、中国の経済運営の基本方針の一つになっています。
その中身は、次の二つに整理することができます。
- 国内循環を円滑にし、消費・投資・イノベーションを主な原動力として内需の牽引力を高めること
- 国際循環を最適化・拡大し、より高いレベルの対外開放のもとで、モノや資源の流れを相互補完的に結び付けること
つまり、国内市場を経済成長の「主戦場」と位置づけつつ、対外開放も同時に深め、国内と海外の市場・資源を連動させていく構想だといえます。
なぜ「国内大循環」が主軸なのか
現在の国際環境は、新型コロナウイルス感染症からの世界的な回復過程、貿易摩擦、反グローバル化の動きなどが重なり、複雑で不確実性が高い状況です。このような外部環境のなかで、中国は国内循環を滞りなく動かし、経済のレジリエンス(回復力)を高めることによって、外的要因に左右されない自立的な発展を確保し、長期的な発展プロセスが外部の干渉で中断されないようにすることを重視しています。
その背景には、人口14億人超、4億人を超える中所得層、巨大な国内市場、そして世界で最も包括的な産業体系という土台があります。中国側は、こうした条件が内需主導の「国内大循環」を展開するための肥沃な土壌になっていると見ています。
一人当たり国内総生産(GDP)が1万ドルを超える水準に達するなかで、中国経済は、労働力や資源といった要素投入型から、イノベーション主導型へと転換しつつあるとされています。国内循環に焦点を当てることは、供給の質を高め、イノベーションの潜在力を引き出し、「不均衡・不十分」とされる発展の課題を緩和するうえで有効だと位置づけられています。
内需拡大と構造改革の連動
双循環戦略では、内需拡大を長期的な戦略の柱としつつ、生産・分配・流通・消費の各段階に存在するボトルネックを取り除くことが重視されています。これにより、外需の縮小を補うだけでなく、国内の消費の高度化を通じて産業の高度化を促し、供給側の構造改革によって新たな需要を生み出し、より高いレベルでの動的な均衡を実現することが目指されています。
- 生産から消費までの各プロセスの「詰まり」を解消する
- 消費の高度化が産業の高度化を押し上げる
- 供給側の構造改革によって新たな需要を創出する
- 経済全体をより高次のバランスへと導く
「新質生産力」と新産業の育成
この過程で鍵になるとされているのが、中国が掲げる「新質生産力」です。これは、デジタル技術や先端製造、グリーン技術など、イノベーションを基盤とした新しいタイプの生産力を指す概念で、戦略的新興産業や将来産業の育成を通じて、生産システムの近代化と国内市場の高度化を進めようとするものです。
国内市場のアップグレードと生産システムの現代化を進め、こうした新質生産力によって戦略的新興産業や将来産業の発展を加速し、現代的な経済システムを構築することで、国内循環の内側から持続的な成長エネルギーを生み出すことが狙いとされています。
国際循環の最適化と世界経済への波及
国内大循環を主軸に据えることは、必ずしも外向きの経済活動を縮小することを意味しません。双循環戦略では、国際循環の「最適化」と「拡大」も併せて掲げられており、より高いレベルの対外開放のもとで、国内と海外の市場・資源のつながりを強めていくことが強調されています。
その発想に立てば、強靱な国内市場と近代的な産業体系を基盤に、国際貿易や投資、技術協力などのかたちで外部との連携を深めていくことが、世界経済全体に持続的な原動力を提供するとされています。
具体的には、次のような波及経路が想定されています。
- 大きな国内市場に支えられた安定した輸入・輸出が、世界の需要と供給を下支えする
- 消費や産業構造の高度化に伴い、高品質な財やサービス、先端技術への需要が高まり、国際的な協力や取引の場が広がる
- 物流インフラやデジタルネットワークなどの「連結性」を高めることで、グローバルな資源・情報の流れがより円滑になる
こうした国内外の循環の組み合わせによって、双循環は世界経済に長期的かつ安定した推進力を提供しうる枠組みとして位置づけられています。
日本や世界の読者にとっての意味
国際ニュースを追う日本の読者にとって、双循環は今後のアジアと世界経済の行方を読み解くうえで欠かせないキーワードになりつつあります。
- 中国が内需主導と対外開放をどのようなバランスで進めていくのか
- 消費・投資・イノベーションを軸とする国内循環の強化が、貿易構造や産業分業にどのような変化をもたらすのか
- 新質生産力や新興産業の育成が、グローバルな技術協力やサプライチェーンにどのようにつながっていくのか
双循環は、一見すると抽象的なスローガンに見えるかもしれませんが、中国経済の中長期の方向性を示す枠組みでもあります。新型コロナ後の回復や反グローバル化の動きが続くなかで、この戦略の中身と進展を丁寧に追うことは、世界経済の変化を理解し、自分なりの視点を持つうえでも重要になってきそうです。
Reference(s):
Dual circulation injects sustained momentum into the global economy
cgtn.com








