米中関税の引き上げ停止が90日延長 「不安定な安定」の行方
米国と中国が、互いに課している24%の追加関税の引き上げ停止をさらに90日間延長することになりました。通商摩擦の激化はひとまず避けられましたが、その裏側には、解決の糸口が見えない不安定さもにじみます。
米中関税「引き上げ停止」が3度目の延長
ホワイトハウスの説明によると、トランプ米大統領は、中国向けのより高い関税の発動を引き続き見送る大統領令に署名し、停止措置を新たに90日間延長しました。市場では予想された判断だったと受け止められています。
今回の延長は、7月28〜29日にスウェーデンのストックホルムで行われた米中の経済・貿易協議を踏まえたものです。この協議で両国は、24%の追加関税と、それに対する中国側の対抗措置について、当面は停止を維持する方針をあらためて確認しました。
この停止延長は、2025年5月のジュネーブ協議での合意以降、すでに3回目です。4カ月以上にわたる集中的な交渉を通じて、双方は互いの「譲れるライン」と「譲れないライン」を見極めつつあり、時間を買うための延長が現実的な選択肢になっています。
今回の延長で押さえておきたいポイント
- 24%の相互関税の発動停止をさらに90日間延長
- 2025年5月のジュネーブ協議から数えて3度目の延長
- 対立の激化は避けたいが、抜本的な妥協には至っていない
なぜ関税を「上げる」ことも「下げる」ことも難しいのか
トランプ政権は一貫して関税を主要な交渉カードとして用いてきました。そのため、中国製品にかかる関税を大規模に引き下げることは、国内政治の観点から見て非常に難しくなっています。
現状で米側が検討しうる譲歩は、24%の追加関税を回避したうえで、フェンタニル問題に関連する品目に限って最大20%の関税引き下げを行うといった、きわめて限定的なものにとどまるとされています。しかも、合成麻薬フェンタニルをめぐる要求水準は、トランプ氏の第1期政権のときよりもさらに厳しくなっているとされ、交渉は難航しています。
結果として、関税を引き上げるにも、引き下げるにも強い制約がかかり、「現状維持の延長」という選択肢に収束しているのが実情です。米国のルトニック商務長官は、11月中旬までに包括合意に至らなければ、さらに90日延長する可能性にも言及しており、「90日ごとの休戦」が常態化するシナリオも浮かびます。
分野別の関税とインフレが次の「火種」に
全体として大きな制度変更は見込みにくい一方で、特定分野だけ関税を免除したり、逆に上乗せしたりするピンポイントの措置は今後もあり得ます。こうした分野別の動きは、突破口となる可能性がある一方で、新たな火種にもなりかねません。
すでに、多くの国に課された関税の影響が、米国内の市場で本格的に表れ始めています。とくに重要になるのが、第3・第4四半期のインフレ動向です。感謝祭後のクリスマス商戦期にかけて消費者物価が大きく上昇すれば、一般の米国民が関税政策の負担を実感する局面が強まります。
物価高による政治的コストが高くなりすぎれば、トランプ政権も何らかの軌道修正を迫られる可能性があります。少なくとも、世論の反発を抑えつつ柔軟姿勢をアピールできる名目上の譲歩を探る動きが強まるかもしれません。
首脳外交は「ゲームチェンジャー」になりうるか
6月5日には、トランプ大統領の呼びかけで行われた電話会談の中で、習近平国家主席がトランプ氏の再訪中を歓迎する考えを示しました。トランプ氏は、首脳同士の個人的な関係づくりを重視するスタイルで知られており、首脳会談が実現して順調に進めば、大きな転換点になるとの見方もあります。
ただし、第1期政権の経験は楽観を許しません。これまでも米中は、段階的な合意をまとめた後に、ワシントン側が再び圧力を強めるというパターンを繰り返してきました。交渉、部分合意、追加要求というサイクルが続く限り、単発の首脳会談だけで構造的な対立が解消されるとは言い難い状況です。
日本・EUを含む各国の「時間稼ぎ」戦略
米国の関税政策は、中国だけでなく、日本や欧州連合(EU)など多くの経済圏にも影響を与えています。一部の国や地域は、ワシントンと枠組み合意と呼ばれる取り決めを結んでいますが、その中身は抽象的な将来目標にとどまり、実際の市場開放など具体的な行動は先送りされているケースもあります。
日本やEUは、米国からの関税一時緩和と引き換えに、こうした曖昧なコミットメントを提示し、本格的な対応が必要になるころには、すでにトランプ政権の任期末が近づいているのではないかと見込んで時間を稼いでいる面もあります。ただ、このやり方は米経済にも当面の利益をもたらしにくく、関税問題の長期化リスクを高める要因にもなりえます。
「不安定な安定」と向き合うために
こうした状況の中で、今回の延長は、対立のエスカレートを防ぐ小休止であると同時に、問題が先送りされただけでもあります。米中関係は、競争と交渉、相互依存が入り混じる複雑な関係であり、政治環境や米国経済の基本条件が大きく変わらない限り、根本的な解決は見通しにくいままです。
日本を含む各国の企業や投資家にとって重要なのは、次の90日間で何が起きるかだけでなく、なぜ米中が抜本的な決着に踏み込めないのかという構造的な要因を見ておくことです。短期的な延長のニュースの裏にある力学を読み解くことが、これからの国際経済を考えるうえでの出発点になりそうです。
Reference(s):
China, U.S. extend tariff hike suspension: Stability amid uncertainty
cgtn.com








