英国失業率が4年ぶり高水準に 米国関税圧力で労働市場が冷え込み
英国(イギリス)の失業率が4年ぶりの高水準となり、かつては「加熱気味」と言われた労働市場が一気に冷え込みつつあります。背景には、国内景気の弱さに加え、米国による関税引き上げなどの国際環境の不透明さが重なっていると専門家は見ています。
英国失業率が4.7%に上昇 4年ぶりの高さ
最新の公式統計によると、英国の今年第2四半期の失業率は4.7%となり、過去4年間で最も高い水準になりました。新型コロナ後に一時「超売り手市場」となっていた英国の労働市場は、明確に減速局面に入った形です。
シンクタンク「レゾリューション・ファウンデーション」のシニアエコノミスト、ハンナ・スローター氏は、英国のポストパンデミック期の労働市場について「かつては非常に熱かったが、その時期は公式に終わった」と指摘。過去8か月で16万5,000人分の給与支払いベースの雇用が失われ、「労働市場は緩み、さらに緩んでいる」と述べています。
求人数・雇用者数も減少 広がる「冷え込み」
英国家統計局(ONS)が公表した5〜7月期のデータでは、求人需要の落ち込みが鮮明になっています。
- 求人数は前期比5.8%減の71万8,000件
- 調査対象18業種のうち16業種で求人数が減少
- とくに「芸術・娯楽・レクリエーション」分野では前期比17.6%減と大幅な落ち込み
給与支払いベースの雇用者数も減少しています。6月の雇用者数は、1年前と比べて14万9,000人(0.5%)減少し、前月比でも2万6,000人(0.1%)減りました。7月の速報値では雇用者数は3,030万人と見込まれています。
ONSの経済統計担当ディレクター、リズ・マッキューン氏は「これらの数字を総合すると、労働市場の冷え込みが続いていることを示している」とコメントしています。
賃金は伸びても雇用は不安定 企業のジレンマ
一方で、賃金は依然として高い伸びを維持しています。ボーナスを除く賃金の伸び率は、今年3〜6月期で5%と、前期から横ばいながら高水準が続いています。これは、物価上昇圧力が根強いことを示す数字でもあります。
「ラーニング・アンド・ワーク・インスティテュート」のスティーブン・エバンズ最高経営責任者(CEO)によると、雇用減少が最も大きいのは小売業と飲食・宿泊などのホスピタリティ産業です。これらの分野は、現在、賃金の伸びが最も強い分野でもあります。
エバンズ氏は、弱い景気、最低賃金の引き上げ、企業にとっての人件費やその他コストの増加が重なり、雇用削減につながっている可能性が高いと分析します。つまり、賃金アップは進む一方で、その負担に耐えられない企業は採用を控えたり、人員削減に踏み切ったりしているという構図です。
コスト高と不透明な世界情勢 企業の採用判断を直撃
英国商工会議所(BCC)のジェーン・グラトン公共政策担当副局長は、企業を取り巻く環境について「継続するコスト圧力に加え、関税やその他の世界的な不確実性が雇用創出を制約している」と説明します。その結果として、採用計画を先送りしたり、むしろ雇用を削減する動きも出ているといいます。
グラトン氏はまた、インフレの動向がイングランド銀行(英中銀)の金利判断に影響を与える可能性にも言及し、「賃金の高い伸びが、企業と経済全体にとって大きな課題になっている」と懸念を示しています。
米国の関税が英国雇用に与える影響
経済学者らは、米国による関税措置が、英国経済と雇用に追加のストレスを与えていると指摘します。
英産業連盟(CBI)で「労働の未来とスキル」を担当するマシュー・パーシバル氏は、世界経済の不透明感が企業の慎重姿勢を強めている要因の一つだと指摘。「新たな雇用の創出や、退職者の補充について、企業はかつてよりはるかに慎重になっている」と述べています。
バーミンガム大学のデービッド・ベイリー教授は、米国との貿易をめぐる状況が企業の採用判断に重くのしかかっていると分析します。同氏によると、米英間で貿易協定が結ばれているにもかかわらず、自動車関連製品の関税は2.5%から10%へと引き上げられました。
この関税引き上げは、ジャガー・ランドローバーのような大手自動車メーカーの輸出と採算を圧迫しており、同社は500人の人員削減を発表しています。ベイリー氏は「関税の影響は世界的な経済成長を鈍らせることにある。不確実性それ自体が、すでに大きな影響を与えている」と強調します。
専門家が警告する「停滞リスク」
リーズ大学のデービッド・スペンサー教授は、今回の統計が示すのは「英国経済の成長鈍化と、緩みつつある労働市場」だと指摘します。
同氏は、雇用にかかる税負担の増加、政策の不確実性、そして関税による圧力が、雇用の伸びを抑え、経済停滞のリスクを高めていると警鐘を鳴らしています。失業率の上昇と求人・雇用者数の減少は、その兆候だといえます。
日本の読者が押さえたい3つのポイント
今回の英国労働市場の動きは、日本にとっても他人事とは言えません。日本の読者が押さえておきたいポイントを3つに整理します。
- 賃金上昇と雇用維持のバランス:賃金を上げることと、雇用を維持・拡大することは、ときにトレードオフになります。英国のように賃金は伸びても雇用が減るケースは、日本でも議論の対象になりうるテーマです。
- 国際環境の変化が雇用に直結:米国の関税政策のような国際要因が、特定企業だけでなく、国全体の雇用や景気に影響しうることが改めて示されました。輸出産業の多い国にとっては重要な視点です。
- 「緩む労働市場」が意味するもの:一見すると、労働市場の「緩み」は、求職者にとって選択肢が増えるようにも見えます。しかし実際には、将来の成長期待の低下や、投資・採用の先送りという形で、家計と企業の双方に重くのしかかる可能性があります。
英国の最新動向は、賃金・物価・雇用の微妙なバランスが崩れたとき、労働市場がどのように変化するのかを示す一つのケーススタディと言えます。日本でも、金利や賃金、物価の議論が続くなかで、英国の経験から学べる点は少なくなさそうです。
Reference(s):
UK's unemployment hits 4-year high amid U.S. tariff pressure
cgtn.com








