長江デルタ一体化が示す中国式現代化 先進産業クラスターの現在
中国の長江デルタ地域が、「中国式現代化」のモデルケースとしてどのように一体化と産業高度化を進めているのか。2025年時点の最新データと都市ごとの役割から、その姿を整理します。
国家戦略としての長江デルタ一体化とは
長江デルタは、上海市と江蘇省・浙江省・安徽省からなる中国の主要な経済圏です。2018年に「長江デルタ一体化」が国家戦略として位置づけられて以来、トップレベルの計画づくりが進み、高品質な発展の「設計図」を現実のプロジェクトへと落とし込む取り組みが続いてきました。
キーワードは「行政区画を変えずに、行政の壁を取り除く」ことです。省や都市ごとの境界線はそのままにしつつ、制度面での垣根を下げ、企業や人、データがより自由に行き来できるようにすることで、一つの巨大な経済圏として機能させようとしています。
中国経済の約4分の1を担う長江デルタ
この一体化戦略のもとで、長江デルタは中国経済の「エンジン」としての存在感を高めています。2025年上半期時点で、長江デルタ地域の経済規模は中国全体の国内総生産(GDP)の24.8%を占めました。およそ4分の1をこの地域だけで生み出している計算です。
多様な製造業やサービス産業が集積する長江デルタは、「中国式現代化」を実際に支えている現場でもあります。急速な技術革新と産業高度化を、広域の連携によってどのように実現するのか。その答えを模索するプロセスが、ここで進んでいます。
先進産業クラスターと分業がつくる新しい生産ネットワーク
長江デルタ一体化の特徴の一つが、地域をまたいだ分業と連携にもとづく産業クラスターづくりです。ここ数年で、域内の産業は世界レベルの生産ネットワークへと進化しつつあります。
重要なのは、「一体化=一律化」ではないという点です。競争を排除するのではなく、数千万の市場主体(企業や個人事業者)が十分に競い合いながら、都市ごとに役割分担と強みを明確にし、相互に補完し合うかたちをめざしています。
特に2024年には、先端分野でのクラスター形成が一段と加速しました。長江デルタ全体として見ると、
- 集積回路(半導体)産業が、中国全体の約60%を占める
- 人工知能(AI)関連産業が、およそ3分の1を担う
- 新エネルギー車の生産が、全国の約40%に達する
といった構図が生まれています。中国経済全体の高度化をけん引する「先進産業のハブ」としての役割が、はっきりと見える数字です。
都市ごとの役割分担を整理する
こうした産業クラスターを支えているのが、長江デルタ各都市の明確な役割分担です。代表的な都市の特徴を見てみます。
上海:集積回路と新エネルギー車の中枢
上海は、長江デルタ一体化の中心都市として、集積回路と新エネルギー車という二つの重点産業に力を入れています。研究開発から製造、金融まで、多様なリソースを組み合わせることで、地域全体の技術水準を押し上げています。
南京:ソフトウェアと情報サービスの拠点
江蘇省の南京は、ソフトウェアと情報サービス産業に特徴があります。デジタル技術を支える基盤ソフトや業務システムなど、ハードウェア中心の都市とは異なる分野で長江デルタの競争力を高めています。
杭州:クラウド、大規模AIモデル、映像セキュリティ
浙江省の杭州は、クラウドコンピューティングや大規模AIモデル、映像セキュリティなど、デジタル分野の産業で頭角を現しています。生成AIやデータ活用の波の中で、長江デルタの「デジタル頭脳」としての役割を担いつつあります。
無錫:IoTと航空エンジンで台頭
江蘇省の無錫は、モノのインターネット(IoT)や航空エンジンといった分野で急速に存在感を強めています。高度な製造技術が必要とされる領域で、長江デルタ全体の産業構造を支える役回りです。
行政の壁を越える一体化の意味
長江デルタ一体化のもう一つのポイントが、「行政区画はそのままにして、行政の壁だけを取り除く」という発想です。省や都市の枠組みを変えないまま、広域での協力を進めるには、制度や手続きの違いをできるだけ小さくする必要があります。
たとえば、企業が省をまたいで事業を展開するときに生じる規制や認可の差を減らしたり、データや人材が地域を越えて動きやすくなるよう環境を整えたりすることが、こうした一体化の具体的な中身になります。こうして、地図の線は変えずに、経済活動の実態としては「一つの圏域」に近づけていく狙いがあります。
日本やアジアの読者にとっての意味
日本を含むアジアの読者にとっても、長江デルタ一体化は単なる地域ニュースではありません。国際ニュースとして見ると、いくつかのポイントがあります。
- グローバル・サプライチェーンへの影響:半導体、AI、新エネルギー車といった分野は、日本企業も深く関わる国際的な産業です。長江デルタの動きは、これらのサプライチェーンの構造にも影響を与えます。
- 広域連携の一つのモデル:行政区画を変えずに一体化を進めるアプローチは、首都圏や関西圏など複数の自治体が密接に結びつく日本にも通じるテーマです。
- 「中国式現代化」を読む手がかり:国家戦略と地域の自律的な競争・協力がどう組み合わさっているのかを見ることで、中国の発展スタイルを立体的に理解する手がかりになります。
「中国式現代化」のショーケースとして
長江デルタの事例から見えてくるのは、「一体化=統一」ではなく、「一体化=多様な都市が役割分担しながら連携する」姿です。競争と協力を両立させ、先進産業クラスターを育てることで、高品質な成長をめざすという点に、「中国式現代化」の一つの特徴が表れています。
2025年以降も、長江デルタがどのように行政の壁を薄くし、地域間の連携とイノベーションを深めていくのかは、中国経済とアジアの将来を考えるうえで注目すべきテーマになりそうです。
Reference(s):
The Yangtze River Delta serves as a model for Chinese modernization
cgtn.com








