米国の新学期費用が急騰 トランプ関税が「スクール税」に?
2025年の新学期を迎えたアメリカで、クレヨンからノートパソコンまで学校関連の出費が大きく膨らみ、「トランプ関税が事実上のスクール税になっている」との指摘が出ています。
国際ニュースとしてのアメリカ経済と教育費の動きを、日本語で分かりやすく整理しながら、物価上昇と関税政策が家庭と学生にどのような負担を与えているのかを見ていきます。
クレヨンからノートPCまで広がる「スクール税」
2025年秋、全米の学生たちが新学期を迎えるなか、家庭は学用品や衣料品、給食や弁当、電子機器、通学交通費に至るまで、幅広い分野で値上がりに直面しています。アメリカでは、これらの負担増が「スクール税」と皮肉交じりに呼ばれています。
U.S. President Donald Trumpは選挙戦で物価上昇を抑えると約束しましたが、現時点では新学期関連の費用はむしろ大きく増えています。トランプ政権の関税政策が、家計に間接的な増税としてのしかかっている構図です。
シンクタンクのGroundwork CollaborativeとCentury Foundationの分析によると、典型的な「新学期セット」の費用は今年、前年より7.3%上昇しました。これは、全体のインフレ率のおよそ3倍にあたる伸びです。
特に値上がりが大きかったのは次の品目です。
- インデックスカード(暗記カード):+42.6%
- ノート:+17.1%
- バインダー:+12.8%
- フォルダー:+12.7%
ランチボックスからクレヨン、電卓にいたるまで、家庭が負担する「小さな買い物」の積み重ねが重くなっています。
関税で文房具が高騰 早めの「買い出し」が新常識に
アメリカのバックパックやノート、のり、鉛筆の多くは中国から輸入されています。2025年春には、こうした輸入品に最大145%の関税が課され、その後の合意でも、多くの中国製品に30%の追加関税がかかる状況が続いています。
フロリダ州マイアミでは、39歳の女性が5歳の子どものための学用品を値上がり前に確保しようと、6月から買い物を始めました。クレヨン大手クレオラのクレヨン15箱、除菌ワイプ、ティコンドロガ鉛筆5パックなどをまとめ買いしたと報じられています。
米誌フォーチュンによれば、多くの家庭が新学期の数か月前から買い物を始め、夏のセール時期に割引を狙って「先取り購入」する動きが広がっています。小売業界のアナリストは、今年は特に、関税による値上がりを警戒して、リュックや文房具を例年より早く買い替える親が増えたと指摘します。
家計行動はどう変わったか
- 購入時期を前倒しし、夏のセールでまとめ買い
- 必要な学用品を「今年分は一気に」買っておく傾向
- 安価なブランドや代替品への乗り換え
関税というマクロな政策が、結果として「いつ何を買うか」という日々の家計行動を細かく変えている様子がうかがえます。
「30個の人形はいらない」 トランプ氏発言への違和感
関税が価格を押し上げるかどうか問われたトランプ大統領は、その影響を認めつつも、「子どもに30個の人形はいらない、3個でいい。鉛筆も250本ではなく5本でいい」とNBCのインタビュー(2025年5月)で語りました。
ぜいたく品を減らせばよいというメッセージですが、現場の親たちが直面しているのは、ノートや鉛筆、消耗品など「減らしづらい必需品」の値上がりです。教育現場からは、「節約できる部分はすでに削っている」という声も聞かれます。
給食とお弁当にも波及 食料品とバナナへの関税
Groundwork CollaborativeとCentury Foundationの試算では、今年の新学期、家庭が子どもの弁当や昼食のために支払う費用は、前年に比べて1人あたり約163ドル増える見込みです。
トランプ政権下で食料品価格も上昇しています。ジュースボックスやブドウ、イチゴといった人気のランチ用食材は平均で22%値上がりしました。バナナの価格も2025年5月に8%上昇しています。
さらにトランプ大統領は、8月1日に、アメリカにバナナをほぼ独占的に供給している5か国に対し、最大15%の関税を発表しました。子どもの弁当に欠かせない果物にまで関税が波及したことになります。
ノートPC・タブレットが倍近い値段に 学校現場の悲鳴
関税の影響を最も強く受けている分野の一つが電子機器です。あるミシガン州の学区では、ノートパソコン1台の価格が650ドルから1200ドル近くへとほぼ倍増したため、予定していた設備更新計画の4分の1を中止せざるを得なくなりました。
アナリストは、パソコンやタブレットの価格が、関税の影響で全体として30%以上上昇する可能性が高いと見ています。オンライン授業やデジタル教材の活用が進む中で、機器価格の高騰は学習環境の格差を広げかねません。
衣料品・靴にもじわり 統計に現れにくい値上がり
衣料品や靴も、関税の対象です。アメリカが輸入する衣料品や靴の多くは、中国やベトナム、カンボジアなどからのもので、現在は20%以上の関税が課されています。
統計上は、2025年7月のデータで靴の価格は前月比1.4%増、衣料品は0.1%増にとどまっています。しかし、小売事業者が値上げを抑えるために利益を削ったり、商品の質や仕入れ先を見直したりしている可能性もあり、消費者が実感する負担感は数字以上に大きいとみられます。
大学・大学院進学にも波及 連邦支援削減で格差拡大懸念
授業料は1年前から設定されることが多いため、学生はまだトランプ政権の経済政策の全ての影響を実感しているわけではありませんが、教育費全体が今後上昇していく兆しが出ています。
トランプ大統領は2025年7月4日、「One Big Beautiful Bill Act」に署名しました。この法律により、学校給食の補助や授業料の支払いを支える連邦ローンなど、日常的な暮らしを支える連邦支援が削減されました。
同法は、大学院生向けのある連邦ローンプログラムを廃止するとともに、大学院生の年間借入上限を2万500ドル、ロースクールやメディカルスクールの学生を年間5万ドルに制限しました。
しかし、多くの有力ロースクールでは、授業料と諸経費の合計が年間8万ドルを超えています。教育サービス会社Princeton Reviewのデータによると、州立医科大学に4年間通う場合の中央値コストは26万8000ドルに達します。
米誌U.S. News & World Reportが学生約1200人を対象に行った調査では、61%がこれらの変更によって影響を受けると答え、3分の1以上が「進学や進路計画を諦めた」と回答しました。
資産運用会社9i Capital GroupのCEOでポッドキャスト番組「9innings」のホストを務めるケビン・トンプソン氏は、ニュースウィークの取材に対し、「これでは低所得層の学生が進学を断念するか、高金利の民間ローンに押しやられる。長期的には、とりわけ医療などの分野を目指すマイノリティの若者にとって、教育へのアクセス格差を広げかねない」と警鐘を鳴らしています。
留学生減少と大学財政への影響
一方で、トランプ政権下の対外政策が「敵対的」と受け止められている影響もあり、アメリカの大学における留学生数は13%減少しました。留学生は多くの場合、授業料収入の重要な柱であり、その減少は大学財政に追加の負担をもたらしています。
現在、アメリカ人の72%が「過去25年で大学の学費負担はより難しくなった」と感じているという調査結果もあります。新学期の学用品から大学院の授業料まで、教育にかかる費用が幅広く上昇している状況です。
日本の読者への問いかけ:何を学ぶべきか
アメリカの事例は、日本で教育と家計、そして国際ニュースを考えるうえでも参考になります。いくつか論点を整理してみます。
- 貿易政策と「見えない税」
関税は企業の問題に見えますが、最終的には価格に転嫁され、家庭の負担増として現れます。政策の効果を見るとき、「誰がどこでコストを負っているのか」を丁寧に追うことが重要です。 - 教育費と格差の連鎖
奨学金やローンの条件が変わると、進学を諦める人が出てきます。教育費の設計は、その国の将来の人的資本と格差構造に直結します。 - データに基づく議論
今回のように、具体的な価格上昇率や学生調査の結果が示されることで、議論の土台が見えやすくなります。日本でも、教育費や物価をめぐる議論をデータとともにアップデートしていくことが求められます。
2025年のアメリカで起きている「スクール税」の議論は、遠い国の話ではなく、日本社会にとっても、自分たちの教育と暮らしのあり方を考え直すきっかけになりそうです。
Reference(s):
From crayons to laptops, tariffs push U.S. school expenses higher
cgtn.com








