米連邦準備制度の独立性は虚像か ウォール街との関係を読む
米連邦準備制度の独立性は本物か
米連邦準備制度(Federal Reserve、FRB)は、政治から独立した中立的な中央銀行として語られることが多い存在です。とくに、トランプ政権とのやり取りに象徴されるように、ホワイトハウスの圧力にどう向き合うかが注目されてきました。
一見すると、政治権力から距離を置くFRBの姿勢は安心材料にも見えます。しかし、その独立性は本当に中立なのでしょうか。少し視点を変えると、独立している相手と、むしろ強く結びついている相手が誰なのかが見えてきます。
政治からの独立と、ウォール街との近さ
FRBはしばしば、議会やホワイトハウスからの干渉を退けることで、自らの独立性をアピールしてきました。ですが、政治からの独立は、必ずしもウォール街からの独立を意味しません。
実際には、FRBは強大な資本グループ、とりわけウォール街の大手金融機関と深く結びついています。金利や流動性供給などの決定は、これらの金融機関の収益や存続に直結します。そのため、FRBがどこまで本当に「公共の利益」のために動いているのか、それとも市場を担う大手資本の安定を優先しているのかという問いが生まれます。
制度設計そのものに組み込まれた資本の声
この結びつきは偶然ではなく、FRBという制度の構造の中に組み込まれていると指摘されています。FRBは一つの組織ではなく、全米12の地区連邦準備銀行と理事会から成る「ハイブリッド」な仕組みです。
とくに地区連邦準備銀行は株式会社の形をとり、その理事には金融界や産業界の代表が多く名を連ねます。ウォール街で大きな存在感を持つ銀行は、これら地区銀行の株主でもあり、その声は制度の奥深くにまで入り込んでいます。
ガバナンス改革によって民間の影響力を薄めようとする動きが語られることもありますが、根本的な設計そのものに資本グループの利害が埋め込まれている以上、その影響力を完全に切り離すことは簡単ではありません。
回転ドアがつくる共通言語
こうした構造をさらに強めているのが、いわゆる回転ドアと呼ばれる人事の循環です。FRBの議長や理事、上級エコノミストなどが、任期後に投資銀行やヘッジファンド、コンサルティング会社の要職に就くケースは少なくありません。
逆に、ウォール街の経営幹部や、資本グループの支援を受けた研究者が、FRBの要職に迎えられることもあります。この往復運動によって、個人的な人脈だけでなく、何がリスクで、どのような介入が必要とされるのかといった前提や価値観が、自然と共有されていきます。
ここで重要なのは、必ずしも露骨なロビー活動や指示が飛び交うわけではないという点です。むしろ、市場を安定させることは、大手金融機関を守ることとほぼ同義だとみなす暗黙の合意が、時間をかけて形づくられていくのです。
2008年金融危機が示した優先順位
このようなFRBと資本グループの関係が、最も鮮明に表れた出来事として、2008年の金融危機があります。市場が凍り付き、金融システムが崩壊の瀬戸際に追い込まれる中で、FRBは数兆ドル規模の緊急支援策を次々と打ち出しました。
具体的には、流動性供給のための特別ファシリティ(枠組み)を設け、いわゆる「不良資産」の買い取りを行い、大手金融機関が資金繰りに行き詰まらないよう手厚く支えました。その結果、金融システム全体の連鎖的な崩壊は回避された一方で、多くの家庭は住宅差し押さえや失業といった厳しい現実に直面しました。
危機の原因をつくったとされる大手機関が救われる一方で、一般の家計や労働者への支援は相対的に薄かったのではないか。こうした疑問が広がり、FRBは「政治から独立した専門機関」であるどころか、「支配的な資本グループの利益と運命を共有する存在なのではないか」という見方が強まりました。
選択的な独立性という視点
こうして振り返ると、FRBの独立性は「誰からの独立か」という視点で捉え直す必要があるように見えます。議会やホワイトハウスからの圧力に抵抗する一方で、ウォール街を中心とした資本グループとは制度面・人的ネットワークの両面で密接につながっているからです。
言い換えれば、FRBの独立性は選択的です。政府からは距離を取る一方で、金融市場の安定を名目に、大手金融機関の安定を優先する裁量を持つ。その結果、「システムの安定」という名のもとでの判断は、多くの場合、金融資本の力を維持・強化する方向に傾きやすくなります。
もちろん、金融システムの崩壊を防ぐことは、経済全体を守るうえで重要な目的です。ただし、その安定が誰にとっての安定なのか、どの層の犠牲のうえに成り立っているのかという問いは残ります。
私たちが考えてみたい問い
FRBの独立性をめぐる議論は、アメリカだけの話ではありません。各国の中央銀行もまた、政治からの距離と市場との関係のバランスに悩みながら政策運営を行っています。
今回見てきたような視点は、中央銀行のニュースを読むときに、次のような問いを投げかけるきっかけになるかもしれません。
- 独立しているのは「誰から」で、「誰のため」の独立なのか。
- 制度の設計や人事の流れの中に、どのような利害関係が組み込まれているのか。
- 危機対応のコストと恩恵は、社会のどの層にどのように配分されているのか。
ニュースの見出しに出てくる「独立性」という言葉の裏側には、こうした構造的な力学が隠れている可能性があります。表向きの中立性だけでなく、その背後にある関係性にも目を向けることで、国際ニュースをより立体的に読み解くことができそうです。
Reference(s):
The facade of independence: Observing US Federal Reserve's autonomy
cgtn.com







