先進国の長期国債に何が起きているか 利回り上昇が示すリスク再評価
欧州を中心に、先進国の長期国債利回りが数年ぶりの高水準に張り付いています。本来なら利下げ観測が強まると、長期金利は低下するのが一般的ですが、いま市場では逆の動きが起きています。なぜなのでしょうか。
足元の値動きの裏側では、短期のテクニカル要因だけでなく、先進国の財政と国債の「安全資産」としての位置づけを見直す、より深い変化が進んでいるとみる見方が強まっています。
足元の動き:テクニカル要因だけでは説明しきれない
最近の欧州長期国債の利回り上昇については、いくつかの短期要因が指摘されています。例えば、9月に国債の発行が集中する季節性や、発行予定の多さによる需給の悪化です。また、オランダの年金基金がポートフォリオを見直し、超長期の国債への投資比率を下げたことなど、機械的なフローの影響も挙げられています。
こうした要因は、確かに一部の値動きを説明します。しかし、それだけでは、利下げ観測があるなかで長期金利がマルチイヤー・ハイ(ここ数年での最高水準)に達していることを十分には説明できません。むしろ、これらの短期要因が「きっかけ」となり、より構造的な変化を市場が織り込み始めていると考える方が自然です。
揺らぐ「安全資産」神話:実質金利が教えること
先進国の長期国債は長年にわたり、世界の投資家にとって究極の「安全資産」とされてきました。流動性が高く市場規模も大きいことに加え、インフレなどを考慮したうえでも、長期的に安定した価値を提供してくれるとみなされてきたからです。
この信頼は、暗黙の前提に支えられていました。それは「たとえ一時的に財政が悪化しても、長い目で見れば先進国の財政はおおむね管理可能な軌道に戻る」という期待です。しかし現在、この前提が少しずつ崩れつつあり、その変化が長期ゾーンの実質金利(物価変動を差し引いた金利)の上昇として現れています。
市場は、先進国の長期国債をこれまでのような無条件の安全資産ではなく、一定のリスクを伴う資産として捉え直し始めています。その結果、投資家は財政の規律や持続可能性への不安に見合うかたちで、より高い利回り=リスクの補償を求めるようになっています。
2008年以降の積み重ね:膨らみ続ける公的部門の役割
なぜここまで財政の自己規律を取り戻すことが難しくなっているのでしょうか。その背景には、2008年の金融危機以降、およそ17年にわたって続く「危機対応としての財政拡張」の積み重ねがあります。
多くの先進国は、金融危機の後、景気や金融システムを下支えするために大胆な財政出動を行いました。ようやく債務の対国内総生産(GDP)比が安定し始めたところで、2020年のパンデミックが発生し、再び大規模な財政支援が必要になりました。1回目の債務拡大が十分に整理される前に、2回目の大きな波が押し寄せた形です。
その後も、金融システムの安定化、パンデミック対応、国防体制の再構築、エネルギー転換など、新たな「緊急課題」が次々と現れています。そのたびに、公的部門の支出や保証は積み上がり、いったん約束した支出や減税を政治的に巻き戻すことはほとんど不可能になっています。
選挙と政治の現実:一時的な赤字から「構造的赤字」へ
こうした財政の膨張を後押ししているのが、政治のタイムスパンです。選挙で選ばれる政治リーダーは、どうしても次の選挙までの数年単位で成果を示すことを求められます。そのため、有権者に分かりやすい支出拡大や減税は支持を集めやすい一方で、そのコストである増税や歳出削減は先送りされがちです。
財政ルールや「中期的な財政健全化目標」は掲げられても、いざ危機が起きると優先されるのは景気や雇用の安定であり、ルールは後回しになります。その結果、市場は「景気対策が終われば、いずれ財政は引き締められる」という従来の前提を置かなくなりつつあります。
かつては例外的な状況でのみ許容されていたはずの財政赤字が、いまや「構造的なもの」として受け止められ始めています。投資家にとっては、「一時的な赤字」か「長期に続く赤字」かは、国債のリスクを評価するうえで決定的な違いを生みます。
市場が変えた計算式:タームプレミアムと長期実質金利
こうした見方が市場に定着すると、長期国債の価格付けは大きく変わります。将来の国債発行が増え続け、高い金利水準が長引くと見込まれるなかで、本当にこの債券は長期にわたって実質的な価値を守ってくれるのか——。投資家の答えは、これまでより慎重なものになります。
その慎重さは、タームプレミアム(短期国債をロールオーバーする代わりに、長期国債を保有することに対して追加で求められる利回り)の上昇という形で現れています。言い換えれば、「長く国債を持つほど、追加の見返りが必要だ」と市場が考えるようになっているのです。
この結果、名目金利だけでなく、インフレの影響を差し引いた実質の長期金利も上昇しています。たとえ今後、政策金利の引き下げが意識されて短期ゾーンの金利が低下しても、長期の金利は財政の持続性と強く結びついているため、以前のようには下がりにくい構図が見え始めています。
これからの視点:国債を見る「ものさし」の変化
先進国の長期国債利回りの上昇は、単なる景気や金融政策のサイクルを超えて、「国債は本当にどこまで安全なのか」というより根源的な問いを投げかけています。
市場は今、国債を一律の安全資産として扱うのではなく、発行国の財政と政治の持続可能性をより厳しく織り込む方向に動いています。こうした視点の変化が、長期金利の水準だけでなく、株式や不動産など他の資産の評価にもじわじわと影響を与えていく可能性があります。
長期国債の利回り上昇は、「先進国の国債は自動的に安全」という時代から、「財政と政治の前提を丁寧に見極める時代」に移りつつあることを示すサインだと受け止める必要がありそうです。
Reference(s):
Why advanced-economy long-term sovereign bonds are repricing risk
cgtn.com








