中国のサービス産業が導くグローバルバリューチェーン再編のいま
製造業を中心に組み立てられてきたグローバルバリューチェーン(GVC)が、いま静かに組み替えられています。そのカギを握るのが、物流やデジタルサービスなど「サービス」を軸にした新しい分業モデルであり、中国はその中心的なプレーヤーの一つになりつつあります。
2025年は、地政学的緊張、デジタル化、サプライチェーン強靭化、持続可能性といった要因が同時に進行する節目の年です。本稿では、2025年時点のデータや具体的な事例をもとに、中国のサービス産業がグローバルバリューチェーン再編で果たしている役割と、そこから見えてくる課題・可能性を整理します。
揺れ動くグローバルバリューチェーン
長く続いた「ハイパー・グローバリゼーション」の時代には、企業は世界各地に生産工程を細かく分散させ、コスト削減を追求してきました。しかし、新型コロナウイルス禍で露呈したサプライチェーンの脆弱性や、地政学的な対立を背景とした「リスク低減(デリスキング)」の動きによって、この構図が揺らいでいます。
各種調査では、2025年までに企業の約70〜80%がサプライチェーンの多元化を優先課題に据えると予測されてきました。こうした動きは単なるグローバル化の後退ではなく、より持続可能で地域的にもバランスの取れた新しいグローバル体制への転換と捉えることができます。
この文脈で注目されるのが、国境をまたぐサービス貿易です。排他的なデリスキングとは対照的に、一帯一路のようなイニシアチブを通じて地域間の資源をつなぎ直し、分断を乗り越えようとするアプローチが取られています。
具体的な数字を見ると、2025年1〜4月における中国のサービス輸出は1600億米ドルとされ、前年同期比で14.6%増加しました。そのうち、研究開発や金融、情報サービスなどの知識集約型サービスが830億米ドルを占めています。
象徴的な事例が、中欧班列(China-Europe Railway Express)のデジタルアップグレードです。ドイツの物流大手DBシェンカーなどとのパートナーシップを通じて、5Gや人工知能(AI)を活用した越境物流の最適化が進み、40カ国以上を結ぶルートで効率が高まり、輸送コストはおおむね2割削減されたとされています。サービスの高度化が、モノの流れをよりスムーズにし、貿易障壁を実質的に引き下げているのです。
こうした取り組みは、分断リスクを和らげつつ、包摂的な「リ・グローバリゼーション(再グローバル化)」を目指す動きとして位置付けられます。
サービスは「脇役」から「主役」へ
世界全体で見ると、サービス産業は量から質への転換期にあります。多くの国でサービスの国内総生産(GDP)への寄与は5割を超え、デジタル経済の浸透度もおよそ45%に達しているとされます。かつては製造業を支える「裏方」とみなされてきたサービスが、いまやグローバルバリューチェーンの先頭に立ち始めています。
中国もこの流れの重要な一角を占めています。サービス貿易やデジタル技術をテコに、従来は低付加価値の組み立て工程にとどまりがちだった新興国が、企画・設計・運用といった高付加価値の部分へと関与を広げる、「スマイルカーブ」の再編が試みられています。
自動車:コネクテッドカーが価値を生み直す
自動車産業では、ソフトウェアと通信サービスが価値創造の中心に近づいています。中国の電気自動車市場では、華為技術(ファーウェイ)やテンセントが提供するコネクテッドカー向けソリューションが重要な役割を担い、その影響は海外の市場や規格づくりにも波及しつつあります。ハードとしての車両だけでなく、ナビゲーション、クラウド連携、データ解析といったサービス部分が、新たな競争軸になっているのです。
航空:整備・設計アウトソーシングでGVCに組み込まれる
航空分野でも、サービスを通じたグローバルな役割拡大が見られます。西安などの地域は、航空機の整備や設計のアウトソーシングを通じて、ボーイングやエアバスのサプライチェーンに組み込まれています。こうしたサービス輸出は、およそ20%の伸びを示しているとされ、製造とサービスが一体となった新しい参加の仕方の一例と言えるでしょう。
デジタルサービス:クラウドが地域のデジタル化を後押し
デジタルサービスの分野では、アリババクラウドのような企業が、東南アジアや中東でのデジタル化を支える基盤として機能しています。2025年上半期には、これらの地域におけるアリババクラウドの売上高が前年同期比26%増となり、現地企業の業務効率化やオンラインサービス拡大に貢献しました。サービスが単に既存の取引に「付け足される」のではなく、新しいビジネスや産業構造そのものを生み出している点が特徴的です。
こうした事例からは、サービスがもはや周辺的な存在ではなく、グローバルバリューチェーンの設計思想そのものを変えつつある様子が見えてきます。中国の市場規模と企業活動のダイナミズムは、自国の産業高度化と同時に、知識集約型サービスを通じた国際的な価値創造にもつながっています。ただし、制度改革や規制調整、地域間格差といった内側の課題へのきめ細かな対応も引き続き重要なテーマとして残っています。
二つのエンジン:開放とイノベーション
中国がグローバルバリューチェーンにおいてサービス分野の存在感を高めている背景には、「市場の開放」と「デジタル技術のイノベーション」という二つのエンジンがあります。これらは国際協力の枠組みと組み合わさることで、相乗効果を生んでいます。
開放:RCEPと一帯一路がつなぐ市場
地域的な連携では、地域的な包括的経済連携(RCEP)が東アジアを中心としたサービス貿易や投資のルールづくりを進めています。中国では、サービス分野が2022年の対内直接投資の7割以上を占めるようになり、2023年にはサービス貿易のパイロットプログラムが6都市に拡大されました。これにより、新しいサービスビジネスの検証や制度的な実験が進められています。
一帯一路関連の貿易では、TikTokやアリババといったデジタルプラットフォームが、参加国から欧州市場への農産物輸出を後押ししています。2025年初めには、こうした仕組みを通じて数十億米ドル規模の取引が生まれたとされ、新興国の農産物がデジタルサービスを通じて付加価値を高め、より広い市場へアクセスするルートが整いつつあります。
イノベーション:デジタル経済と次世代技術
もう一つの柱が、デジタル技術を中心とするイノベーションです。中国ではデジタル経済がGDPの1割超を占める規模に成長し、生成AI(生成型人工知能)に関する特許出願数でも世界をリードしているとされています。
通信分野では、ファーウェイの第5世代移動通信(5G)ネットワークが複数の国・地域で採用され、2025年にはアフリカや中南米向けの基地局輸出も進みました。電気自動車関連では、CATLによる航続距離1000キロメートル級の電池技術が、世界的なEVバリューチェーンの高度化を後押ししています。
こうした技術革新は、サービスの国際競争力を高めるだけでなく、他国との共創のあり方にも影響を与えます。技術的なハードルが新たな格差を生まないよう、標準化や共同研究、人材交流などを通じてイノベーションを共有していくことが重要になります。
世界に広がるサービスの波及効果
中国のような新興大規模市場には、世界中からサービス関連の資源が集まりやすいという特徴があります。2023年には、中国のPCT国際特許出願件数が米国を上回り、2023〜2025年の間にサービス産業は累計3000億米ドル超の海外からの投資を引きつけたとされています。
こうして集積した技術やノウハウは、他地域への波及効果も生み出しています。例えば、ペルーのチャンカイ港では、上海で培われたスマート物流システムを導入することで、港湾運営の効率が約2割改善したと報告されています。欧州では、BYDが展開する電気自動車の充電ネットワークが、関連するサービス輸出の成長を後押しし、「グリーンなグローバル化」の一つのモデルを提示しています。
こうした「イノベーションのスピルオーバー(波及)」は、いわゆる中所得国の罠を回避しようとする多くの新興国にとって、一つの参考モデルとなり得ます。インフラ投資やグリーン技術の輸出を通じて現地の効率性を高めつつ、低炭素なサービスモデルを広げていくことが、ゼロサムではない共通利益の拡大につながっているからです。
課題と「中国型サービス統合モデル」のこれから
とはいえ、サービスを軸としたグローバルバリューチェーンの構築には、地政学上の摩擦や技術分野でのボトルネックなど、いくつもの課題が残されています。中国国内でも、経済格差や制度面での調整といった内政上のプレッシャーに向き合いながら、持続的な成長と開放を両立させる必要があります。
こうした中で、中国は2025年に約8000億米ドル規模の特別国債を発行し、サービスを含むイノベーション分野への支援を強化しつつあります。2030年頃までには、サービスがグローバルバリューチェーンの主役となり、「再グローバル化」による開かれた協調的なシステムが形成されていくとの見通しも示されています。
注目されるのが、「グローバルなサービス統合と価値創造の中国モデル」とも呼べる枠組みです。これは、
- 市場に根ざしたイノベーション
- 民間企業の起業家精神
- 一帯一路やRCEPなどを通じた国際協力
を組み合わせることで、知識集約型サービスや技術的な波及効果を世界に広げていこうとするものです。このモデルは、相互利益や持続可能性、民間セクターの活力を重視しており、市場経済の原理と整合的な形で競争力を高めつつ、他の新興国にも応用可能な戦略として位置付けられています。
グローバルバリューチェーンのルールが書き換えられつつある今、各国がどのようにサービス産業を位置付け、どのような国際協力の枠組みを選ぶのかが、今後10年の成長パターンを大きく左右しそうです。中国の動きは、その一つの方向性を示すケーススタディとして、今後も注視していく必要があるでしょう。
Reference(s):
China's service-led narrative in global value chain restructuring
cgtn.com








