「周縁」から「エンジン」へ グローバルサウスが変える開発協力
保健医療体制の強化、気候変動への適応、デジタルイノベーションの推進、そして持続可能な開発目標の達成は、いま世界のあらゆる国が向き合う共通の課題です。こうした課題に取り組むなかで、これまで周縁と見なされがちだったグローバルサウスが、国際協力と経済成長をけん引する「エンジン」として存在感を高めています。
「周縁」から「エンジン」へ:グローバルサウスの位置づけの変化
グローバルサウスとは、おおまかに言えばアジア、アフリカ、ラテンアメリカなどの新興国・途上国を指します。かつては原材料や廉価な労働力を提供する「周縁」として位置づけられてきましたが、現在は状況が変わりつつあります。
保健、気候、デジタルといった分野での課題は、グローバルサウスの国々が日常的に直面してきた問題でもあります。そのため、現地の現実に根ざした実践的なアイデアが生まれやすく、それが世界全体のイノベーションの源泉になり始めています。こうした動きにより、グローバルサウスは科学技術の新たな供給地であり、価値創造のハブであり、新しい開発モデルの実験場として注目されています。
グローバルな価値連鎖の中での位置も変化し、グローバルサウスが世界経済の成長を支える重要なエンジンになりつつある、という見方が広がっています。
世界共通の4つの課題:保健・気候・デジタル・開発目標
グローバルサウスが開発協力の担い手として注目される背景には、次のような共通課題があります。
- 保健医療体制の強化:感染症や慢性疾患への対応、地域ごとの医療アクセス格差などに向き合う中で、現場の工夫から生まれた仕組みや技術が増えています。
- 気候変動への適応:異常気象や水資源の問題など、気候変動の影響を強く受ける地域では、限られた資源を生かした適応策が模索されています。
- デジタルイノベーションと変革:モバイル技術やオンラインサービスを活用し、金融、教育、行政サービスなどを一気に飛躍させる動きが広がっています。
- グローバルな開発目標の達成:貧困削減や教育、ジェンダー平等など、多くのテーマで国際社会が掲げる目標を、現実に即した形で実現していく必要があります。
これらの課題は一国だけでは解決できず、国際協力が不可欠です。その際、単に資金や技術を「移転」するのではなく、ともに学び合い、共創する関係づくりが求められています。
3つのキーワード:文脈・創造性・人間中心のイノベーション
こうした新しい開発協力の中心にあるのが、次の3つのイノベーションの考え方です。
文脈駆動のイノベーション
文脈駆動のイノベーションとは、その地域の歴史、文化、制度、生活習慣といった「文脈」に合わせて解決策をつくるアプローチです。ある国でうまくいった政策やビジネスモデルを、別の国にそのままコピーしても機能しないことは少なくありません。
グローバルサウスでは、資源制約やインフラの制限など、特有の制約条件があります。その制約を出発点としながら、現地のニーズや行動パターンに合う形でサービスや技術を設計することが、国際協力の質を高める鍵になっています。
創造性駆動のイノベーション
創造性駆動のイノベーションは、新しい技術そのものだけでなく、「組み合わせ」や「使い方」の工夫に重心を置く考え方です。既存の技術や制度を、異なる形で組み合わせることで、思いがけない解決策が生まれることがあります。
例えば、モバイル通信、デジタル決済、身分証の仕組みなどを組み合わせることで、銀行口座を持たない人でも利用できる金融サービスを展開するといった発想は、その典型です。こうした創造性は、グローバルサウスの多様な社会や経済の現場から生まれています。
人間中心のイノベーション
人間中心のイノベーションは、技術や制度ではなく「人」を出発点に考えるアプローチです。政策立案者や企業だけが主役になるのではなく、地域住民や市民、自ら課題解決に取り組む人々をパートナーとして位置づけます。
その結果、一方的に支援する・されるという関係ではなく、さまざまな主体が共に学び合う場が生まれます。国際協力も、援助を与える側と受け取る側という構図から、共通の課題に取り組む「協働」の関係へと変わっていきます。
グローバルサウスが開発協力をどう変えるのか
文脈駆動、創造性駆動、人間中心のイノベーションが広がることで、開発協力のかたちは次のように変化しつつあります。
- 一方向から双方向へ:資金や技術を「供与する側」と「受け取る側」に分けるのではなく、双方が経験や知見を持ち寄る形に近づいています。
- 短期のプロジェクトから長期のパートナーシップへ:単発の支援ではなく、継続的な対話と共同実験を通じた関係構築が重視されています。
- 量より質へ:支援額やプロジェクト数だけでなく、その地域の文脈にどれだけ根ざし、人々の生活をどう変えたかが問われるようになっています。
- 周縁から発信する知恵:グローバルサウスで生まれた実践やモデルが、他の地域や世界全体の政策設計に生かされる動きも強まっています。
こうした変化によって、グローバルサウスは、単に支援の対象としてではなく、国際社会の中で新しい発想と実践を生み出す「エンジン」としての役割を拡大しています。
日本とアジアの読者にとっての意味
日本を含むアジアの読者にとって、グローバルサウスの動きは決して遠い話ではありません。保健、気候、デジタル、開発協力といったテーマは、ビジネスにも政策にも、そして私たちの日常生活にも直結しています。
例えば、企業にとっては、グローバルサウスの現場から生まれる文脈に根ざしたサービスやビジネスモデルは、新市場のヒントになります。政策担当者にとっては、一方向の支援ではなく、共創型のパートナーシップをどう設計するかが問われます。
そして個人にとっても、国際ニュースを「援助する側とされる側」という固定的な図式で見るのではなく、多様な地域がそれぞれの文脈からイノベーションを生み出し、世界全体の課題解決に関わっているという視点を持つことが、ニュースの読み方を変えていきます。
これから問われる視点
グローバルサウスが周縁からエンジンへと変化している現在、問われているのは「誰が、どの立場から、どのように国際協力をつくるのか」という視点です。文脈を理解し、創造性を引き出し、人を中心に据えたイノベーションをどう後押ししていくかが、これからの開発協力の鍵になっていきます。
国や地域の境界を越えて、課題解決の主役になり得る人や組織はどこにいるのか。グローバルサウスの動きは、その問いを私たち一人ひとりに静かに投げかけています。
Reference(s):
"Periphery" to "Engine": Global South reshapes development cooperation
cgtn.com








