中国自動車メーカー、機能競争からユーザー体験重視へ転換
中国の自動車産業が、ハードウェアや機能の数を競う時代から、ユーザー体験を起点にした開発へと大きく舵を切ろうとしています。先ごろ閉幕した2025年世界スマート産業博覧会では、こうした方向転換が業界共通のキーワードとして浮かび上がりました。
会場では、中国の自動車メーカーや関連企業のリーダーたちが、これからの競争軸は「どれだけ技術を盛り込むか」ではなく、「どれだけユーザーに価値を返せるか」だと口をそろえました。クルマそのものより、ソフトウエアやサービスを含むエコシステム全体での体験づくりが重視されつつあります。
300機能から3万機能へ――それでも足りないのは「使いやすさ」
ここ数年、中国の自動車メーカーは「コックピット戦争」と呼ばれる競争を繰り広げてきました。大型スクリーンを増やし、音声操作やアプリ、エンタメ機能を次々と追加し、「多機能」であることを売りにしてきたのです。
中国自動車工程学会のGuo Gang氏は、現状を次のように指摘します。3年前には約300だった車載機能が、昨年には3万にまで膨れ上がった一方で、ユーザーが日常的に使うのはせいぜい20程度だというのです。機能の数が増えるほど、画面の階層やメニューが複雑になり、かえって操作にストレスを感じる利用者も少なくありません。
こうした反省から、今後は「機能を減らす」ことではなく、「必要な機能に素早くたどり着ける設計」や「状況に応じて賢く機能を呼び出してくれる仕組み」が鍵になるとみられています。
クルマはモノからサービスへ――サブスクモデルの台頭
もう一つの大きな変化が、ビジネスモデルです。空調やワイパーのような基本機能は従来どおり標準装備としつつ、高度な運転支援やプレミアムエンタメなどは、必要な人だけが契約するサブスクリプション(定額制)サービスとして提供する動きが広がっています。
この仕組みによって、ユーザーとメーカーの双方にメリットが生まれます。
- ユーザーは購入時の負担を抑えつつ、必要になったタイミングで追加機能を選び、使った分だけ支払うことができます。
- メーカーは、ハードウェアコストを抑えながら継続的な収益源を確保でき、ソフトウエアのアップデートを通じて長期的に価値を提供できます。
こうした流れは、クルマを「売って終わりの製品」から、「長く付き合うサービス」へと位置づけ直す試みとも言えます。
AIがもたらす「理解してくれるクルマ」とデータのジレンマ
ユーザー体験を一段と高める存在として期待されているのがAI(人工知能)です。運転パターンや音声、車内外の状況データを学習することで、クルマが先回りして最適なルートや設定を提案し、「自分のことをわかってくれるパートナー」に近づいていくとされています。
一方で、そのためには膨大な計算資源と高品質なデータが欠かせません。どのデータをどこまで収集し、誰が管理するのかというプライバシーやセキュリティの課題が避けて通れなくなっています。
Chongqing UniversityのLi Wenbo氏は、このジレンマへの解決策としてハイブリッド型のアプローチを提案しています。個々のドライバーに関わる繊細な判断は車載のチップ上で処理し、個人情報を含まない大規模な計算だけをクラウド(インターネット上のサーバー)で行うという考え方です。これにより、AIの利便性とユーザーのプライバシー保護の両立を目指します。
自動運転で一番難しいのは「心のブレーキ」を外すこと
技術面での進歩にもかかわらず、自動運転の普及を阻んでいる最大のハードルは、多くのドライバーが抱く「本当に任せて大丈夫なのか」という不安です。センサーやアルゴリズムの性能だけでは、信頼は生まれません。
業界関係者は、その溝を埋めるには「徹底した透明性」が必要だと強調します。安全機能がどのような仕組みで動き、どこまで対応できて、どこからは人が判断すべきなのかを、わかりやすく説明すること。テスト走行にユーザーが参加し、リアルな状況での動作を自分の目で確かめてもらうこと。そうした積み重ねが、少しずつ不安を信頼に変えていきます。
自動車メーカーのGeelyで開発を担当するZhang Zhenxing氏のチームは、34種類のシナリオで自動運転機能を検証しました。大雪の中での走行や、周囲の車両が急な割り込みや強引な車線変更をしてくる状況など、現実に起こりうる厳しい条件を想定したテストです。こうした試験で得られたデータがアルゴリズムの改良に直結し、そのプロセスをユーザーに開示することで、安心感の醸成につながっているといいます。
世界市場を見据えた「ルールメイカー」への挑戦
ユーザーを深く理解することは、中国国内だけでなく、世界各地のマーケットに挑戦するうえでも欠かせません。単に完成車を輸出するだけではなく、それぞれの地域の交通事情や道路インフラ、安全規制、そして利用者の好みを細かく把握しなければ、現地で選ばれるクルマにはなりにくいからです。
China Merchants Testing Vehicle Technology Research Instituteは、各国・各地域の法規や認証に関する情報提供、現地での試験や評価の支援などを通じて、中国企業の海外展開を後押ししています。単にルールに「適応」するだけでなく、国際標準づくりの議論にも積極的に関わることで、グローバルな自動車産業の方向性に影響を与えていこうとする動きも見られます。
私たちが押さえておきたい3つの視点
中国の事例は、日本を含む他の市場にとっても示唆に富んでいます。利用者の立場から見ると、次にクルマを選ぶとき、次のようなポイントを意識してみるとよいかもしれません。
- 機能の多さよりも、自分がよく使う操作がどれだけ直感的でわかりやすいか。
- サブスク型サービスを利用する場合、本当に必要な機能だけを選びやすい料金設計になっているか。
- AIや自動運転機能について、メーカーがテスト内容や限界をどこまで開示しているか。
機能を積み上げる発想から、ユーザー体験を起点にクルマを設計し直す動きは、2025年のいま、自動車産業全体の大きな潮流になりつつあります。これからのクルマ選びは、「どのくらい多機能か」ではなく、「どれだけ自分の生活になじむか」を問う時代に入っているのかもしれません。
Reference(s):
Chinese automakers shift focus from tech features to user experience
cgtn.com








