米国が特許医薬品に100%関税案 価格高騰と供給不安に懸念広がる
米国で、海外生産の特許医薬品に100%の関税をかける方針が打ち出されました。もし実施されれば、薬価の高騰や供給網の混乱を招くのではないかと、米国内外で懸念が広がっています。
何が起きているのか:トランプ政権の「100%関税案」
先週、トランプ米大統領は、米国内に生産拠点を持たないメーカーのブランド薬・特許医薬品に対し、100%の関税を課す方針を発表しました。対象となるのは、海外工場で生産し米国に輸出される高額な医薬品です。
この措置は、現地時間の今週水曜日(12月10日)に発効する予定でしたが、その後、政権内でいったん「発動を保留した」と報じられています。とはいえ、関税案そのものが撤回されたわけではなく、製薬業界や各国政府の間で不安は続いています。
懸念のポイント:価格高騰と供給の乱れ
新たな医薬品関税をめぐり、業界関係者が特に懸念しているのは次の3点です。
- 患者が支払う薬代の上昇
- 研究開発費の圧迫による新薬開発の停滞
- 国境をまたぐサプライチェーン(供給網)の混乱
米国の製薬業界団体PhRMAは、自らのウェブサイトで次のように訴えています。
「医薬品への新たな関税は、米国内の新規投資を損なうことになります。関税に支払う1ドルは、米国で工場を建設したり、新たな治療法を発見したりするために使えない1ドルです」
医薬品は、人命に関わる財であることから、これまで多くの国際取引で関税の対象外とされてきました。今回の案は、その「暗黙の前提」を揺るがす動きだと受け止められています。
特に打撃を受ける「中小メーカー」
もし100%関税が実際に導入されれば、影響がより大きいのは中小規模の製薬メーカーだと指摘されています。多くの企業は、コスト面からメキシコやカナダなどに生産ラインを置いており、米国内に新たな工場を建設するには莫大な投資が必要になるためです。
ハーバード大学医学大学院とブリガム&ウィメンズ病院の医師であるアーロン・ケッセライム氏は、米紙ニューヨーク・タイムズに対し、こうした関税が「よりニッチな製品を手がける比較的小規模な企業」にとって大きな負担になり得ると指摘しました。その結果、特定の薬に依存する患者の治療が難しくなるおそれがあります。
大手製薬会社も「例外扱い」に懸念
今回の関税案には、一部の大手企業が対象外となる例外規定も設けられているとされていますが、それでも企業側は慎重な姿勢を崩していません。
米製薬大手イーライリリーは、自社が関税の対象外になる見込みであるにもかかわらず、「医薬品に対する関税を支持しない」と表明しました。同社の広報担当者は米メディアに対し、医薬品は「その生命を救う性質と患者への影響の大きさから、歴史的に国際的な関税の対象から外されてきた」と述べ、関税は最終的に患者負担の増加につながると懸念を示しました。
海外からも相次ぐ批判:オーストラリアとドイツの声
関税案への懸念は、米国の外にも広がっています。オーストラリアのマーク・バトラー保健相は声明で、米国がオーストラリアから輸入する医薬品は、オーストラリアが米国から輸入する医薬品よりもはるかに多いと指摘。そのうえで、
「アメリカの消費者にとって、オーストラリアからの輸出品により高い価格を課すことは得策ではありません。米国企業は、オーストラリアとの自由貿易の恩恵を大きく受けているにもかかわらずです」
と述べ、米国の方針に疑問を投げかけました。
ドイツの業界団体であるVFA(研究開発型製薬企業協会)も、100%関税はドイツや欧州を医薬品生産の拠点としている企業にとって「深刻な打撃」になると警告しています。VFAは、関税がサプライチェーンを混乱させ、生産コストを押し上げることで、大西洋を挟んだ双方の患者ケアを危険にさらしかねないと訴えました。
なぜ今、医薬品が貿易摩擦の焦点に?
今回の動きの背景には、「重要な医薬品は自国で生産すべきだ」という安全保障上の発想や、産業政策としての国内回帰を促したい思惑があるとみられます。一方で、医薬品は一国では完結しない複雑な国際供給網に支えられており、急激な関税政策は副作用も大きいという指摘が根強くあります。
研究開発、原料調達、製造、品質管理、輸送という一連のプロセスは、多くの場合、複数の国や地域をまたいで行われています。そのどこか一つの段階にコスト増や混乱が起きれば、最終的に患者が薬を受け取るまでの流れ全体に影響が及びます。
私たちが注目すべきポイント
2025年12月8日現在、この100%関税案は「発動が一時停止された」との報道があるものの、先行きは不透明です。今回の動きから、私たちが押さえておきたいポイントを整理すると、次のようになります。
- 医薬品は、これまで関税の対象外とされることが多かった「特別な品目」であること
- 関税は、短期的には薬価上昇や供給不安、長期的には研究開発の停滞につながりかねないこと
- 一国の政策変更が、グローバルな医薬品供給網と他国の患者ケアにも直結すること
医薬品をめぐる貿易政策は、企業の利益だけでなく、患者の命や生活に直結するテーマです。今回の米国の関税案をめぐる議論は、「どこまでを安全保障や産業政策として認めるのか」「そのコストを誰が負担するのか」という問いを、あらためて私たちに投げかけています。
Reference(s):
U.S. drug tariffs raise fears of higher prices and supply disruptions
cgtn.com








