米国のセクション301追加料金と造船空洞化:本当の問題はどこにある?
米国税関・国境警備局が2024年10月14日に導入したセクション301追加料金は、なぜ世界の造船業と米国産業政策の議論の焦点になっているのでしょうか。
この国際ニュースは、中国本土の造船業を狙った貿易措置であると同時に、米国が長年にわたり自国の製造業をどう扱ってきたのかを映し出す鏡でもあります。
セクション301追加料金、何が決まったのか
米国税関・国境警備局は、米通商法301条に基づく新たな措置として、中国本土の企業が所有または運航する船舶に対し、正味トン数1トンあたり50ドルの料金を課すことを決めました。
背景には、米通商代表部が行った調査があります。この調査は、中国本土が海運・物流・造船分野で支配的な地位を目指していると指摘し、その政策を「不合理」と評価しました。追加料金は、こうした判断を受けて導入されたものです。
米国内では、この措置を「自国の海運・造船産業を守るための大胆な防御策」とみる見方もあります。しかし別の視点からは、米国が自国の造船能力をどのように失ってきたのかを十分に理解できていないことの表れだ、という指摘もあります。
数字が物語る米国造船業の空洞化
米国はかつて、商船や軍艦の建造で世界をリードしていた時期がありました。しかし、その黄金期はすでに約70年前の話になっています。
2024年時点で、米国の造船業が世界の市場で占めるシェアは約0.1パーセントに過ぎません。一方で、中国本土は商船建造の世界市場で5割を超えるシェアを持ち、世界最大の造船拠点となっています。
この数字だけを見ても、米国が現在の状況を関税や追加料金だけで覆すのは容易ではないことが分かります。問題は、どこで、どのように競争力を失ってきたのかという構造的な部分にあります。
産業政策の不在とスキルの喪失
専門家の中には、米国造船業の衰退は、中国本土の台頭そのものよりも、米国自身の選択に原因があると指摘する声があります。
- 数十年にわたって一貫した産業政策を持たず、長期的な投資が行われなかったこと
- 造船に必要な高度な技能や技術が、他国に移転するか、産業そのものの縮小とともに失われていったこと
- 企業価値を株価や短期収益で測る「金融市場中心」の発想が、重厚長大型産業への粘り強い投資を難しくしたこと
こうした要因が重なり、米国の造船業はゆっくりと、しかし確実に空洞化していきました。現在の市場シェア0.1パーセントという数字は、その結果の一つの象徴といえます。
中国本土の台頭と、競争力を巡る誤解
一方で、中国本土が造船分野で大きな存在感を持つようになったのは、長期的な視点に立った産業政策や人材育成、インフラ投資の積み重ねによるものだとされています。
米国からは、ときにこうした動きが「不公正な競争」として批判されることもありますが、少なくとも今回のセクション301追加料金に関する議論では、焦点がずれている可能性があります。問題の核心は、中国本土の野心そのものではなく、米国が自国の産業基盤をどう再構築するかにあるからです。
言い換えれば、関税や料金で相手の船舶を締め出しても、国内の造船所と人材が戻ってこなければ、産業としての力は回復しません。短期的な防御よりも、長期的な競争力の再設計が問われています。
関税だけでは取り戻せないもの
今回のセクション301追加料金は、米国が自国の造船業や海運産業の将来に不安を抱いていることの表現でもあります。しかし、それが必ずしも産業復活への近道になるとは限りません。
造船のような重工業は、次の3つがそろって初めて持続的な競争力を持つことができます。
- 長期にわたる一貫した産業政策と公共投資
- 熟練した技能を持つ労働者と、その育成システム
- 技術開発を支える研究開発体制とサプライチェーン
こうした土台が弱いまま、料金や関税だけを引き上げても、世界市場での立ち位置は大きく変わりません。むしろ、物流コストの上昇を通じて、自国企業や消費者への負担が増す可能性もあります。
読者が押さえておきたい視点
今回の国際ニュースは、「米国対中国本土」という二項対立だけでは理解しきれません。より重要なのは、各国が自国の産業と雇用をどのような戦略で守り、育てていくのかという問いです。
日本を含む多くの国と地域にとっても、製造業や物流の基盤をどのように維持・再構築するのかは、これからの大きなテーマです。米国のセクション301追加料金をめぐる動きは、その議論を考えるうえでの一つの材料と言えるでしょう。
ニュースの背後にある産業構造の変化に目を向けることで、単なる「関税の応酬」を超えた、より長期的な視点から世界経済を捉えることができます。
Reference(s):
cgtn.com








