FRBベージュブックが示す米雇用削減と利下げ観測
米FRBベージュブック: 雇用削減が広がるなか、景気はほぼ横ばい
米連邦準備制度理事会(FRB)が今週公表した地区連銀経済報告(ベージュブック)によると、米企業の一部で人員削減が進む一方、米国経済全体の活動は「大きな変化なし」とされています。消費者の支出、とくに小売り向けの支出はわずかに減少しており、先行きへの不安がにじみます。
企業はなぜ人員削減を進めているのか
ベージュブックは、多くの地区で企業がレイオフや自然減(退職などによる人員減少)を通じて従業員数を減らしていると伝えています。その背景として挙げられたのが、需要の弱まりと景気の不透明感の高まりです。
一部の企業は、人工知能(AI)技術への投資を拡大しており、それが人手を増やさない、あるいは人員削減の判断につながっているケースもあるとされています。人手を減らしつつデジタル化を進める動きが、現場レベルでじわじわと進行している姿が浮かび上がります。
一方で、農業、建設、製造業といった分野では、移民政策の変更の影響もあって労働力の確保が難しくなっている地区も報告されています。つまり、全体としては雇用削減が進みながらも、業種によっては人手不足が続くという、ねじれた状況が生まれているのです。
景気はほぼ横ばい、それでも広がる不安
今回のベージュブックによれば、米国の景気活動そのものは最近数週間で「ほとんど変化していない」とされます。ただ、消費者支出、とくに小売り向けの支出がわずかに減少し、企業も家計も慎重姿勢を強めている様子がうかがえます。
FRBは、多くの関係者が「高まる不確実性が今後の経済活動の重しになる」と見ていると指摘しています。雇用削減や採用の抑制は、時間差を伴って個人消費を冷やし、企業の投資意欲にも影響します。表面的には横ばいに見えても、その下では弱さがじわじわ広がりつつある、という読み方もできそうです。
利下げは年内あと2回との見通し
こうした中、FRBのパウエル議長は今週、フィラデルフィアでの講演で、雇用の伸びが急減速していることが米経済にとって高まるリスクだと警告しました。これは、FRBが今後も利下げを続ける可能性をにじませる発言です。
FRB当局者は、今年中にあと2回の利下げを行い、さらに2026年に1回の利下げを行うとの見通しを示しています。今年9月には、雇用情勢の弱まりを受けて、すでに今年最初の利下げに踏み切りました。ただしインフレへの警戒も続いており、FRBは慎重なペースで政策を進める姿勢です。
政策金利が下がれば、住宅ローンや自動車ローン、企業の借入コストが低下しやすくなります。米国の金利動向は、為替や世界の資金の流れを通じて日本経済にも波及しうるため、日本の投資家や企業にとっても引き続き重要な注目ポイントです。
トランプ政権の関税とコスト上昇
今年、ホワイトハウスに復帰したトランプ米大統領は、幅広い貿易相手に対して大規模な関税を課しており、これが物価上昇要因になりかねないとの懸念が高まっています。
FRBは今回の報告で、一部の地区で輸入価格の上昇や保険・医療サービスなどのコスト増により、企業のコストが最近になってより速いペースで上昇していると指摘しました。関税による原材料コストの上昇が多くの地区で確認されているものの、それがどの程度販売価格に転嫁されているかは地区によって差があるとされています。
景気の減速懸念からは利下げが意識される一方で、関税やサービス価格の上昇はインフレを押し上げる方向に働きます。FRBは、この二つの力のバランスを慎重に見極めながら、政策運営を迫られているといえます。
AI投資と移民政策がつくる新しい雇用環境
FRBの報告に登場する企業関係者は、人員削減の理由として、需要の弱さや不確実性だけでなく、AI技術への投資を挙げています。AI活用が進むことで、事務職や定型的な業務の一部は自動化され、人員増を抑えたり、配置転換や削減を検討したりする動きが出ている可能性があります。
その一方で、農業や建設、製造業などでは、移民政策の変更により労働供給が細り、必要な人手を確保できないとの声も出ています。技術革新と政策変更が同時に進むことで、余っている仕事と足りない人手が共存する、複雑な労働市場が形成されつつあります。
こうした環境では、個人にとっても企業にとっても、スキルの更新や職種転換への備えがこれまで以上に重要になっていきます。
日本の読者が押さえておきたいポイント
- 米経済全体は横ばいながら、雇用削減や消費の弱さなど、下振れリスクのサインが出始めている。
- FRBは利下げを続ける姿勢を見せており、年内2回、2026年に1回の追加利下げが見込まれている。
- 関税やサービス価格の上昇が企業コストを押し上げており、インフレ再加速のリスク要因となりうる。
- AI投資と移民政策の変化が、雇用削減と人手不足を同時に生む新しい労働市場を形づくっている。
米景気は堅調か減速入りかという単純な二択ではなく、雇用、物価、技術、政策といった複数の要因が重なり合っている点に目を向けることが、これからの国際ニュースを読み解くうえで重要になりそうです。
Reference(s):
U.S. Fed sees more firms reducing staff on economic uncertainty
cgtn.com








