AIが金融を作り替える:北京・金融街フォーラムFSF 2025の焦点
人工知能(AI)が金融のあり方そのものを書き換えつつあります。北京で開かれた金融街フォーラム(Financial Street Forum、FSF)2025年年次会議では、このAIとフィンテックを軸に、世界の金融システムの行方が集中的に議論されました。
10月27日から30日にかけて開催されたFSF 2025年次会議のテーマは、イノベーション、変革、再編の時代におけるグローバル金融の発展でした。30を超える国と地域から400人以上の参加者が集まり、AIやデータが金融にもたらす変化と、そのルールづくりが国際ニュースとしても注目されました。
AIが金融の主役に
かつてAIは金融の補助的なツールと見なされてきましたが、いまや業界の中心に近づいています。FSFでは、AIが価値創造、リスクの価格付け、競争環境の3つを同時に変えつつある現状が共有されました。
データは最大の資産に 一人市場のサービスへ
議論の出発点となったのは、データそのものが金融機関にとって最重要の資産になりつつある、という認識です。これまで平均的な顧客向けにマス向け商品を提供してきた金融機関は、AIと高度な分析によって、一人ひとりに最適化されたサービスを届ける「一人市場」を目指せるようになりました。
その象徴的な例として紹介されたのが、米銀バンク・オブ・アメリカのバーチャルアシスタントEricaです。すでに20億件を超える対話に対応しており、データに基づく常時稼働のサービスが、もはや珍しいものではなく標準になりつつあることを示しています。
リスク管理もAIでリアルタイム化
リスク管理の世界でも、AIは大きな再編を進めています。これまでのように、過去のデータに基づくルールと定期的なチェックに頼るのではなく、多次元のデータを機械学習モデルがリアルタイムでモニタリングし、不審なパターンを即座に検知するアプローチが広がっています。
その結果、検知精度が高まるだけでなく、誤検知(誤報)の件数が減り、調査にあたる人員の負荷も軽減できると期待されています。
生産性の飛躍 人はより創造的な仕事へ
生産性向上も、AIがもたらす大きな変化の一つです。フロント、ミドル、バックオフィスのあらゆる業務で自動化やAIエージェントが導入され、コスト構造が根本から変わりつつあります。
多くの金融機関では、バーチャルアシスタントが日常的な問い合わせの大半を処理し、人は監督、例外対応、新商品の設計、顧客との関係構築といった付加価値の高い業務に専念できるようになりつつあります。こうした動きが、デジタルなチャネル経由の取引やコミュニケーションが急増している背景の一つとされています。
イノベーションに不可欠な合意とガバナンス
とはいえ、技術だけで健全な変化が自動的に生まれるわけではありません。FSFが「イノベーションに関する合意」の形成を掲げたのは、共通のルールがあってこそ、変化が積み重なっていくとの認識があるからです。
AIシステムが社会に広く浸透するほど、アルゴリズムの判断を分かりやすく説明すること、人間による適切な関与を保つこと、そして大規模なシステムを慎重にテストすることが重要になります。偏りや差別をそのまま拡大させないためにも、透明性の高い運用が欠かせません。
さらに、プライバシー保護技術や、複数の組織が学習成果を共有できる仕組みなど、強固なデータマネジメントも求められます。各国でデータ保護のルールが厳格化するなか、高い性能と規制順守の両立は、国際ニュースとしても大きな論点になっています。
中国では、フィンテック戦略としてデジタル化の加速と技術規制の高度化を同時に進める方針が示されており、こうした枠組みもFSFでの議論に影響を与えました。
FSF 2025の構成 テクノロジーと実務をつなぐ
会議のプログラムは、イノベーションに関する合意を実務に落とし込むことを意識した構成になりました。公表された概要によると、FSF 2025はメインフォーラム、複数のパラレルフォーラム、フィンテック会議、サポーティング・アクティビティを組み合わせた形式で行われました。
全体では27のテーマ別セッションと6つの投資・資金調達のマッチメイキングイベントが設けられ、フィンテック会議だけでも11の関連イベントが開催されました。テクノロジーの議論と現場での実装をつなぐ場が、フォーラムの中心に位置づけられた形です。
規制当局が深く関与する理由
今回のFSFでは、金融当局の関与が一段と深まりました。中国人民銀行は、フィンテックがデジタル化とスマート化の推進役として果たす役割をテーマにしたChengfangフィンテックフォーラムを主催しました。
また、中国証券監督管理委員会(CSRC)の科学技術部は、AIが資本市場の高品質なデジタル化をどのように後押しできるかに焦点を当てた資本市場フィンテックフォーラムを開催しました。単なる技術紹介にとどまらず、専門的なテクノロジーが最大の効果を発揮する分野はどこか、どのような統制が必要か、そして試験的な取り組みをいつ本格展開に移行させるべきかといった実務的な論点が話し合われました。
広がる国際ネットワーク 5つの海外サブ会場
FSF 2025の国際的な広がりも注目点です。主催者によれば、今回は過去最多となる5つの海外サブ会場が設けられ、国際機関や世界の金融機関からの参加者も増えました。AIによって金融システム全体にかかわる課題が生じている今、こうした開かれた姿勢は重要になっています。
具体的には、モデルが特定のベンダーや手法に集中してしまうリスク、データの追跡や管理のあり方、多くの機関が似通ったツールを使うことで行動が同質化し、市場全体のリスクが高まる懸念など、一国だけでは対応が難しいテーマが議題に上りました。
CSRC国際諮問委員会に期待される役割
注目された動きの一つが、中国証券監督管理委員会の国際諮問委員会です。規制当局による説明によれば、この委員会はFSFの場で初めて会合を開きました。
今後、この枠組みが継続的な実務レベルの協力チャネルとして機能すれば、サイバーインシデントなどの事案分類の共通化や、AIモデル検証の基準づくり、ストレスシナリオの共同設計などが進む可能性があります。そうなれば、規制の摩擦を抑えつつ、安全性と健全性に関するグローバルな水準を引き上げる一助となることが期待されます。
残された課題 人とAIの協働をどう設計するか
もちろん、課題が解決されたわけではありません。AIモデルの性能が時間とともに変化してしまうモデルドリフトをどう監査するのか、外部のテクノロジーベンダーへの依存をどう管理するのか、合成データ(実データを模した人工データ)が現実をゆがめることなく分析を補完できるのかなど、難しい論点が山積しています。
さらに、AIの導入により、金融の働き方も変わりつつあります。人と機械がどのように役割分担し、協力して判断していくのか。そのために必要なリスキリングや教育をどう進めるのかも、中長期的なテーマとして浮かび上がっています。
データ駆動型の金融へ 各国が問われるバランス感覚
FSFで共有されたビジョンは、金融がより流動的でデータ駆動型の仕組みへと移行し、リスクと資金をより的確に結びつけていくというものです。そのなかで、技術革新と信頼性の高い安全対策をどこまで両立できるかが、各国共通の競争条件になりつつあります。
10月27日から30日までの限られた日程で、すべての論争が決着するわけではありませんでしたが、FSF 2025は重要な一歩を刻みました。包摂性とレジリエンスを高める具体的なユースケースを広げ、リスクが集中する領域でガバナンスを強化し、国際的な対話のチャネルを広げていくこと。この道筋が現実のものとなれば、AIとフィンテックは金融業界を単に再編するだけでなく、高品質で安全かつ包摂的な金融を実現するための原動力となっていきそうです。
Reference(s):
cgtn.com








