中国第15次五カ年計画 金融は「戦略の背骨」に
中国が2026〜2030年の第15次五カ年計画の策定を進める中で、金融は単なる資金の供給源ではなく、経済と安全保障を支える「戦略の背骨」として位置づけられつつあります。本記事では、中国共産党第20期中央委員会第四回全体会議と2025年北京金融街フォーラムで示された方向性を手がかりに、今後5年間の中国金融戦略を整理します。
第15次五カ年計画と金融の新しい役割
第四回全体会議では、2026〜2030年を対象とする第15次五カ年計画の策定方針が示され、「高品質な発展」「科学技術イノベーション」「国家安全」が相互に支え合う優先課題として打ち出されました。金融は、この三つをつなぐ基盤インフラとして、従来以上に戦略的な役割を担うことになります。
こうした方向性は、2025年10月27日に開幕した北京金融街フォーラムでも引き継がれました。同フォーラムは「イノベーション・転換・再構築の時代におけるグローバル金融の発展」をテーマに、イノベーションへの合意形成、改革加速、より強靱で包摂的な国際金融システムの構築を議論する場となり、第四回全体会議後の政策路線を具体化する役割を果たしました。
とくに、産業の高度化と実体経済の強化が重視され、長期でリスクの大きいイノベーション投資を、銀行貸出だけでなく資本市場からも支える体制づくりが求められています。
3つの優先課題:市場、国家戦略、開放
1. 市場インフラを「信用供与」から「リスク共有」へ
今後5年で目指すのは、金融市場を単なる資金供給の場から、リスクを適切に分担し、価格を発見する場へと進化させることです。そのために、次のような方向性が示されています。
- 株式や社債などによる直接金融の比率を高める
- 企業情報の開示水準を引き上げ、ガバナンスを強化する
- 知的財産(IP)やデータ、研究開発能力など無形資産の価値を適切に評価し、担保として活用できる制度を整える
これにより、リスクが高く回収期間も長い技術開発に対しても、より多様な投資マネーが流れ込むことが期待されています。
2. 五つの分野に資金を集中させる
2023年10月の中央金融工作会議以降、中国の金融政策は「五大分野」に重点を置く方針を明確にしています。
- 科技金融(テクノロジー分野への資金供給)
- グリーンファイナンス(脱炭素・環境投資)
- インクルーシブファイナンス(中小企業や家計を含む幅広い層への金融包摂)
- 年金金融(高齢化に対応した長期資金の形成・運用)
- デジタル金融(データとデジタル基盤を活用した金融サービス)
中国人民銀行は2025年もこれらの分野で具体的な実施方針を示し、スローガンにとどまらない制度や金融商品を通じて、長期・安定的な資金を産業転換や気候変動対応などの国家戦略に振り向ける姿勢を強調しています。
3. 開放は「参加」から「ルールづくり」へ
金融の開放については、国際市場に参加する段階から、ルールづくりや制度設計に関与する段階へと進むことが意識されています。2025年には具体的な一歩として、Payment Connect が導入されました。これは、中国本土の銀行間オンライン決済システム(IBPS)と香港の即時決済システム(FPS)を接続し、個人や企業が人民元建てでほぼリアルタイムの越境決済を行えるようにする仕組みです。
あわせて、香港ではオフショア人民元のレポ市場(国債などを担保にした短期資金の取引)が拡充され、担保の再利用や通貨をまたいだレポ取引がしやすくなりました。これにより、北向きのボンド・コネクトを通じて中国本土の債券市場に投資する海外投資家も、より柔軟な資金調達とリスク管理が可能になります。こうした制度整備は、人民元の流動性を高めると同時に、香港が中国本土と世界をつなぐ金融ハブとしての役割を強めるものです。
安定が大前提:リスクを早期にコントロール
こうした攻めの戦略を支える前提条件として、金融の安定が強調されています。第四回全体会議では、発展と安全のバランスを取りながら、統一的で包括的な金融監督体制を整備し、リスクの早期探知と早期対応を徹底する方針が示されました。
具体的には、次のような分野でのリスク処理が課題とされています。
- 中小の金融機関
- 地方政府の融資プラットフォーム
- 一部の不動産市場セグメント
これらについて、段階的で予見可能なルールに基づき処理を進めることで、市場の混乱を抑えつつ、人民元相場を「合理的で均衡のとれた水準」でおおむね安定させる狙いがあります。
第15次五カ年計画に向けた四つの実務課題
では、2026〜2030年の第15次五カ年計画の中で、金融は実務的に何を求められるのでしょうか。整理すると、次の四点がカギになります。
- より深い市場をつくる
銀行のバランスシート拡大だけに頼らず、株式・債券・証券化商品などの直接金融を通じて、長期で不確実性の高いイノベーションを支えることが重視されます。そのためには、情報開示の質向上や投資家保護の徹底、専門的な金融仲介機関の育成が欠かせません。 - 忍耐強い資本を育てる
技術開発から事業化までのリスクを取れる仕組みとして、専門性の高いベンチャーファンド、償還期間の長い債券、売上連動型の金融商品、ガバナンスの明確な共同投資プラットフォームなどが想定されています。年金や保険の長期資金をこうした分野に振り向けつつ、インクルーシブ金融やデジタル金融を通じて、中小企業や個人にも過度なリスクを負わせない形で資金アクセスを広げる構想です。 - 開放のツールボックスを拡充する
今後の国際化は、一度に大きく規制を緩和するよりも、決済・担保・流動性供給といった市場インフラを着実に整える方向が重視されます。Payment Connect の利用拡大、オフショア人民元レポ市場での担保・通貨の拡充、貿易決済や流動性支援の枠組み強化などを通じて、実際の取引を通じた人民元の国際利用を高めていく考え方です。 - 景気サイクルより一歩先を行く規制
監督体制の一元化や責任の明確化、早期是正措置の整備を進めつつも、急激な与信収縮(クレジット・クリフ)を避けることが課題になります。ストレステストの高度化や地方政府債務のデータ透明性向上、債務再編の枠組み整備により、ローカルな問題がシステミックな危機に発展する前に手を打てるかが試されます。
投資家と日本の読者にとっての意味
中国の第15次五カ年計画における金融戦略は、国内経済だけでなく、アジアや世界の金融市場にも影響を及ぼします。人民元決済インフラの整備や香港市場の機能強化は、企業の資金調達や投資家のポートフォリオ構成にもじわじわと変化をもたらす可能性があります。
同時に、金融安定とリスク管理がどこまで制度として定着するかは、中国経済の持続性を見極めるうえで重要な観察ポイントです。これから公表される第15次五カ年計画では、ここで見てきた市場の深化、五大分野への資金配分、段階的な開放と安定重視のバランスが、どのように具体的な政策として落とし込まれるのかが注目されます。
Reference(s):
Xin Ge: Finance as a strategic spine of China's 15th Five-Year Plan
cgtn.com








