APEC CEOサミットで習近平氏が語った「アジア太平洋の4つの役割」と中国経済
2025年10月31日、韓国・慶州で開かれたAPEC CEOサミットで、中国の習近平国家主席が文書による演説を発表しました。世界経済の減速や地政学的な緊張が続くなか、アジア太平洋と中国経済の役割についてどのようなメッセージが示されたのか、日本語で整理します。
世界は「新たな岐路」に:演説の背景
習主席はまず、現在の世界について「百年に一度の加速度的な変革のただ中にある」と位置づけました。国際情勢は変動と不安定さを増し、世界経済の回復も力強さを欠いていると指摘し、世界は新たな岐路に立っていると強調しました。
その岐路として、次のような対立する方向性が挙げられました。
- 団結・協力・互恵か、覇権主義と弱肉強食か
- 多国間主義・開放性・包摂性か、一国主義と保護主義か
習主席は、アジア太平洋の人々の期待に応え、歴史の試練に耐えうる選択をする責任が、各国・地域とビジネス界にあると呼びかけました。
また、「過去を知る者は現在を理解する」という言葉を引用し、第2次世界大戦の勝利から80年の歩みを振り返りました。国際連合を中心とする国際システムや、経済・貿易・金融分野の多国間枠組みが築かれ、人類の平和と発展の新たな章が開かれたと評価しました。
そのうえで、人類は運命を共にする存在であり、覇権主義は戦争と災厄をもたらす一方、公平と正義は世界の平和と発展を保証すると述べました。対立ではなく協力、多国間主義こそが地球規模課題に対応する現実的な選択だと強調しました。
中国については、現行の国際秩序を支持し、「真の多国間主義」を実践していると説明。平和的発展を堅持し、「大国は必ず覇権を目指す」という見方を退けました。さらに、「一帯一路」構想や、グローバル発展イニシアチブ、グローバル安全保障イニシアチブ、グローバル文明イニシアチブ、グローバルガバナンス・イニシアチブなどを、中国の知恵に基づく解決策として位置づけ、人類の「運命共同体」の構築を各国・地域とともに進めていきたいと述べました。
アジア太平洋が担う4つのリーダーシップ
APECは経済のグローバル化の流れの中で誕生し、貿易と投資の自由化・円滑化、そして成長と繁栄を目的としてきました。1991年のソウル宣言が「相互依存」と「利益の共有」を掲げたことに触れながら、習主席は、再び韓国で開かれた今回の会合で、アジア太平洋が世界に対して発揮すべき「4つのリーダーシップ」を提示しました。
- 1. 平和と安定の維持で先導する
国の大小や力の強弱、豊かさにかかわらず、すべての国に国際問題への平等な参加権があるべきだと指摘しました。そのうえで、「共通で、総合的で、協調的で、持続可能な安全保障」の理念を掲げ、対話と協議によって対立や紛争を解決するべきだと呼びかけました。 - 2. 開放性と連結性の強化で先導する
WTO(世界貿易機関)を中心とする、ルールに基づく多角的貿易体制を堅持し、保護主義や一方的な行動、いじめのようなやり方に反対すべきだと述べました。世界が「弱肉強食」の状態に逆戻りすることを防ぎ、サプライチェーンと産業チェーンの安定と円滑化をはかる必要性を強調しました。さらに、地域経済統合を進め、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築を推進し、世界経済の成長にアジア太平洋として貢献していくべきだとしました。 - 3. ウィンウィン協力の推進で先導する
習主席は「和して同ぜず」の理念に言及し、多様性こそがアジア太平洋経済の強みだと指摘しました。各メンバーが互いの長所を生かし合うことで、アジア太平洋協力という「パイ」をより大きくすることができると述べました。自国の利益と他者の利益を両立させ、すべての経済が成功と発展を共有できる協力環境を整えるべきだとしています。 - 4. すべての人に利益が行き渡る包摂性で先導する
人々を中心に据えた発展を重視し、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を全面的に実施する必要があると述べました。各国・地域の発展戦略の連携を強め、発展途上の経済に対する支援を拡大し、発展格差を縮小することで、アジア太平洋の人々の生活向上と繁栄の共有をめざすとしました。
中国経済とビジネスへの4つのメッセージ
演説の後半では、中国経済の現状と今後の方向性について詳しいメッセージが示されました。習主席は、中国は長年にわたって世界経済の主要なエンジンであり続けてきたと振り返りました。
第14次5カ年計画の期間は今年で終了しますが、この5年間、中国経済は対外的なショックが増える中でも、平均しておよそ年5.5%の成長を達成し、世界の経済成長の約3割を中国が押し上げたと説明しました。
また、中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議で、第15次5カ年計画の策定に向けた「提言」が採択されたことに触れ、今後も高水準の対外開放を通じて改革と質の高い発展を一層深化させ、アジア太平洋と世界経済に安定性と確実性をもたらしていくと述べました。
そのうえで、世界のビジネス界に対して、中国が提供できるとした「4つのもの」が示されました。
- 1. より多くの成長機会
中国は世界第2の消費市場・輸入市場となっており、国家レベルの国際輸入博覧会を開催し、継続的な市場開放を進めていると紹介しました。市場規模は大きく将来性も高いとして、高水準の開放を通じて各方面の成功を後押ししたいと述べました。 - 2. 良好なビジネス環境
市場化され、法にもとづき、国際水準に合致したビジネス環境の整備を進めていると説明しました。所有形態の異なる企業が公正な競争を通じて成長できるようにすることをめざし、対外投資を制限する「ネガティブリスト」は29項目まで縮小され、その中に製造業に関する項目はないと強調しました。サービス分野のさらなる開放も進めるとしています。 - 3. イノベーションのための広大なプラットフォーム
中国は未来産業の育成、新興産業の強化、伝統産業の高度化を進めており、イノベーションが着実に経済成長を牽引していると述べました。グリーン化・デジタル化・スマート化が加速する中、人工知能(AI)、量子技術、ヒューマノイド、新エネルギー車、バイオ医薬などの分野で次々と成果が出ていると説明しました。新技術の普及と応用の場として、中国市場の存在感が高まっているとの認識を示し、「中国市場でしっかりとしたプレゼンスを築く者は、激しさを増す国際競争の中で先頭に立つことができる」との見方を示しました。 - 4. グリーン成長を支える条件
中国は脱炭素化、公害対策、グリーン転換、成長の促進を一体的に進めていると説明しました。再生可能エネルギーの規模や新エネルギー産業チェーンの充実度で世界最大級であると述べ、植林面積の増加も世界全体の約4分の1を占めると紹介しました。カーボンピークとカーボンニュートラルの目標達成に向けて取り組み、グリーンエネルギー事業での協力を推進し、質の高いグリーン技術や製品の自由な流通を支援するとしています。発展途上国への支援も行い、世界経済のグリーン・低炭素転換への貢献は広く認められていると述べました。
習主席は総括として、中国は世界の投資家にとって「理想的で、安全で、将来性のある」投資先であり、中国とパートナーシップを組むことは機会を抱きしめることだと強調しました。
来年のAPEC開催に向けた呼びかけ
習主席は、来年、中国が3回目となるAPECのホストを務める予定であることにも触れました。これはアジア太平洋協力への強いコミットメントと責任を示すものだと位置づけたうえで、時代の潮流をとらえ、APECメンバーの声に耳を傾けながら、アジア太平洋共同体の構築を進めていく方針を示しました。
こうした取り組みを通じて、アジア太平洋、ひいては世界全体の平和と発展をさらに後押ししたいと述べ、アジア太平洋のビジネス界に対して、来年中国を訪れ、ともに「大いなる未来」を切り開いていこうと呼びかけました。
日本とアジア太平洋ビジネスへの示唆
今回のAPEC CEOサミットでの演説は、アジア太平洋の将来像と、中国経済の方向性をセットで示したメッセージといえます。特に次の3点は、日本やアジア太平洋でビジネスを展開する人にとっても重要な論点になりそうです。
- 多国間主義と自由貿易の行方
WTOを中心とする多角的な貿易体制の維持や、保護主義への反対は、日本を含む輸出入に依存する経済にとっても大きな関心事です。サプライチェーンの安定や地域経済統合の進展は、企業の中長期戦略に直接影響します。 - イノベーションとグリーン転換の競争
AIや新エネルギー、量子技術、バイオ医薬などの分野で、中国がイノベーションのプラットフォームとしての役割を高めていくというメッセージは、技術提携や共同開発、現地展開を考える企業にとって注目すべきポイントです。グリーン成長をめぐるルール作りや標準化のプロセスにも、アジア太平洋の動きが影響を与える可能性があります。 - 人中心の包摂的な成長
発展格差の縮小や、人々の生活向上を重視する姿勢は、サステナビリティや社会的責任を意識する企業にとっても重要な視点です。アジア太平洋でのビジネス展開を考える際、インフラや制度だけでなく、生活者のニーズや地域社会との関係性をどう築くかが問われています。
2025年12月現在、アジア太平洋では引き続き、成長と安定をどう両立させるかが大きなテーマになっています。慶州でのこの演説は、そうした議論の中で、中国がどのような役割を自らに期待しているかを知るうえでの一つの手がかりと言えるでしょう。
国際ニュースを日本語で追う私たちにとっても、アジア太平洋の協力の枠組みと中国経済の方向性がどのようにかみ合っていくのか、2026年のAPEC開催に向けて注視していきたいところです。
Reference(s):
Full text: President Xi Jinping's written speech at APEC CEO Summit
cgtn.com








