韓国ポハン、製鉄の街からEV電池・観光ハブへ転換加速
韓国南東部の製鉄都市ポハンが、電気自動車(EV)向け電池材料と海洋観光の拠点へと舵を切っています。製鉄で築いた産業基盤を生かし、「バッテリーの首都」を目指す動きは、脱炭素と地域再生を考えるうえで注目されます。
製鉄の街ポハン、なぜ変わる?
ポハンは、韓国の慶尚北道(North Gyeongsang Province)南東部の沿岸に位置し、何十年にもわたり世界トップクラスの製鉄産業を築いてきました。世界最大級の製鉄企業の一つとされる POSCO の本拠地として知られ、「鉄の街」として発展してきた歴史があります。
しかし2025年現在、ポハンは製鉄に依存した産業構造から一歩踏み出し、新たな成長エンジンとして電池材料などの新素材産業と、海洋観光の育成に力を入れています。目標は、韓国における「バッテリーの首都」としての地位を確立することです。
EV電池と新素材へのシフト
世界的な電気自動車(EV)シフトが進むなか、電池材料は各国が競い合う戦略分野になっています。ポハンは、既存の重工業インフラや技術人材を土台に、次のような新素材分野を伸ばそうとしています。
- EV向け電池材料
- 人工黒鉛負極材
- バイオ材料
電池材料:EV時代のコア産業
EVの性能や航続距離を左右するのが、リチウムイオン電池などに使われる電池材料です。正極や負極、電解質、セパレーターといった部材の品質・供給力が、そのまま企業や国の競争力につながります。
製鉄で培った素材技術や大規模生産のノウハウを持つポハンにとって、電池材料への参入は「隣接領域」への自然な拡張ともいえます。2025年以降のEV市場拡大を見据え、ポハンは電池材料クラスター(産業集積)の形成を狙っています。
人工黒鉛負極材:高性能電池を支える素材
人工黒鉛負極材は、リチウムイオン電池の負極に使われる重要な素材です。負極とは、充放電の際にリチウムイオンを出し入れする側の電極で、その性能は充電時間や電池寿命、安全性に直結します。
ポハンが人工黒鉛負極材に注目する背景には、次のようなポイントがあります。
- 高品質な炭素材の大量生産には、既存の高温プロセス技術や設備が生かしやすい
- EV向け電池の高性能化・長寿命化ニーズが今後さらに高まる
- 電池メーカーとの協業を通じ、地域全体の付加価値を引き上げられる可能性がある
バイオ材料:医療・ヘルスケアにも広がる視野
ポハンはバイオ材料の分野にも関心を広げています。バイオ材料とは、医療用の素材や、ヘルスケア・環境分野などに活用される高機能材料の総称です。
製鉄中心のモノづくりから、医療・ライフサイエンス分野にも応用できる素材へと領域を広げることは、市場の変動に強い産業構造づくりにつながります。電池材料とバイオ材料という異なる分野を組み合わせることで、ポートフォリオ全体のリスク分散を図ろうとする狙いも見て取れます。
海洋観光で「訪れたい港町」へアップデート
ポハンのもう一つの柱が、海に面した地の利を活かした海洋観光です。工業都市のイメージが強い地域にとって、観光産業の育成は、都市ブランドの刷新と雇用の多様化につながります。
想定される取り組みとしては、例えば次のようなものがあります。
- 海岸線や港湾エリアの再開発によるウォーターフロントの整備
- マリンレジャーやクルーズ観光の誘致
- 工場見学や産業遺産を組み込んだ産業観光ルートの構築
製鉄と新素材産業、そして海洋観光を組み合わせることで、「働く街」から「訪れたい・住みたい街」へとイメージを変えていくことが狙いといえます。
なぜ今、ポハンの動きが重要なのか
ポハンの転換は、一地方都市の話にとどまりません。2025年のアジア経済の流れの中で、次のような意味を持っています。
- 脱炭素時代の産業転換の象徴:鉄鋼などのエネルギー多消費型産業に依存してきた都市が、EV電池材料など新たな成長分野へ移行する動きは、世界各地で共通する課題への一つの回答です。
- 韓国のバッテリー戦略の一端:ポハンが「バッテリーの首都」を目指すことは、韓国全体としてEV・バッテリー分野で競争力を高めようとする流れと重なります。
- 地域経済の多角化:製鉄と新素材、観光という複数の柱を持つことで、景気変動や市場の変化に対する耐性が高まります。
日本の読者への示唆:重工業都市の未来像
日本にも、鉄鋼や造船など重工業で発展してきた港湾都市が少なくありません。人口減少と脱炭素の波のなかで、「次の一手」を模索している地域は多いはずです。
ポハンの取り組みは、次のような問いを私たちに投げかけています。
- 既存産業の強み(人材・技術・インフラ)を、どの新分野にどう生かすのか
- 産業転換と観光・暮らしやすさの向上を、どう両立させるのか
- 企業・行政・住民が、どのように未来像を共有できるのか
単に「古い産業から新しい産業へ」と入れ替えるのではなく、重層的に産業と都市のあり方を組み替えていく視点が重要だといえます。
「バッテリーの首都」への道のり
製鉄の街として世界に名を知られてきたポハンが、「バッテリーの首都」として新たなブランドを築くには時間がかかります。電池材料や人工黒鉛負極材、バイオ材料といった新分野での競争は激しく、国内外の企業との競合も避けられません。
それでも、長年培った素材産業の蓄積と、海洋観光という新たな魅力づくりを組み合わせるポハンの挑戦は、2025年以降の東アジアの産業地図に静かな変化をもたらしていく可能性があります。製鉄の街からEVと観光のハブへ——その歩みを追うことは、これからの地域経済のあり方を考えるうえで、有益なヒントを与えてくれそうです。
Reference(s):
South Korea's steel hub of Pohang turns to EV materials and tourism
cgtn.com








