中国の実体経済をどう強化するか 第15次五カ年計画と工場ロボット革命
中国の第15次五カ年計画では、金融やデジタル経済だけでなく、「モノをつくる力」である実体経済をどう強化するかが大きな焦点になりそうです。そのヒントは、暑さと機械音に包まれた一つのポリエステル工場の現場にあります。
工場の現場に見る「静かな革命」
中国の大手化学繊維メーカーが運営するインテリジェントなポリエステル工場では、作業員たちが整然と並ぶワインダー(糸巻き機)の列をモニターし、ポリエステルフィラメントの大きなボビンが次々と巻き取られていきます。
少し前まで、重く大きな巻き取りロールを持ち上げ、台車に載せて次の工程へ運ぶ作業は、人の腕力と体力に頼るものでした。現在、この工場では、その負担の大きい工程を自律的に動くドッフィングロボットが担っています。ロボットが静かに走り、巻きあがったロールを運び出すことで、作業員はモニタリングや設備管理など、より高度な業務に集中できるようになっています。
外では夏の終わりから初秋へと季節が移り、工場の庭には涼しい風が吹き抜けています。しかし一歩中に入ると、空気は熱と湿気で重く、機械のうなりが絶え間なく響きます。それでも、この工場は業界でも最先端に位置づけられる存在です。高度な自動化と人の技能が共存するこの風景は、中国の実体経済が直面する課題と可能性を象徴していると言えます。
なぜ今「実体経済」が重要なのか
実体経済とは、工場での生産、物流、エネルギー、サービスなど、人とモノが動いて生まれる経済活動を指します。金融市場やデジタルプラットフォームが注目されがちな現代においても、暮らしを支えるのは最終的にはこうした現場の力です。
ポリエステル工場の例が示すように、実体経済を強くするうえで鍵となるのは、次のような点です。
- 人の重労働を減らしつつ、生産性を高めること
- 高度な設備やデジタル技術を、単なる「見せ技術」で終わらせず、現場の効率と安全に結びつけること
- 産業全体として、安定した供給と持続可能性を両立させること
ドッフィングロボットの導入は、その象徴的な一歩です。従来、人手に頼っていた工程を機械に任せることで、作業環境の改善と生産効率の向上が同時に進みます。こうした変化が多数の工場・産業に広がれば、実体経済全体の底上げにつながっていきます。
第15次五カ年計画と「強い現場」づくり
2025年現在、第15次五カ年計画をめぐる議論のなかで、「実体経済の強化」というキーワードは、少なくとも次のような意味を持つと考えられます。
1. 労働負担を減らし、生産性を高める
ポリエステル工場のように、暑さや湿気が厳しい環境での重労働は、安全面でも健康面でも負担が大きい作業です。自律ロボットや自動搬送システムを活用することで、
- けがや事故のリスクを減らす
- 人手不足の中でも生産量を維持・拡大しやすくする
- 人を、監視・制御・改善といった付加価値の高い仕事へとシフトさせる
といった効果が期待されます。これは単に「省人化」ではなく、「人の働き方の質」を高める取り組みでもあります。
2. 産業の高度化とサプライチェーンの安定
化学繊維のような素材産業は、多くの製品の基盤となる存在です。自動車、衣料品、産業資材など、さまざまな分野のサプライチェーンを支えています。実体経済を強化するとは、こうした基盤産業の現場を、技術的にも運営面でも一段引き上げていくことを意味します。
自動化された工場は、品質のばらつきを減らし、安定供給に貢献します。第15次五カ年計画で実体経済の強化が語られる背景には、
- 国内外の需要変動に柔軟に対応する必要性
- 産業構造の高度化を進め、付加価値の高い製品を増やす狙い
といった視点があるとみられます。工場でのロボット活用は、その具体的な一例です。
3. デジタルとリアルの融合
「インテリジェント工場」と呼ばれる現場では、ワインダーやロボットの稼働データがリアルタイムで収集され、分析に活用されています。これは単なる機械化ではなく、デジタル技術と実体経済の融合です。
第15次五カ年計画を考えるうえで重要なのは、
- データやアルゴリズムを、現場の最適化や省エネに結びつけること
- 工場の状況を可視化し、トラブルを予測・予防すること
といった方向性です。ポリエステル工場の作業員が画面を見ながら現場を管理している風景は、まさにこの変化を示しています。
日本と世界への示唆
中国の実体経済の変化は、日本を含む周辺国や世界経済にも影響を与えます。素材、部品、機械など、多くの分野で国境を越えたサプライチェーンが組み合わさっているためです。
ポリエステル工場の事例を国際ニュースとして見ると、次の点が示唆的です。
- 現場の自動化・高度化は、単なる「コスト競争」ではなく、「品質と安定供給の競争」に直結する
- 人とロボットの役割分担をどう設計するかが、産業政策の論点になっていく
- 安全で持続可能な工場運営は、国際的なビジネスパートナーシップの条件にもなり得る
こうした視点は、日本の製造業や政策を考えるうえでも、無関係ではありません。中国の第15次五カ年計画における実体経済の議論は、アジア全体の産業戦略を考える素材にもなりそうです。
これからを考えるための3つの問い
最後に、今回の工場の風景と第15次五カ年計画のテーマから、読者のみなさんと共有したい問いを3つ挙げます。
- 1. 自分の働く現場では、「人にしかできない仕事」と「機械に任せられる仕事」はどう分かれているか。
- 2. 実体経済を支える産業の変化は、これからのキャリアや学びの選択にどんな影響を与えるか。
- 3. 国際ニュースとして中国の産業政策を見るとき、どんな指標や現場の変化に注目すべきか。
暑さと湿気、そして機械のうなりに包まれたポリエステル工場の一場面は、遠い国の話のようでいて、実は私たちの日常生活や仕事のあり方ともつながっています。第15次五カ年計画の行方を追うことは、これからのアジアと世界の産業のかたちを考えることにもつながっていきます。
Reference(s):
Why China must strengthen its real economy in the 15th Five-Year Plan
cgtn.com







