米国ブラックフライデーで膠着 AI時代の値引き合戦と消費者不信
2025年の米国ブラックフライデー商戦は、小売企業と消費者が互いに様子見を続ける「値下げチキンゲーム」となり、かつてのような一方的なセールの盛り上がりは見られませんでした。AIを使ったダイナミックプライシング(需要に応じた自動値付け)と、消費者側のAI活用が正面からぶつかり、ホリデー商戦の風景が変わりつつあります。
ブラックフライデー離れと値下げチキンゲーム
米国では、ブラックフライデーを中心とするホリデー商戦が、第4四半期売上の最大4割を占める重要な時期とされています。しかし今年は、多くの小売企業が「今すぐ大幅値下げ」をためらい、消費者も「もっと安くなるはず」と買い控える構図が鮮明になりました。マーケティングプラットフォーム企業コーディアルで戦略とインサイトを担当するロブ・ガーフ氏は、この状況を「ディスカウントのチキンゲーム」と表現しています。
背景には、景気への不安があります。民間調査機関コンファレンスボードが今週公表した調査によると、11月の米国の消費者信頼感指数は前回の95.5から88.7へと低下し、4月以来の低水準となりました。ダウ・ジョーンズがまとめたエコノミスト予測93.2も下回っており、とくに仕事探しや将来の収入への不安が強まっているとされています。
また、コーディアルの調査では、ブラックフライデーをホリデーショッピングの「本格スタート」と位置づけると答えたのは消費者の20パーセントにとどまりました。59パーセントはそれより前に買い物を始め、22パーセントはブラックフライデー以降やギリギリになってから買うとしています。もはや「この1日に集中して買う」というスタイルは崩れ、多くの人が長い期間に分散して購入するようになっていることがうかがえます。
本当に安いのか 広がる値引き不信
ブラックフライデーを巡る不信感は、数字にも表れています。ライトスピードコマースの調査では、84パーセントの消費者が「小売店はブラックフライデー前に一度値上げし、その後の値引きを大きく見せている」と考えていることが分かりました。
金融情報サイトのウォレットハブが3100品目を調べたところ、ブラックフライデーの「お買い得品」のうち36パーセントは実際には値引きがなく、約1割はセール前よりも高くなっていたといいます。
さらに、AIを使ったプライシングエンジンが、消費者ごとに異なる「通常価格」を表示することで、こうした手法を見抜きにくくしています。オンラインで同じ商品を見ていても、閲覧履歴や支出パターンによって、表示価格や割引率が人によって変わるケースが増えています。
規制当局も動き始めています。カナダの競争局は今週、「見かけ上の値引きを大きく見せるために通常価格を人為的に引き上げる」行為に対して警告を出しました。米国では同様の手法が依然として広く行われているとされ、監視の目が強まっています。
一方で、最も厳しいチェックをしているのは消費者自身かもしれません。掲示板サイトのレディットでは、約50件のセール品を追跡したユーザーが「多くは数か月前と同じ価格か、10月に一時的に値上げしただけだった」と報告し、共感を集めました。ある投稿では、860ドルから536ドルへ値下げと宣伝されたテレビが、実は8月には485ドルで売られていたことを示すスクリーンショットも共有されています。
小売AI vs 消費者AI ブラックフライデーの膠着
ブラックフライデーの力学を変えているのは、値引きの水面下で進むAI同士の攻防です。小売企業はAIを使って、アクセス状況や在庫、個々の購買履歴をもとに価格を細かく変動させ、利益を最大化しようとしています。一方で消費者も、AIを「本当にお得かどうか」を見極めるための道具として使い始めています。結果として、双方が相手の出方を見ながら動く膠着状態が生まれている、とアナリストたちは見ています。
デロイトがまとめた2025年ホリデー調査によると、買い物に生成AIを使うと答えた人は全体の33パーセントで、昨年の16パーセントから大きく増えました。特に若い世代ではその傾向が強く、Z世代では43パーセントが生成AIを活用するとしています。AIを利用する人の半数以上は、割引が本物かどうかの判定や、価格比較のためにツールを使っているといいます。
オープンAIが11月24日に公開したショッピングリサーチ機能も、その一例です。この機能は、セール情報が実際にお得かどうかをチェックすることを目的としています。一方で、マーチャンダイジング用のAIツールがピーク時のデジタル売上の3〜4割を左右するとも言われる中、同じ商品を検索しても、二人の利用者がまったく異なる結果や価格を提示されるケースが増えています。その違いは、これまでの支出額や値上げに対する感度など、各人のデータに基づいているとみられます。
関税とコスト増 小売企業の苦境
小売側にとっては、値引きに踏み切りにくい事情もあります。イェールのバジェットラボによると、輸入品にかかる関税率は2025年初めの2.4パーセントから10月末には17.9パーセントへと上昇しました。コストの増加は、そのまま値下げ余力の縮小につながります。
市場調査会社サーカナの主任リテールアドバイザーであるマーシャル・コーエン氏は、「サンタクロースはちゃんと来るが、ツリーの下が箱であふれかえることは期待しないほうがよい」と表現し、プレゼントの量が抑えられる可能性を指摘しました。
アマゾンなど複数のプラットフォームで販売するアップストリームブランズは、例年ホリデーシーズンに年間売上の最大35パーセントを稼ぎ出します。しかし今年は関税負担が重く、同社は割引率を抑えざるを得なくなりました。経営者のダン・ペスコース氏は、価格引き上げや一部コストの自社負担で影響を和らげようとしたものの、利益を守るためには「割引そのものを減らすしかない」と判断したとしています。
消費者の財布のひもは固く 支出は4年ぶり減少
デロイトの調査によると、ブラックフライデーからサイバーマンデーにかけての期間に予定している1人当たりの支出額は平均622ドルで、前年より4パーセント減少しました。減少は4年ぶりです。買い物客の77パーセントが「全体として物価はさらに上がる」とみており、57パーセントが景気の悪化を予想していることも分かりました。将来への不安が、目前のセールでも財布のひもを固くしていると言えそうです。
AIが生む新たなリスク 巧妙化するオンライン詐欺
AIは値引きの見抜き方だけでなく、詐欺の手口も変えています。ノードVPNの調査では、ブラックフライデーの時期に、フィッシングメールが620パーセント増加し、偽の電子商取引サイトも250パーセント増えたと報告されています。これらの偽サイトは、大手小売企業のロゴやサイトデザインをAIで真似し、レビューも生成AIで「それらしく」作り込むことで、消費者をだまそうとしています。
見た目が本物そっくりなだけに、リンクを安易にクリックしたり、カード情報を入力したりするリスクは高まっています。オンラインで買い物をする際は、次のような基本的な対策が一段と重要になりそうです。
- メールやSNSのリンクからではなく、公式アプリやブックマークからアクセスする
- あり得ないほど大きな割引には一度立ち止まり、他サイトの価格も確認する
- レビューが不自然に似通っていないか、日付が偏っていないかをチェックする
日本の読者へのヒント セールとどう向き合うか
今回のブラックフライデーの膠着は、米国の話にとどまりません。ダイナミックプライシングやパーソナライズされた広告、AIを使った価格比較は、日本を含む世界のオンラインショッピングでも広がりつつあります。
「AI vs AI」の構図は、消費者にとって必ずしも悪いことではありません。うまく使えば、自分では追い切れない価格情報を整理し、本当にお得なタイミングを見極める助けになります。ただし、AIが見せてくれる「おすすめ」や「お得」が、必ずしも自分の価値観や予算に合っているとは限りません。
今年のブラックフライデーをめぐる米国の動きは、次のような問いを私たちに投げかけています。
- この値引きは、本当に「基準となる価格」と比べて安いのか
- AIの提案は、自分の行動やデータにどのような前提を置いているのか
- 短期的な「お得感」よりも、長期的な家計全体で見て合理的な選択か
ホリデーシーズンのニュースをきっかけに、セールとの付き合い方や、AIとどう距離をとるかを一度立ち止まって考えてみることは、日本の私たちにとっても意味のあることかもしれません。
Reference(s):
U.S. retailers, customers face off in Black Friday stalemate
cgtn.com








