グリーン経済は2030年に7兆ドル規模へ WEF・BCGが示す成長エンジンの実像
グリーン経済、2030年に7兆ドル超へ 世界経済フォーラムとBCGの2025年報告
グリーン経済はすでに世界で5兆ドル超の市場となり、2030年までに7兆ドルを超える見通しです。世界経済フォーラム(WEF)とボストン コンサルティング グループ(BCG)が2025年に公表した共同報告書は、低炭素ビジネスがこの10年の主要な成長エンジンになりつつある現状を示しています。
市場規模は既に5兆ドル、年平均6%成長ペース
WEFとBCGの2025年版報告書『Already a Multi-Trillion-Dollar Market: A CEO Guide to Growth in the Green Economy』によると、グリーン経済(低炭素の財・サービスを含む市場)は、すでに年間生産額が5兆ドルを超えています。
報告書は、今後2030年までの間にさらに2兆ドル規模が上積みされ、合計で7兆ドルを超えると予測しています。年平均成長率は約6%と試算されており、過去10年でテクノロジー分野に次ぐ成長スピードだと位置づけられています。
企業収益と資本市場で「グリーン」が優位に
報告書は、世界の上場企業6900社を対象に、グリーン関連事業と従来型事業の成長を比較しました。その結果、グリーン志向のビジネスラインは2020〜2024年に年平均12%成長し、従来型の売上成長率のおよそ2倍に達したとされています。
- グリーン関連事業の売上成長率:年平均約12%(2020〜2024年)
- 従来型事業の売上成長率:その半分程度
- グリーン売上を持つ企業は、負債・株式の調達コストを43〜104ベーシスポイント(0.43〜1.04%)低減
- 株式市場でのバリュエーション(企業価値評価)は同業他社より12〜15%高い水準
こうした数字は、投資家がグリーン収益を持つ企業の長期的な収益力とレジリエンス(変化に耐える力)を高く評価していることを示唆します。WEFの気候・自然経済担当責任者ピム・ヴァルドレ氏は、過去の分析を踏まえ、グリーン市場への先行投資は「実際に報われている」と強調しています。
コスト急落で変わる「排出削減の計算式」
グリーン経済の拡大を支えているのが、クリーン技術のコスト低下です。報告書によれば、2010年以降、主要な技術のコストは大きく下がりました。
- 太陽光発電:2010年以降、発電コストが約90%低下
- リチウムイオン電池:同じく約90%低下
- 洋上風力発電:およそ半分の水準まで低下
この結果、地球の平均気温上昇を1.5度に抑えるために必要な温室効果ガス削減のうち、55%分はすでに「他の選択肢と価格競争力のある」技術で達成可能になっていると試算されています。
- 55%:すでにコスト競争力のある技術で削減可能な部分
- 20%:小さな追加コスト(マイナーなコストプレミアム)で実現可能な削減
- 5%:行動変容(消費や利用行動の変化)が鍵となる削減
- 残り:低炭素水素、CO2回収ネットワーク、先進バイオ燃料など重工業向けソリューションで、さらなる支援が必要な領域
報告書は、これら重工業分野のソリューションは「すでに一定規模で展開されているが、その進展は地域ごとに不均一だ」と指摘しています。欧州の約400億ユーロ規模の補助金パイプラインや、中国で進む国家支援付きの水電解装置(電解槽)導入は、こうしたフロンティア技術の「実験場」になっていると位置づけられています。
中国がクリーン技術の特許と投資で存在感
報告書は、クリーンエネルギー関連の技術開発と投資における中国の存在感にも触れています。中国企業は現在、太陽光、電池、水素、電気自動車といった分野で、世界最大数の特許を出願しているとされています。
また、中国は2030年までに導入が見込まれる再生可能エネルギーの新規容量投資の約60%を資金面で支えていると試算されています。2024年のクリーンエネルギー投資額は6590億ドルに達し、欧州連合(約4100億ドル)や米国(約3000億ドル)をそれぞれ上回りました。
欧州の補助金プログラムと並び、中国での大規模な設備導入は、グリーン経済の次の成長分野のあり方を占う重要な「テストケース」として注目されています。
企業事例:排出を12%減らしながら売上20%増
今回の分析には、WEFの「CEO気候リーダーズ・アライアンス」に参加する14社のケーススタディも含まれています。これら企業は、気候戦略と財務成長をどのように両立させているのか、自社データを公開しました。
全体の集計結果では、2019〜2023年の4年間で、これら企業の温室効果ガス排出量は絶対値で12%削減された一方、売上高は20%増加したとされています。報告書は、気候戦略と損益目標は「トレードオフではなく、互いに補完し得る」ことを示す例だと位置づけています。
代表的な事例として、次の3社が紹介されています。
- シュナイダーエレクトリック
約20年にわたるエネルギーマネジメントソフトウェア事業へのシフトの結果、2024年時点で売上の約90%がEUのグリーン分類(グリーンタクソノミー)基準を満たすとされます。この間、売上は90億ユーロから380億ユーロへと拡大しました。 - インドの発電企業 ReNew
年金基金による出資と開発銀行による優遇融資(コンセッショナルローン)を組み合わせる金融スキームで、再生可能エネルギー容量を28ギガワットまで拡大しました。成長率は年18〜20%とされています。 - ハイデルベルク・マテリアルズ
ノルウェーのCO2回収施設と連動した証書(チェーン・オブ・カストディ証明)を用い、「ネットゼロ」セメントを市場に提供しています。報告書は、こうした早期のオフテイク契約(長期購入契約)が、先端的な設備投資のリスクを下げる手段になると指摘します。
出遅れ組にはコスト増のリスク 「窓」は狭まりつつある
一方で報告書は、グリーン転換を先送りする企業にとって、参入コストが高まるリスクを警告しています。送電網への接続待ち行列が長期化していることや、重要鉱物のサプライチェーンが逼迫しつつあることから、後発組ほど必要なインフラや資源を確保しにくくなる可能性があるためです。
そのうえで、企業に対しては次のような行動を提案しています。
- 新技術・新設備に対するオフテイク契約(長期購入契約)を早期に確保する
- 製品仕様にライフサイクル全体の炭素データを組み込み、顧客と共有する
- サステナビリティを「マーケティングの付属品」ではなく、バランスシート(財務)の一部として扱う
報告書は、「グリーン経済はもはや遠い将来の約束ではない」と強調し、今後数年が企業のポジション取りにとって重要な時間帯になると結論づけています。
政府への示唆:6つの政策レバー
最後に、報告書は政府に対して、グリーン経済の成長を加速しつつ、公平な移行を支えるための6つの政策オプションを提示しています。
- 長期的で一貫した脱炭素目標を設定する
- グリーン製品・サービスを優先する公共調達を進める
- 民間投資のリスクを軽減するための金融支援(デリスキング)手段を整える
- 再生可能エネルギーや関連インフラの許認可プロセスを迅速化する
- 脱炭素投資に連動した税制優遇を設計し、既存制度と整合させる
- 企業が複数市場で活動しやすいよう、規格・基準を国際的に調和させる
グリーン経済が数兆ドル規模の成長エンジンとして現実のものになりつつある今、企業と政府の意思決定は、気候変動対策だけでなく、次世代の競争力にも直結していきます。日本を含む各国がどのような戦略を描くのか、今後の議論が一層重要になりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








