香港が支える人民元国際化の次のステージ:CIPSの急成長
中国が進める人民元(RMB)の国際化と独自の越境決済インフラ整備が、2024年から2025年にかけて一段と加速しています。その中核にあるのが、人民元建ての国際決済ネットワーク「クロスボーダー人民元決済システム(CIPS)」です。CIPSの急拡大とデジタル人民元の取り組みが重なり合う中で、香港特別行政区が次のステージを支える重要なハブとなる可能性が注目されています。
人民元国際化と第15次五カ年計画
中国の第15次五カ年計画の「勧告」には、人民元を世界経済の中で一段と広く使われる通貨に押し上げること、資本取引を含む資本勘定の一層の開放、そして独立性と安全性の高い越境決済システムを構築することが明確に掲げられています。
こうした目標の中心に位置づけられているのが、クロスボーダー人民元決済システム(CIPS)です。CIPSは、貿易や投資、金融取引における人民元の越境フローを支える基盤インフラであり、金融安定にも直結する存在になりつつあります。
CIPSとは何か:人民元決済の基盤インフラ
CIPSは中国人民銀行が構築した決済システムで、世界中の金融機関を結びつけています。現在は世界で1,700以上の参加機関と接続し、そのネットワークを通じて190の国と地域にある5,000超の銀行にリーチしています。人民元が使われる場所には、事実上CIPSのネットワークが存在するといえます。
CIPSの世界的な到達度は、依然として国際銀行間通信協会(SWIFT)には及びませんが、人民元国際化の柱としての地位はすでに確立しつつあります。人民元は、決済通貨として世界で3番目に多く使われる通貨となり、貿易金融でもトップ3に入る通貨となっています。
実際に、貨物貿易における人民元決済の比率は、2024年には27.2%に上昇し、2025年上半期にはさらに28.1%まで高まりました。貿易決済に人民元を使う動きが着実に広がっていることが数字からも読み取れます。
急成長するCIPS:数字が示すスケール
CIPSの取扱額も急速に拡大しています。2024年には、クロスボーダー取引の決済額が175兆元(約24.7兆ドル)に達し、前の年から43%という大幅な増加となりました。過去5年間の平均成長率も40%超と、高い伸びが続いています。
この拡大は、単に取引件数が増えただけでなく、インフラそのものが整備され、人民元を使った国際取引が行いやすくなっていることの表れでもあります。CIPSの拡張によって、
- 決済プロセスの効率化
- コストの削減
- 仲介銀行への過度な依存の軽減
といった効果が生まれています。国境をまたぐ取引を、より直接的でシンプルな形で処理できるようになりつつあるのです。
香港が担いうる役割:越境人民元ビジネスのハブ
こうしたCIPSのネットワーク拡大と人民元国際化の流れの中で、香港特別行政区の役割が改めて注目されています。人民元国際化の次のステージを、香港が支えることへの期待が高まっています。
香港は、長年にわたり中国本土と世界の資金や情報が行き交う場として機能してきました。多くの国や地域の金融機関や投資家が集まり、中国本土の制度や商慣行と、グローバルなルールの両方に通じた市場でもあります。
CIPSが190の国と地域を結ぶネットワークへと成長した今、その結節点として、香港に拠点を置く金融機関やインフラが果たしうる役割は小さくありません。例えば、
- アジアと欧米の時差を埋める「タイムゾーンの橋渡し」
- 人民元と他通貨の決済・為替取引をワンストップで処理する窓口
- 新しい決済スキームや商品を試す実験場
といった機能が考えられます。CIPSと連動した人民元ビジネスを、地理的にも制度的にも結びつけるハブとしてのポジションは、香港にとっても、中国本土と世界にとっても重要になり得ます。
デジタル人民元と多国間デジタル通貨ブリッジ
人民元国際化の動きは、従来型の決済インフラだけで完結しているわけではありません。中国は、国際デジタル人民元オペレーションセンターの設立や、多国間の中央銀行デジタル通貨(CBDC)ブリッジへの参加など、デジタル通貨の分野でも取り組みを進めています。
国際デジタル人民元オペレーションセンターは、デジタル人民元を使った越境取引を支える拠点として構想されており、CIPSと連携することで、アナログとデジタルが一体となった決済ネットワークを形づくる可能性があります。
多国間CBDCブリッジは、複数の中央銀行デジタル通貨を接続し、国境をまたぐ支払いを効率化する試みです。CIPSが既存の銀行間決済を担い、CBDCブリッジが新しいデジタル経路を開くことで、人民元の利用シーンはさらに広がる余地があります。
ここでも、国際的な金融プレーヤーが集まる香港のような拠点が、技術実装や実証実験、ビジネスモデルの構築などで先行的な役割を果たすことが期待されます。
これから数年の焦点:何が問われるのか
2024年から2025年にかけての動きを踏まえると、人民元国際化とCIPSの今後を考えるうえで、次のような点が注目されます。
- 貿易決済における人民元比率の推移
2024年の27.2%、2025年上半期の28.1%という数字が、この先どこまで上昇していくのか。 - CIPSネットワークの広がり
参加機関数や接続する国・地域の増加ペースが、今後も高い伸びを維持できるか。 - 香港の役割の具体化
香港の金融機関や市場インフラが、CIPSやデジタル人民元の取り組みとどのように結びついていくか。 - デジタルと伝統的決済の共存
CIPSのような既存インフラと、CBDCブリッジなど新しい仕組みが、どのような分担で機能していくのか。
人民元の国際化は、一足飛びに進むものではなく、制度整備や市場の受け入れ、技術インフラの構築が複層的に絡み合うプロセスです。CIPSの成長と香港のポジション、そしてデジタル通貨の実装がどのように組み合わさっていくのかは、アジアと世界の金融地図を静かに変えていく可能性を秘めています。
Reference(s):
Hong Kong SAR can power the next stage of RMB internationalization
cgtn.com








