EUが米国の欧州人入国制限を批判 デジタル規制DSAをめぐり摩擦
欧州連合(EU)のテック規制をめぐり、米国が欧州関係者へのビザ制限に踏み切り、EU側が「規制の自律性」を守る構えを強めています。オンライン空間の安全と表現の自由、その線引きをどこに置くのか――年末のこの時期、米欧の摩擦が一段と表面化しました。
何が起きたのか:米国が5人にビザ制限
米国務省は今週、欧州の5人に対するビザ制限(入国制限)を発表しました。対象には、前欧州委員(ティエリー・ブルトン氏)も含まれます。米側は、米国のソーシャルメディア上での「コンテンツ検閲」に関与したと主張しています。
対象とされたのは、報道によると次の5人です。
- ティエリー・ブルトン氏(前欧州委員)
- イムラン・アハメド氏(英国籍、米国拠点の団体 Center for Countering Digital Hate のCEO)
- アンナ=レーナ・フォン・ホーデンベルク氏(ドイツの非営利団体 HateAid)
- ヨゼフィーネ・バロン氏(同じくHateAid)
- クレア・メルフォード氏(Global Disinformation Index共同設立者)
米国務省のサラ・ロジャース公共外交担当次官は、ブルトン氏について、EUのデジタルサービス法(DSA)の「首謀者(mastermind)」と表現したとされています。
EUの反応:「必要なら迅速かつ断固として対応」
これに対しEUは、必要であれば「迅速かつ断固として」規制の自律性を守るため行動すると警告しました。欧州委員会の報道官は、表現の自由が欧州の基本的権利であり、米国とも共有される中核的価値だと述べたうえで、EUには民主的価値観と国際的なコミットメントに沿って経済活動を規制する主権があると強調しました。
また、EUのデジタル規則は、企業にとって「安全で公正、競争条件が平等な環境」を確保する設計で、差別なく適用されると説明。米当局に説明を求め、対話を続けているとしています。
欧州各国も相次いで支持、ただし論点は一枚岩ではない
欧州側からは政治的な支援の発信が続きました。
- EUの産業戦略担当であるステファン・セジュルネ欧州委員(執行副委員長)は、ブルトン氏をDSAの主要な推進者として擁護し、オンライン上の監督を進める姿勢を示しました。
- フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、今回の措置を「威嚇と強制」に当たるとの見方を示し、欧州のデジタル主権と規制の自律性を守ると述べました。
- フランスのジャン=ノエル・バロ外相、ドイツのヨハン・ワデフル外相はいずれも、DSAはEU内向けであり、域外(EU外)に及ぶものではないとの立場を示しました。
- 英国政府は、各国がビザ規則を定める権利は認めつつ、最も有害なコンテンツからネット空間を守ろうとする法律や制度を支持すると述べました。
一方で、この問題は「EUの規制が正しいか/米国の自由が正しいか」という単純な二択ではありません。安全対策(ヘイト対策、偽情報対策)と、表現の自由や透明性をどう両立させるかという、民主社会に共通する難題が、国境をまたいだプラットフォーム上で先鋭化している形です。
背景:DSAの執行強化と、米国テック企業への影響
EUは、ヘイトスピーチ、誤情報(misinformation)、偽情報(disinformation)への対応などを目的に、DSAを2022年11月16日に施行しました。近ごろEUが執行を強めるなかで、米国側は、規制が表現の自由を狭め、米国テック企業に追加の順守負担を課すという観点から反対を表明してきたとされています。
また、今月12月5日、欧州委員会はDSAにもとづく初の「非順守」判断として、ソーシャルメディアXに対し、青い認証マーク設計の問題、広告リポジトリ(広告の公開データベース)の透明性不足、研究者への公開データ提供の不備を理由に、1億2000万ユーロの制裁金を科しました。
これからの焦点:対話か、報復の連鎖か
今回のビザ制限は、個人を対象にした措置である一方、実質的には「欧州のルール作り」と「米国のプラットフォーム文化」の衝突を象徴しています。
今後の焦点は次の3点になりそうです。
- 米国側がどのような根拠で制限を行ったのか(EUが求める「説明」の中身)
- EUが「規制の自律性」を守る手段として、具体的に何を選ぶのか
- オンライン空間の安全と表現の自由を両立させる実務(透明性、異議申し立て、研究アクセスなど)がどこまで整備されるか
年末のニュースとしては地味に見えても、ネット空間のルールは、私たちの情報環境を静かに作り替えます。対立が深まるのか、落としどころが探られるのか。米欧双方の次の一手が注目されます。
Reference(s):
EU slams U.S. travel bans on Europeans over tech regulations
cgtn.com








