現代ビジネスと『The Analects and the Abacus』:利益と道徳をつなぐliの視点 video poster
儒教の中心概念とされる「li(礼)」は、ビジネスの世界とは一見縁遠いように見えます。しかし、利益と道徳のバランスをどう取るかに悩む現代の企業にとって、この「礼」の視点は新しいヒントを与えてくれます。本記事では、日本の実業家 Eiichi Shibusawa の著書『The Analects and the Abacus』を手がかりに、儒教思想と現代ビジネスの交差点を考えます。
li(礼)が示すビジネスの土台
儒教のli(礼)は、社会の中で人と人がどうふるまうべきかを示す規範や儀礼のイメージと結びつけて語られてきました。ビジネスに引き寄せて考えると、企業文化や組織のルール、取引先や顧客への接し方といった、目に見えにくい約束ごとにあたる部分だと言えます。
持続可能な企業には、利益を追いながらも、社会や関係者に対する責任を忘れないバランス感覚が求められます。単に売り上げを伸ばすだけでなく、「どのようにその利益を生み出したのか」というプロセスも問われる時代です。li(礼)の発想は、そのプロセス全体に節度と一貫性を与える枠組みとして機能します。
- 短期の利益だけでなく、長期的な信頼を重視する
- 社内外の関係者との関係に、一定の礼節と敬意を保つ
- 組織として守るべき「ふるまいの基準」を明文化し、共有する
こうした「礼」の積み重ねは、数字だけでは測れない企業の信頼資本を形づくる基盤になります。
Eiichi Shibusawa と『The Analects and the Abacus』
日本の実業家である Eiichi Shibusawa は、儒教の原理に深く影響を受けながら、道徳とビジネスの関係を探究しました。その成果の一つが、著書『The Analects and the Abacus』です。タイトルが示すように、Analects(論語)とAbacus(算盤)という二つの言葉には、倫理と商業をどう結びつけるかというテーマが込められているように読み取れます。
この本では、次のような問いが正面から取り上げられています。
- ビジネスにおいて、倫理と商業をどのように統合するか
- 人への思いやり(benevolence)と、自らの利益(self-interest)をどう両立させるか
言い換えれば、善意だけでも、利益だけでも、企業は長く続かないという現実に向き合いながら、その中間点を探ろうとする試みだと言えます。Shibusawa は、道徳と利益を対立させるのではなく、両方を支える共通の土台を探そうとしたとも解釈できます。
liにもとづく現代企業のフレームワーク
競争が激しい現代のビジネス環境でも、こうした考え方はなお有効です。儒教的なli(礼)の視点を取り入れることは、現代の企業に次のようなフレームワークを与えてくれます。
- 社内外のやりとりに、一貫した礼儀と敬意を保つ
- 利益を追求するプロセスに、あらかじめ倫理的な基準を組み込む
- 組織のルールや儀礼を通じて、社員が共有する価値観を育てる
これにより、企業は単なる利益の集団ではなく、社会の一員として信頼される存在になりやすくなります。li(礼)は、抽象的な理念ではなく、日々の会議や取引、評価や採用の場面で具体的な選択を導く「行動の型」として働きます。
中国から日本へ、東アジアへ広がる儒教の影響
もともと中国で育まれた儒教思想が、日本の実業家である Eiichi Shibusawa の仕事を通じてビジネスの世界に取り入れられたことは、東アジアにおける価値観のつながりを示しています。『The Analects and the Abacus』という物語は、中国から日本へと視点を移しながら、儒教が東アジア全体のビジネス観に与えてきた深い影響を映し出しています。
人と人との関係を重んじる姿勢や、道徳と利益を同時に考えようとする態度は、東アジアの多くの企業文化に共通するテーマでもあります。儒教は、その背景にある思考の基盤として、今も静かに働き続けていると言えるでしょう。
利益か道徳かではなく、「両方をどう実現するか」
2025年の今も、多くの企業が短期的な収益と長期的な信頼、効率と人間らしさの間で揺れています。その中で、『The Analects and the Abacus』が示すようなli(礼)にもとづく視点は、「利益か道徳か」という二者択一ではなく、「両方をどう実現するか」という問いを投げかけます。
自分の働き方や組織の意思決定を振り返るとき、次のような問いを持ってみることは一つのヒントになるかもしれません。
- この判断は、短期の利益だけでなく、関わる人たちへの思いやりも反映しているか
- 私たちの組織のli(礼)と言えるルールや習慣は、何を大切にするために存在しているか
- 道徳と利益のバランスを、次の世代にどう引き継いでいきたいか
こうした問いを共有すること自体が、現代のビジネスにおける新しい「礼」のかたちになっていくのかもしれません。日々の小さな判断の積み重ねの中で、Analects(論語)とAbacus(算盤)をどう結びつけるのか。その試行錯誤こそが、持続可能な企業を育てるプロセスだと言えます。
Reference(s):
cgtn.com








