中国の漢服ブームで変わる山東省・曹県 若者文化が地方都市を動かす video poster
中国の伝統衣装「漢服(かんふく)」ブームが、山東省の地方都市・曹県(Caoxian)の産業構造まで変えつつあります。過去10年ほどで急成長したこの文化トレンドが、2025年の今、どのように地域経済と若者のアイデンティティを動かしているのでしょうか。
若い世代が漢服に惹かれる理由
中国本土の若者たちだけでなく、海外で暮らす中国出身の人々のあいだでも、漢服は「ルーツとつながる」ための手段として注目されています。SNSや動画配信サービス、そして人気の歴史・ファンタジー系テレビドラマが、この流れを大きく後押ししてきました。
漢服ブームの背景には、次のような要素が重なっていると考えられます。
- 文化的アイデンティティの再発見:急速な都市化やグローバル化のなかで、自分の文化的ルーツを見直したいという意識が高まっていること。
- エンタメとの相乗効果:歴史ドラマやオンラインゲームに登場する衣装スタイルとしての漢服が、視覚的な「憧れ」を生み出していること。
- SNS映え:写真やショート動画との相性がよく、撮影会やイベントなど、日常と非日常を行き来する楽しみ方が広がっていること。
こうした流れのなかで、漢服は単なる「コスチューム」を超え、日常のファッションやライフスタイルの一部としても受け入れられつつあります。
山東省・曹県が「漢服の町」になるまで
この文化トレンドの波をいち早くビジネスチャンスに変えた地域の一つが、山東省の曹県です。もともと衣装やコスチュームの製造が盛んだったこの地域では、世界的な需要の変化に合わせて、工場やデザイナーたちが徐々に漢服へとシフトしてきました。
コスプレ衣装から漢服専門へ
曹県の起業家や製造業者は、これまで舞台衣装や仮装向けのコスチュームを中心に生産してきました。しかし、漢服の人気が高まるにつれて、次のような変化が起きています。
- デザインの方向転換:汎用的な衣装から、歴史的なスタイルや伝統模様を取り入れた本格的な漢服へと商品ラインを変更。
- 生産体制の高度化:より繊細な刺繍や生地を扱うための技術・設備投資が進み、職人のスキルも磨かれていること。
- ブランド志向の強まり:無名の下請けから、自社ブランドとしてオンラインで直接消費者に販売する試みが増えていること。
こうした動きにより、曹県は「安価なコスチュームの産地」から、「漢服の一大生産拠点」として知られるようになりつつあります。
ロンドンから曹県へ 国境を超える漢服熱
漢服ブームは、中国本土の都市部だけにとどまりません。ロンドンをはじめとする海外の都市でも、若い人たちが漢服をまとって撮影会をしたり、文化イベントに参加したりする様子が見られます。
海外での漢服人気は、曹県のような生産地にも直接つながっています。オンラインショップや越境EC(国境をまたぐ電子商取引)を通じて、曹県で作られた漢服が世界各地のファンのもとへ届けられているからです。
国際メディアの記者が、ロンドンの漢服ファンと曹県の工場をそれぞれ取材し、「文化の受け手」と「作り手」の両方の視点から、この現象を追う動きも出ています。漢服は、単に伝統文化の象徴というだけでなく、中国と世界を結ぶ新しい「ソフトな架け橋」として機能し始めていると言えるでしょう。
文化トレンドが地方経済に与えるインパクト
曹県のケースは、文化トレンドが地方都市の経済構造をどのように変えうるかを示す、一つの興味深い事例です。
考えてみたいポイントは、次のような点です。
- 文化×製造業:グローバルな文化ブームが、既存の製造基盤を持つ地方都市に新しい付加価値をもたらしていること。
- デジタル経済との連動:SNSやECがあるからこそ、ロンドンの若者と曹県の工場が、距離を超えて直接つながることができる現実。
- 若者の就業機会:デザイン、マーケティング、ライブ配信など、従来の工場労働とは異なる仕事も生まれつつあること。
一方で、トレンドに依存しすぎるリスクや、短期間での需要変動にどう対応するかといった課題もあります。文化とビジネスのバランスをどう取るのかが、今後の焦点になりそうです。
これからの漢服と「文化を着る」という感覚
2025年現在、漢服ブームは一過性の流行を超え、「文化を身にまとう」というライフスタイルの提案へと広がりつつあります。曹県のような地方都市が、その最前線の一つになっていることは、グローバルな読者にとっても示唆的です。
日本に住む私たちにとっても、「自国の伝統衣装や文化を、デジタル時代にどうアップデートしていくか」という問いは他人事ではありません。漢服と曹県のストーリーは、文化と経済、ローカルとグローバルの関係を静かに問い直す、ひとつのヒントになりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








