新疆テケス「八卦の街」:易経が息づく中国の都市デザイン
持続可能な都市づくりやユニークな街並みが注目されるなか、新疆テケス県の「八卦の街」は、易経の思想と現代の都市計画が重なり合う国際ニュースとして静かな関心を集めています。
天山山脈のふもとに現れた「八卦の街」
新疆テケス県は、天山山脈の北麓に広がるイリ河谷に位置し、上空から見ると一面に八卦図が浮かび上がるような独特の都市構造を持っています。冬に撮影されたドローン映像では、雪景色と円形の街路が重なり合い、幾何学模様のような光景が広がっています。
この都市設計が構想されたのは1930年代。当時の官吏・邱宗浚が、易経の有名な一文「太極生両儀、両儀生四象、四象生八卦」の思想を下敷きに、街全体を一つの太極図として描き出しました。
太極を中心に八本の大通りが放射状に伸びる
街の中心には、陰と陽の調和を象徴する「太極壇」が据えられています。ここを起点に、八卦を象徴する八本の大通りが放射状に伸び、さらに同心円状の環状道路がそれらをつないでいます。
それぞれの通りには、易経の八卦の名前が付けられています。北側の坎の通りでは、水を連想させるしずく模様のランタンが並び、南側の離の通りでは、火のゆらめきを思わせる照明が灯ります。街路そのものが、自然界の要素をテーマにした「教科書」のような役割を持っているのが特徴です。
こうした左右対称の構造は美しい一方で、初めて訪れた人には少し方向感覚を失わせることもあります。しかし、細部に潜むモチーフや通りの名前に気を配ると、都市そのものを読み解く楽しさが見えてきます。
景観を守るための低層建築と地形の工夫
テケスの街並みを特徴づけているのが、5階建て程度までの低層建築です。建物の高さを抑えることで、どこからでも地平線と周囲の山々が見渡せるようになっており、自然のスケール感を損なわないように配慮されています。
都市計画は、見た目の美しさだけではありません。街全体には緩やかな傾斜が設けられており、自然な水の流れを活用することで、追加のポンプ施設など大規模設備に依存しない排水システムを実現しています。
- 緩い傾斜で雨水や生活排水の自然流下を促す
- 二次ポンプ場などのインフラを減らし、エネルギー消費を抑える
- 結果として、維持コストの軽減と環境負荷の低減につなげる
人と自然が調和して生きるという哲学が、そのまま街の構造に組み込まれていると言えます。
交通の流れにも表れる「緩やかなバランス」
八方向に道が伸びるテケスでは、交通管理も工夫されています。観光客が少ない閑散期には、各所に配置されたラウンドアバウトが信号の代わりとなり、車を完全に止めずにゆるやかに流す役割を果たします。
一方、人や車が増える繁忙期には、地元当局が可動式の信号や誘導を行い、混雑を抑えながら安全を確保します。静かな時期とにぎやかな時期で運用を切り替えるこのやり方にも、「状況に応じてバランスを取る」という太極や八卦の発想を重ねたくなります。
夜になると浮かび上がる「光の太極図」
日が暮れると、テケスの街はまた別の表情を見せます。太極をテーマにした観覧車がゆっくりと回転し、中央には陰陽模様が浮かび上がります。その動きは、絶えず変化しながらも調和を保つ宇宙観を象徴しているかのようです。
街では、八卦の名を冠した武術大会などのイベントも開かれ、広場や街路は東洋の哲学や中国文化が体感できる空間へと変わります。テケス全体が「屋根のない博物館」として機能し、住民にとっては日常の風景でありながら、訪れる人にとっては文化を学ぶ場にもなっています。
「読み解きながら歩く」新しい都市体験
テケスの八卦都市は、単なる観光地というより、哲学書のページをめくるように歩いて楽しむ街です。交差点一つ、ランタン一つに意味が込められ、古代の宇宙観と現代のライフスタイルが折り重なっています。
グローバルに都市開発が進み、どこに行っても似たような景色になりがちな今だからこそ、易経という古い知恵を都市の設計図にまで落とし込んだテケスの試みは、世界の読者にとっても考えるきっかけを与えてくれます。
通勤中のスマートフォンでも、じっくり画面を眺めながらでも、この八卦の街を一つの問いとして眺めてみると、自分の暮らす都市や街路の意味が少し違って見えてくるかもしれません。
Reference(s):
Xinjiang Tekes: Tianshan’s Ancient Bagua City Blending Tradition and Urban Design
news.cn








