クアラルンプールのバクテーに見る中国・マレーシア関係の今
マレーシアの首都クアラルンプールで愛される薬膳スープ「バクテー」は、中国系移民の歴史と、現在も続く中国・マレーシア関係のつながりを映し出す一杯です。本記事では、その料理と物語を手がかりに、国際ニュースとしての背景をやさしく読み解きます。
クアラルンプールの朝に立ちのぼる湯気
湿度の高い朝の光が差し込むクアラルンプールのYanmei通り。地元のバクテー専門店では、店主のPeng Jieqiang(ペン・ジエチアン)さんが長い柄のレードルを巧みに操り、ゆでたての豚の骨付き肉を深い鍋へとそっと落としていきます。
鍋の中では、当帰(トウキ)、玉竹(ユウジュ)、党参(トウジン)などの中国伝統の薬草と、豚肉のうま味が溶け合い、黒く濃いスープから立ちのぼる香りが店内を満たします。その湯気は、忙しい朝を迎える人びとを静かに迎え入れる合図のようです。
バクテーという料理:薬膳とローカル食材の融合
ペンさんは、広東省惠州をルーツに持つ5代目のマレーシア華人で、18歳から鍋の前に立ち続け、すでに42年のキャリアを重ねてきました。彼が語る「本物のバクテー」には、いくつか欠かせない要素があります。
- 豚足、バラ肉、軟骨など、さまざまな部位を使ったコクのあるスープ
- スープに浸して食べる揚げパンのような香ばしい「揚げ生地」
- にんにく、唐辛子、しょうゆを合わせたディップソース
これらを組み合わせ、好みで浸したり、付けたりしながら味わうのが、代々受け継がれてきたスタイルです。さらにペンさんは、マレーシアの在来ハーブであるトンカットアリも加えています。中国の薬膳の知恵と、現地の植物が同じ鍋で煮込まれることで、この料理は一国の料理ではなく「交わりの味」へと変わっていきます。
移民の記憶を受け継ぐ一杯
バクテーは、単なるローカルフードではありません。その背景には、19世紀半ばにマレー半島に渡った中国系移民の歴史があります。過酷な労働環境や熱帯の気候に適応する必要に迫られた当時の労働者たちは、自分たちの故郷の料理に工夫を加え、体を温め、滋養をつけるためのスープとしてこの料理を育てていきました。
年月が経つなかで、中国系コミュニティはマレーシア社会に根を張り、飲食文化にも大きな影響を与えます。その流れのなかで生まれたのが、マレー系や中国系、地元の文化が混ざり合うプラナカン(ババ・ニョニャ)文化です。バクテーには、こうした文化的な交錯と適応の歴史が、さりげなく、しかし確かに刻まれています。
バクテーから読む中国・マレーシア関係
この一杯のスープの物語は、そのまま中国とマレーシアの関係の歩みとも重なります。両地域のつながりは、明代の鄭和の航海に象徴されるように、大昔から海を介した往来によって育まれてきました。
現在では、こうした歴史的なつながりが、より多層的なかたちで続いています。たとえば、
- 学生の相互交流の拡大
- ビザの緩和による人的往来の活発化
- 「East Coast Railway」に代表される大規模インフラプロジェクト
といったかたちで、中国とマレーシアの関係は日常生活のレベルにも深く入り込んでいます。ここ16年間、中国はマレーシアの最大の貿易相手となっており、その経済関係は、バクテーのスープのように濃く、しかし一方向ではない複雑な味わいを持っています。
「隣国同士」をつなぐ、静かなブリッジ
小雨が降りはじめたクアラルンプールの昼下がり、できたてのバクテーの丼から立ちのぼる湯気は、店の外の景色をやわらかくにじませます。その瞬間、鍋の中で重なり合う薬草や肉の香りは、北京とクアラルンプールという二つの都市を、遠く離れた場所ではなく、海を隔てた隣人として感じさせてくれます。
国際政治や経済のニュースは、数字や制度の話になりがちですが、ペンさんの店で供される一杯のバクテーは、中国系移民の記憶と現在の中国・マレーシア関係を、誰もが体感できる「味」として伝えています。
読者への小さな問いかけ
スマートフォン一つで世界のニュースが手に入るいま、隣国との関係をどう捉えるかは、私たち一人ひとりの感覚にも左右されます。バクテーのように、異なる文化が混ざり合いながらも、一つの味として受け入れられていくプロセスは、国と国との関係にも通じるものがあります。
もし次に海外の料理を口にする機会があったら、その一皿の背景にある人の移動、歴史、そして国と地域のつながりに、少しだけ思いを巡らせてみるのはいかがでしょうか。そこから見えてくる国際ニュースは、これまでよりも少し身近で、立体的なものになるかもしれません。
Reference(s):
Kuala Lumpur’s Bak Kut Teh: A Flavorful Intersection of Heritage and Modern Culture
chinanews.com.cn








