8世紀チベット王冠、青海で修復公開 シルクロードの交流物語る
中国青海省の海西州民族博物館で、8世紀のチベット帝国期の金製王冠が、約2年にわたる精密な修復を経て公開されています。2400点を超える宝石と真珠がちりばめられたこの冠は、シルクロード青海ルートの交流を物語る新たな国際ニュースとして注目されています。
青海の古墓から出土した「秘蔵の冠」
問題の王冠は、2019年に青海省チャイダム盆地北縁に位置する「チュアンゴウ1号墓」の救済発掘中に見つかりました。この墓は壁画を備えたチベット帝国期の墓で、秘密の小部屋に隠されるように置かれていた木箱が崩れ、その中から正方形の金製王冠が現れたといいます。隣にはターコイズ(トルコ石)をはめ込んだ金の杯も見つかりました。
炭素14年代測定と年輪年代学の分析により、この埋葬は8世紀初頭のものとされています。チャイダム盆地北縁という位置は、シルクロードの「青海ルート」における戦略的な要衝であり、この地域が東西交流の重要な結節点だったことを示しています。
現在、この王冠は温度管理された展示ケースに収められ、海西州民族博物館で公開されています。展示室には3Dインタラクティブ映像も設置され、ゆっくりと回転する王冠の姿をスクリーン上で拡大しながら、細部まで確認できるようになっています。
厚さ200マイクロメートル、限界まで薄い金属を救う
発掘当時、王冠の状態は深刻でした。高地特有の塩分とアルカリ性の土壌による腐食で金属部分はもろく崩れやすくなり、「骨のようにスカスカ」と表現されるほどでした。厚さは200マイクロメートル未満、A4用紙3枚を重ねた程度しかなく、わずかに触れただけでも損傷の危険があったと、CASS科学考古・文化財保存重点実験室の黄曦(ホアン・シー)助理研究員は振り返ります。
さらに、王冠を飾る宝石や真珠は2400点以上が外れ、元の配置を示す手がかりもほとんど残っていませんでした。修復チームは、次のような難題に直面しました。
- 極薄の金属を壊さずに、細かく砕けた断片をつなぎ合わせること
- 落ちてしまった宝石と真珠一つひとつの位置を推定し、元の意匠を再構成すること
- 将来の展示と保存に耐えうる強度を確保しつつ、オリジナルに手を加えすぎないこと
このためチームはレーザー溶接を応用した新しい修復手法を導入し、金の断片を一枚ずつつなぎ合わせていきました。その上で、外れていた宝石を慎重に戻していきます。
とりわけ時間がかかったのが、王冠の上部を飾る真珠の房(プルーム)の再現です。発掘時の写真、顕微鏡撮影画像、X線撮影などのデータを手掛かりに、黄氏と李啓亮(リー・チーリアン)氏らは構造モデルを少なくとも11パターン検討し、ときには「真珠一粒の位置」をめぐって数日議論を重ねたといいます。
同じ実験室の王丹(ワン・ダン)副研究員によると、最終的に王冠本体を模造の絹の裏地と保護用ネットのあいだに挟み込み、1ミリほどの微細な縫い目で固定する手法を採用しました。この方法により、オリジナルの遺物を極力そのまま残しながら、長期展示に耐える安定性と見やすさを両立させたと説明しています。
ドラゴンとライオンが同居 王冠が示す文化の交差点
この8世紀の王冠は、単なる豪華な装飾品ではありません。研究者たちは、その意匠と素材の組み合わせから、当時の広域な文化交流を読み取っています。
王冠には、龍や鳳凰、獅子などのモチーフが立体的に表現され、真珠が揺れる飾りとして垂れ下がっています。専門家によれば、こうした真珠の垂飾は中国内地の中原地域の影響を反映している一方、隣に埋葬されていた金杯には中央アジア風の美術様式が見られるといいます。
さらに、このセットに使われているターコイズ、ラピスラズリ、ガラス、ガーネット、真珠などの素材そのものが、シルクロード青海ルートを通じた交易と人的往来の証拠だと指摘されています。異なる地域の技術と美意識が、一つの冠と杯の中で出会っているとも言えるでしょう。
2019年「十大考古発見」の現場から
この王冠が出土したチュアンゴウ1号墓の発掘は、中国で2019年の「十大考古発見」の一つに選ばれました。発掘は2018〜2019年にかけて、中国社会科学院(CASS)、海西州民族博物館、ウラン県文化観光局が共同で実施したものです。
2019年の発見後、約2年にわたる研究と修復を経て、王冠は現在、博物館で温度管理されたケースに収められ、来館者が間近で観察できるようになっています。
「読む」だけでなく「観る」国際ニュースとして
青海で公開が始まったこの王冠のニュースは、単なる海外トピックにとどまりません。歴史、科学技術、美術、そして文化交流の物語が一つに重なったケーススタディとして、私たちにいくつかの問いを投げかけています。
- シルクロードの交流は、物資のやり取りだけでなく、美意識や宗教的象徴の共有でもあったのではないか。
- 極限まで薄い金属や数千個の装飾を前に、修復者はどこまで元の姿を再現し、どこから「保存」を優先すべきか。
- 地方の博物館が高度な科学分析とデジタル技術を取り入れることは、地域の歴史をグローバルな視点で発信するうえでどんな意味を持つのか。
スマートフォンの画面越しにニュースを追う私たちにとっても、この8世紀の王冠は、「遠い世界の出来事」ではなく、現在の技術と感性で過去をどう受け止めるかを考えさせる身近な題材と言えるかもしれません。
Reference(s):
Restored 8th-Century Tibetan Crown from Qinghai Tomb Dazzles at Museum
cctv.com








