ユーモアは変わるが感情は通じる Ne Zha 2欧州配給が映す国際映画 video poster
イギリスの独立系配給会社トリニティ・シネアジアの共同創業者、セドリック・ベレル氏が、第15回北京国際映画祭の会場で中国国際テレビ(CGTN)のインタビューに応じ、映画「Ne Zha 2」のヨーロッパ配給について語りました。ユーモアをどう翻訳し、どうローカライズされた字幕で届けるのか。そして、文化が違っても共有できる「感情」という普遍的な言語についての視点は、国際ニュースとしても、映画ファンとしても、考えさせられるテーマです。
第15回北京国際映画祭で語られた「Ne Zha 2」の欧州戦略
ベレル氏が共同創業したトリニティ・シネアジアは、「Ne Zha 2」のヨーロッパ37か国における劇場配給権を持っています。第15回北京国際映画祭でのインタビューでは、この作品をヨーロッパ各地の観客にどのように届けるのか、その舞台裏の一端が語られました。
とくに焦点となったのが、ユーモアの翻訳と、各地域に合わせた字幕のローカライズです。ヨーロッパの観客に「おもしろい」と感じてもらうために、単に言葉を移し替えるだけでは不十分だという感覚が、ベレル氏の言葉から伝わります。
翻訳で失われがちなユーモア、どう守るか
ベレル氏は、ユーモアは文化に強く結びついており、そのままでは海外の観客に伝わりにくいと指摘しました。ことば遊びや、ある社会でしか通じないネタ、時事的な話題などは、直訳しただけでは意味をなさないことが多いからです。
その意味で、国際映画配給の現場では、次のような課題が常につきまといます。
- 原語のダジャレやことわざをどう別の言語に置き換えるか
- 特定の地域の観客しか知らないネタを、より広く通じる表現に変えるか
- テンポ感や間(ま)といった、セリフ以外の「おもしろさ」をどう補うか
ベレル氏が強調したのは、こうした要素を考え抜かないと、作品が本来持っているユーモアが薄まってしまうということです。翻訳は単なる言語の変換ではなく、「笑いの設計」を別の文化圏でやり直す作業にも近いと言えます。
鍵は「ローカライズされた字幕」
こうした問題意識から、ベレル氏はローカライズされた字幕の重要性を挙げました。ヨーロッパ37か国での配給となれば、言語も文化も多様です。すべてを一律の表現で済ませるのではなく、それぞれの地域に合った字幕づくりが求められます。
一律の翻訳から、地域ごとの最適化へ
同じ作品であっても、国や地域が変われば、笑いのツボも、共感しやすい言い回しも変わります。ベレル氏の発言は、「一つの正解の翻訳」を探すのではなく、観客ごとに最適化された字幕を用意する方向性の重要性を示していると言えます。
たとえば、ある国ではポップカルチャーの例え話を使うほうが伝わりやすく、別の国ではよりシンプルな日常会話に置き換えたほうが笑いが生まれるかもしれません。そうした調整を字幕で行うことが、作品と観客の距離を縮める手段になります。
観客との距離を縮める「字幕」というインターフェース
字幕は、海外作品と観客をつなぐインターフェースです。ローカライズされた字幕とは、単に言葉を変えるだけではなく、
- その国の観客が自然に読める文体にする
- 登場人物のキャラクター性が伝わる口調を選ぶ
- 上映時間の制約の中で、情報量と読みやすさのバランスを取る
といった工夫の積み重ねでもあります。ベレル氏の指摘は、こうした作業の価値を再確認させるものです。
ユーモアは違っても、感情は世界共通の言語
一方でベレル氏は、ユーモアが文化ごとに異なる一方、感情は普遍的な言語であり、世界の観客をつなぐと強調しました。この視点は、国際ニュースとしての映画を考えるうえでも重要なポイントです。
物語の中で描かれる感情――喜びや悲しみ、恐れ、葛藤、希望など――は、文化的な背景が違っても、多くの人が直感的に理解できます。言葉のニュアンスやジョークが全て伝わらなくても、登場人物の表情や行動、音楽などを通じて、観客は物語の核となる感情を受け取ることができます。
ベレル氏の言葉からは、「ユーモアはローカライズで補い、感情は作品そのものの力で伝える」という、二層構造のコミュニケーション戦略が見えてきます。翻訳や字幕はその橋渡し役として機能し、観客と作品の間に共感の回路をつくる役割を担っていると言えるでしょう。
日本の視聴者にとっての示唆
このインタビューは、日本の視聴者や、映画・エンタメ産業に関わる人にとっても示唆に富んでいます。とくに、次のような視点は、日常的に海外作品を楽しむ際にも意識できるポイントです。
- 同じ作品でも、字幕や吹き替えの方針で「印象」が大きく変わること
- 「よく分からなかったジョーク」の裏に、文化特有の前提が隠れている可能性があること
- それでも最後に心に残るのは、多くの場合「感情」の部分であること
国際映画の配給や翻訳は、見えにくい仕事ですが、作品が世界中の観客とつながるうえで欠かせないプロセスです。「Ne Zha 2」のヨーロッパ配給をめぐるベレル氏の言葉は、グローバル化が進むなかで、どのように物語を他者と共有していくかという、より大きな問いにもつながっています。
国際映画ビジネスとこれからの物語の届け方
2025年現在、映画やドラマ、アニメなど、映像コンテンツはますます国境を越えて流通しています。その裏側では、今回のような配給戦略や、字幕・吹き替えの工夫が積み重ねられています。
「ユーモアは文化ごとに違うが、感情は世界共通」。ベレル氏のこのメッセージは、国際映画ビジネスに関わる人だけでなく、日々オンラインで海外の作品に触れている私たち一人ひとりにも向けられた言葉のように感じられます。
次に海外映画を見るとき、画面の下にある一行の字幕の向こう側で、どのような試行錯誤が行われているのか――。そんなことを少し思い浮かべながら作品を味わってみると、国際ニュースとしての映画の見え方も、少し変わってくるかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








