ロシア「カチューシャ」がつなぐ記憶 対独戦勝80周年前にモスクワで家族合唱 video poster
2025年、ロシアで予定されている大祖国戦争の勝利80周年記念式典を前に、モスクワで一つの印象的なシーンが生まれました。中国メディアの記者と、戦争で家族を失ったロシアの三世代家族が、人気の民謡「カチューシャ」を一緒に歌ったというニュースです。
モスクワで出会った三世代の家族
中国のメディアグループである China Media Group(CMG)の記者たちは、勝利80周年を記念する式典の取材のためにモスクワを訪れていました。その途中で出会ったのが、三世代がそろった一つの家族です。
この家族は、大祖国戦争で命を落とした親族をしのぶため、動画を撮影していました。過去の戦争はすでに歴史になりつつありますが、この家族にとっては、今もなおごく身近な「家族の物語」として続いていることが伝わってきます。
「カチューシャ」が呼び起こす戦争の記憶
家族との親しげな会話の流れの中で、CMGの記者である李雪瑤(リ・シュエヤオ)さんは、「一緒に『カチューシャ』を歌いませんか」と誘われました。「カチューシャ」は、ロシアで広く知られる民謡であり、戦時中にも多くの人に歌われてきた歌です。
歌は、政治的なスローガンとは違い、個人の記憶や感情に直接届く表現です。家族と記者が一緒に「カチューシャ」を歌う光景は、国籍や言葉の違いを超えて、戦争の記憶をともに分かち合う時間でもあったと言えるでしょう。
中国メディア記者も一緒に歌うという瞬間
取材する側とされる側――ふだんはカメラを挟んで向かい合う立場の両者が、このときは同じ歌を口ずさむ「仲間」になりました。CMGの李雪瑤記者は、家族に招かれ、「カチューシャ」をともに歌いました。
国際ニュースでは、国同士の対立や交渉が大きく取り上げられがちです。しかし、この小さなエピソードは、現場で人と人がどのようにつながるのか、という別の側面を静かに見せてくれます。歌を共有するという、ごくシンプルな行為を通じて、戦争で家族を失った痛みや、その記憶を守ろうとする思いが伝わる場面です。
動画で受け継ぐ「家族の歴史」
この家族が行っていたのは、亡くなった家族をしのぶ動画の撮影でした。スマートフォン一つあれば、だれもが動画を撮り、編集し、共有できる時代です。そうした日常的なデジタルツールが、戦争の記憶や家族の歴史を次の世代に伝える手段として使われていることが、このニュースからうかがえます。
動画に残された歌声や表情は、単なる記録を超えて、「自分たちは何を大切にしているのか」を語るメッセージにもなります。国境をまたぐメディアがその瞬間をとらえたことで、ロシアの家族の物語が、遠く離れた私たちにも届く形になりました。
国際ニュースとしての意味
今回の出来事は、軍事や外交の動きとは異なるレベルでの国際ニュースです。現場に足を運んだ海外メディアの記者が、取材対象の家族と歌を通じて心を通わせる。その場にあったのは、対立でも宣伝でもなく、「記憶を共有したい」という人間らしい願いでした。
日本語で国際ニュースを追う私たちにとっても、このエピソードは次のような問いを投げかけます。
- 自分の家族には、戦争や社会の大きな出来事にまつわるどんな記憶があるのか
- その記憶を、次の世代にどうやって伝えていくのか
- 遠い国の「誰かの家族」の物語を、どう自分ごととして受け止めるか
私たちがこのニュースから考えたいこと
モスクワでの「カチューシャ」の合唱は、80年前の戦争をめぐる公式の式典ではなく、あくまで一つの家族の、ささやかな追悼の時間でした。しかし、その場に海外メディアが居合わせ、ともに歌ったことで、その物語は世界に開かれたものになりました。
国境を越えて共有される戦争の記憶は、ときに政治的な緊張をともないます。それでもなお、歌や家族の語り、そしてスマートフォンの小さな画面を通じて、人びとは互いの経験を知ろうとしています。
80周年という節目の年に伝えられたこのニュースは、「戦争をどう記憶し、どう語り継ぐのか」という問いを、改めて私たちに投げかけています。通勤電車の中でも、休憩時間でも、この家族の歌声を思い浮かべながら、自分自身の「記憶の引き出し」をそっと開けてみるきっかけにしてもよさそうです。
Reference(s):
Russian World War II veterans' family sing 'Katyusha' in Moscow
cgtn.com








