AIと3D技術で漢代のシルクローブ復元 中国・湖南博物館の挑戦 video poster
中国湖南省長沙市の湖南博物館で、約2000年前の漢代のシルク衣装が、AIを含むインテリジェントなデジタル技術によって高精度に復元されました。古代の織物と最新のデジタル技術が出会う、この国際ニュースは、文化財の守り方と見せ方が変わりつつあることを示しています。
2000年前のシルクローブとは?
復元の対象となったのは、漢代の貴族が着用していた直裾のローブです。この衣装は、湖南省長沙市の馬王堆にある西漢墓から出土し、現在は湖南博物館に所蔵されています。
特徴的なのは、生地に施された高度なデザインです。
- 枝やつるを表現したプリント模様
- つぼみや花、葉を描いた絵画的な模様
プリントと絵画という二つの技法を同時に用いた、現時点で知られている中では最古級のシルク衣装とされ、その存在自体が当時の織り・染め・プリント技術の高さを物語っています。
課題は「もろさ」と「欠損」 デジタルで補う細部
しかし、出土した実物は長い年月を経て非常にもろくなっており、一部には折れ曲がり、破損、汚れなども見られます。そのため、衣装本来の姿を正確に復元する作業は、大きなチャレンジでした。
湖南博物館のデータセンター責任者・何燁氏によると、研究チームは長期にわたってこのローブを調査し、次のようなプロセスでデータ化を進めたといいます。
- 高精細な写真撮影
- スキャンによる形状データの取得
- 3Dモデリングによる立体化
これにより、サイズ、シルエット、裁断、模様など、衣装の細部をデジタル上で正確に把握するための基盤データが整えられました。
特に損傷や汚れがある部分については、デジタルモデリングとAIツールを用いて、テクスチャー(質感や模様)の再構成を実施。欠けてしまった柄や色合いを、他の部分の情報を頼りに推定しながら補完することで、衣装全体のデジタル画像を高い精度で再現しました。
2つの3Dモデルで「2000年の時間経過」を可視化
今回のプロジェクトで生まれたのは、コンピューターで生成された二つの三次元モデルです。どちらも360度から自由に見ることができ、バーチャルリアリティ(VR)的な体験を提供します。
- 現在の出土品の状態をそのまま再現したモデル
- 約2000年前の着用当時の姿を想定したモデル
何燁氏は、二つのモデルを比較することで、来館者はローブが約2000年の時間の中でどのように変化したのかを直感的に理解できると説明します。色あせや損傷など、通常は「失われたもの」として受け止めがちな要素も、時間の重みを可視化する大切な情報として提示されている点が印象的です。
博物館体験を拡張するインテリジェント・デジタル技術
湖南博物館の研究者たちは、このローブにとどまらず、他の文化財についても同様のデジタルモデル制作を進めています。狙いは、古代の遺産への関心を高めると同時に、来館者にとっての鑑賞体験をより豊かにすることです。
今回の事例から見えてくる、文化財デジタル化のポイントを整理すると次のようになります。
- 保存と公開のバランス:繊細な実物に触れずに、細部まで拡大して観察できる
- ストーリーテリングの強化:過去と現在の姿を比較し、時間の物語を視覚的に伝えられる
- 教育・研究への応用:研究者や学生がデータを共有しやすくなり、分析や教材づくりにも活用しやすい
インテリジェントなデジタル技術やAIが文化財分野に入ってくることで、博物館は単に物を展示する場所から、データと物語を行き来できる学びのプラットフォームへと姿を変えつつあるように見えます。
日本の読者にとっての意味
日本でも、多くの博物館や美術館がデジタルアーカイブやオンライン展示に取り組み始めています。湖南博物館の試みは、そうした動きと響き合う事例といえます。
特に、次のような点は、日本を含むアジア各地の文化施設にとってもヒントになりそうです。
- 壊れやすい衣装や織物を、デジタル上で安全に「着てみる」ような体験へつなげる可能性
- AIを活用した欠損部分の補完により、想像しづらかった「本来の姿」を現代の来館者と共有できる点
- 歴史・技術・美意識を横断して学べるコンテンツとして再構成できること
文化財というと静的なイメージを持ちがちですが、今回の漢代ローブのように、テクノロジーを通じて「時間の流れ」や「ものづくりの知恵」を体感できる事例は、今後さらに注目されていきそうです。
2000年前のシルク衣装とAI・3D技術の出会いは、過去と現在をつなぐ新しい橋のかたちを示しているのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








