ハンガリー映画「Lesson Learned」:学校の暴力と癒やしを描く国際ドラマ
ハンガリー映画「Lesson Learned」:学校の暴力と癒やしを描く国際ドラマ
ハンガリー発のドラマ映画「Lesson Learned」は、新しい国と学校に移った10歳の少年パルコーの視点から、学校という日常の場に潜む暴力と抑圧、そしてそこからのささやかな抵抗と癒やしの過程を描きます。国際映画祭で評価を受けた本作は、教育や子どもの権利をめぐる議論が続く今、世界の動きを日本語で知りたい読者にとっても考えさせられる一本です。
新しい学校で「問題児」にされた少年パルコー
物語の中心にいるのは、10歳の少年パルコーです。彼は新しい国で、新しい学校に通い始めますが、その行動パターンは学校の厳格な校則と衝突していきます。周囲の大人たちは、背景や心の揺れを見ようとせず、彼を早々に「問題児」とラベリングしてしまいます。
さらに体育教師による暴力的な体罰がパルコーを追い詰め、彼は次第に自分の殻に閉じこもっていきます。教室や体育館といったありふれた空間が、子どもにとって逃げ場のない圧力の場へと変わっていく様子が、静かながらも重い印象で描かれます。
新任の国語教師ジュツィがもたらす「沈黙の連帯」
この閉塞した状況に変化をもたらすのが、新任の文学教師ジュツィです。彼女は、パルコーの行動の裏にある痛みや孤立に目を向け、学校の硬直した教育システムそのものに疑問を投げかけます。
パルコーとジュツィは、声を荒げるのではなく、「沈黙の闘い」とも言える形で現状に立ち向かっていきます。彼らの小さな抵抗は、トラウマの癒やしや、人間としての目覚めとは何かという問いを、観客にも静かに突き付けます。
冷たい色彩と息苦しい構図があぶり出す「ふつう」の暴力
監督のバーレント・シムラーは、シュルレアリスの名匠イルディコー・エンイェディに学んだ新鋭とされています。そのデビュー長編となる本作では、冷たい色調の映像、圧迫感のあるフレーミング(画面構図)、疎外感を伴うリズムの語り口といった独特のスタイルが徹底されています。
色と構図、カメラの間合いを使って、表向きは「普通の学校」に見える場所に染みついた暴力性を少しずつ浮かび上がらせる手つきは、エンタメとしてのわかりやすさよりも、観客にじわじわと考えさせる方向に振り切られています。静かでクールな画面の奥に、子どもと大人の心の叫びがうごめいているような感覚を覚えるかもしれません。
ロカルノ国際映画祭での評価と意味
「Lesson Learned」は、第77回ロカルノ国際映画祭の「Filmmakers of the Present」部門における最優秀作品賞コンペティションに選出されました。また、ジュツィを演じた主演女優は、その緊張感あふれる演技によって最優秀女優賞を受賞しています。
新鋭監督のデビュー作でありながら、国際映画祭のコンペティションに並び、俳優賞まで勝ち取ったという事実は、この作品が単なる「学園ドラマ」にとどまらず、教育と暴力、そして人間の尊厳をめぐる普遍的な物語として受け止められていることを示していると言えるでしょう。
教育をめぐる世界の議論と、日本の私たちへの問い
体罰や理不尽な校則、学校でのいじめやハラスメントといったテーマは、どの社会でも何度も議論される問題です。「Lesson Learned」は、特定の国や制度を直接批判するのではなく、日常の中に埋め込まれた「当たり前」が、いつのまにか人を傷つける暴力に変わってしまう危うさを描いています。
それは、日本で学校生活を経験した多くの人にとっても、どこか身に覚えのある感覚かもしれません。ルールを守ることと、一人ひとりの尊厳を守ること。そのバランスをどう取るのかという問いは、教育現場だけでなく、会社や家庭、オンラインコミュニティなど、私たちの日常のあらゆる場にもつながっていきます。
「読みやすいのに考えさせられる」国際映画として
国際ニュースや海外映画に関心のある読者にとって、「Lesson Learned」は、ハンガリーというヨーロッパの一国から届いた物語でありながら、自分自身の学校経験や職場の空気、人との関わり方を振り返らせるきっかけになる作品です。
スマートフォンでさらりとストーリーを追うこともできる一方、映像のディテールや人物の沈黙に目を凝らせば、何度でも違う読み方ができそうな作品でもあります。静かながらも、観る人の心に長く残るこのドラマが、教育と人間の尊厳について、次の会話を始める種になっていくかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com







