シルクロードが響く トルクメンのドゥタールとムカーム
2021年にユネスコ無形文化遺産に登録されたトルクメンの楽器ドゥタール。二本の弦から生まれる素朴であたたかな音色は、シルクロードの記憶と物語を今も伝え続けています。この記事では、ソロ演奏からムカーム・アンサンブルまで、その魅力と背景を日本語でわかりやすく紹介します。
ユネスコ無形文化遺産になったドゥタールとは
ドゥタールは、ペルシア語で「二本の弦」を意味する名前を持つ、トルクメンの伝統音楽を象徴する撥弦楽器です。素朴であたたかい音色が特徴で、物語や叙情詩を語りながら歌うソロの弾き語りによく用いられます。演奏者は、語り手・歌い手であると同時に演奏家でもあり、一人で物語世界を立ち上げていきます。
こうしたドゥタールの音楽と演奏は、2021年にユネスコの「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に記載されました。登録から4年が経った2025年現在も、トルクメンの人びとの暮らしを支える文化として大切に受け継がれています。
二本の弦が語る物語
ドゥタールの魅力は、たった二本の弦から想像できないほど豊かな表現が生まれるところにあります。ゆるやかに揺れる旋律、繊細な装飾音、声との掛け合いが重なり合い、一人の奏者が物語、音楽、詩のすべてを紡いでいきます。
演奏を聴くとき、次のようなポイントに耳を傾けると、音楽がより立体的に感じられます。
- 旋律の反復の仕方──同じフレーズが少しずつ変化しながら続いていく
- 声と楽器の関係──歌を支える伴奏だけでなく、ときに対話するように響き合う
- 「間」の使い方──音を出さない静けさが、物語の余韻を強めている
- 言葉とリズム──語りの抑揚とリズムが、聴き手の想像力を導いていく
ソロからムカーム・アンサンブルへ
タイトルにもあるように、ドゥタールはソロ演奏だけでなく、「ムカーム」と呼ばれるアンサンブルの一部としても重要な役割を担います。ムカームは、複数の楽器と歌い手が参加し、長い時間をかけて展開する音楽の組曲のようなスタイルです。
ソロとアンサンブルでは、ドゥタールの表情も少し変わります。
- ソロ演奏では、奏者の個性や語りの技術が前面に出る
- ムカーム・アンサンブルでは、他の楽器や声との重なりの中で、リズムやハーモニーを支える役割を果たす
- 一つひとつのフレーズが、より大きな物語全体の中で位置づけられる
こうした広がりが、「ドゥタールのソロからムカーム・アンサンブルへ」という流れを生み出し、一つの楽器が文化の中で担う役割の多様さを教えてくれます。
シルクロードが伝える音の記憶
シルクロードは、かつて東西をつないだ交易路であり、物や人だけでなく、物語や音楽も行き交った空間でした。トルクメンのドゥタール音楽も、その長い交流の歴史の中で磨かれてきた文化の一つといえます。
ユネスコの無形文化遺産への登録は、そうした音楽が「過去の遺物」ではなく、今を生きる人びとのアイデンティティであり続けていることを世界に示すものでもあります。2025年の現在、ストリーミングや動画共有サービスを通じて、遠く離れた地域の音楽を私たちが聴く機会はますます増えています。
同時に、家庭や小さな集まりで受け継がれてきた演奏の場が失われないようにすることも、国際社会全体の課題になりつつあります。画面越しにドゥタールの演奏を聴くとき、そこに映っているのは一曲の音楽だけではなく、世代を超えて伝えられてきた記憶や生活のリズムでもある、という視点を持つことができるかもしれません。
遠い音楽を自分ごとにするために
トルクメンのドゥタールやムカーム・アンサンブルは、日本から見ると地理的にも文化的にも遠い存在に思えるかもしれません。しかし、物語を語り、歌い、音楽に乗せて共有するという行為そのものは、どの社会にも共通する営みです。
もしドゥタールの演奏に触れる機会があれば、珍しい異国の音楽として距離を置くのではなく、「自分たちの語りや歌とどこが似ていて、どこが違うのか」という視点で聴いてみるのも一つの楽しみ方です。それは、国際ニュースや文化報道を通じて、自分自身のものの見方を静かにアップデートしていく小さなきっかけにもなるはずです。
Reference(s):
Echoes of the Silk Road: From dutar solos to muqam ensembles
cgtn.com








