新疆の「馬上の医者」 30年超支える農村医療の物語 video poster
中国の新疆ウイグル自治区の遊牧地域で、「馬上の医者」と呼ばれる一人の村医師が、今日も山道を越えて患者のもとへ向かっています。ジュマタイ・アウバキルさんは、1992年7月から30年以上にわたり、標高3000メートルを超える高地で医療を続けてきました。遠隔地の医療アクセスという世界共通の課題を、彼の歩みが静かに映し出しています。
ジュマタイさんは、村医師をたたえる「Most Beautiful Village Doctor」と呼ばれる賞も受けています。しかし、彼の日常は華やかさとは無縁です。険しい山道と向き合いながら、一人ひとりの患者に向き合う地道な仕事の積み重ねこそが、その称号の背景にあります。
標高3000メートルの診療エリア
ジュマタイさんが診療にあたっているのは、標高3000メートルを超える山岳地帯の遊牧地域です。村と村のあいだは遠く離れ、そこを結ぶのは危険な山道だけ。舗装された道路や公共交通が整った都市部とは、まったく環境が異なります。
患者のもとへ行くためには、いくつもの山を越えなければなりません。天候が悪化すれば、道はさらに危険になります。それでもジュマタイさんは、馬にまたがり、必要とする人がいる場所へと向かい続けてきました。
断らない「馬上の医者」が守る暮らし
長年にわたり、ジュマタイさんは助けを求める患者を一人も断ってこなかったとされています。どれだけ遠くても、どれだけ道のりが険しくても、「診てほしい」という声があれば応える──その姿勢が、地域の信頼を支えています。
彼の日々の診療を支えているのは、特別な設備ではありません。限られた道具と経験、そして「目の前の人を助けたい」という思いです。遠隔地の医療を考えるうえで、次のような点が浮かび上がります。
- 地理的条件が厳しいほど、医療にたどり着くこと自体が大きなハードルになること
- 一人の医師の存在が、地域の安心と生活を大きく左右するということ
- 技術や設備だけでなく、「断らない」という姿勢そのものが医療の信頼につながること
40年物の医療かばんが語るもの
ジュマタイさんのそばには、いつも一つの相棒があります。父親が使っていた40年物の医療かばんです。長い年月を経てなお現役のそのかばんは、親子二代にわたって続いてきた地域医療の歴史を静かに物語っています。
この医療かばんは、単なる道具以上の意味を持っています。山道を越えるたび、診療を終えて村を後にするたびに刻まれてきた傷や汚れは、「人々に奉仕し続ける」という覚悟の証でもあります。
国際ニュースとしての意味
世界には、都市の大病院から遠く離れた地域が少なくありません。新疆ウイグル自治区の遊牧地域も、そのひとつです。こうした場所では、医師が一人いるかどうかが、命の線引きになることさえあります。
ジュマタイさんの物語は、一見すると一地方のささやかなエピソードに思えるかもしれません。しかし、国際ニュースとして見たとき、そこには次のような普遍的な問いが含まれています。
- 医療が届きにくい場所に住む人々に、社会としてどう手を差し伸べるのか
- 医師や看護師など、現場で働く人の献身をどのように支えていくのか
- テクノロジーや制度だけでは埋めきれない「距離」を、どう縮めていくのか
私たちへの静かな問いかけ
医療技術の進歩やオンライン診療など、新しい形の医療が語られることの多い2025年の今でも、山をいくつも越えなければ医師に会えない人々がいる現実は消えていません。
馬にまたがり、父から受け継いだ医療かばんを携え、どんな患者も断らずに診療を続けるジュマタイ・アウバキルさん。その姿は、医療の原点とは何か、そして私たち一人ひとりが他者のために何ができるのかを、静かに問いかけているように見えます。
Reference(s):
cgtn.com








