ハーバードのボル教授が語る米国高等教育とリベラル教育への逆風 video poster
米国の名門ハーバード大学で長年教鞭をとるピーター・K・ボル教授が、CGTNのインタビューシリーズを通じて、学問の仕事の魅力と現在の高等教育を取り巻く気候について語りました。2025年の今、大学と社会の関係を考えるうえで示唆に富む内容です。
ピーター・K・ボルとは誰か
ボル氏は、ハーバード大学東アジア言語文明学部のThe Charles H. Carswell Professor of East Asian Languages and Civilizationsを務め、2025年には第18回Special Book Award of Chinaを受賞しました。東アジアや中国に関する研究の第一線で活躍しながら、長年にわたり学生の教育にも力を注いできた研究者です。
今回のCGTNのシリーズでは、学界でのキャリアや、高等教育が置かれている現在の状況について率直に語っています。
学問の魅力は「ハーバードだから」ではない
インタビューでハーバードの魅力を問われたボル氏は、その名声を認めつつも、教えることの喜びはどの大学にも存在すると強調しました。
- ハーバードの知名度やブランドは魅力の一つだが、それだけが大学教員のやりがいではない
- 学生を教え、刺激を与え、ともに考える営みは、どの大学でも本質的には変わらない
ボル氏にとって、教室で学生と向き合い、新しい視点を共有し合うことこそが、学問の仕事の根幹にある喜びだといえます。
教育と研究を両立させるハーバードの特徴
そのうえでボル氏は、ハーバードを研究大学として特徴づけるのは、教育と厳密な研究の両方を同じ重みで追求している点だと説明します。最先端の研究を進めながら、それを学生への教育に還元していくことに、大きなやりがいを感じていると語りました。
- 研究と教育を切り離さず、相互に支え合うものとして位置づける
- 教員自身が探究を続けることで、学生にも知的好奇心と批判的思考を伝えていく
単に研究業績だけを競うのではなく、教育と研究をセットで考える姿勢は、研究大学のあり方をめぐる国際的な議論の中でも重要なポイントになりつつあります。
リベラル教育への社会的な逆風
一方でボル氏は、ハーバードが直面している深刻な課題についても率直に言及しました。それはハーバードだけでなく、米国の学術界全体、さらには将来の科学や医学への大学の貢献にまで影響を及ぼしかねない問題だと指摘します。
特に懸念しているのが、リベラル教育に対する社会的な敵意の広がりです。リベラル教育とは、特定の職業訓練にとどまらず、人文・社会・自然科学を横断しながら、批判的思考力や倫理観を養う教育を指します。ボル氏は、このリベラル教育が軽視され、攻撃される風潮が強まれば、社会全体に負の影響が及ぶと警告しました。
短期的な経済効果や即戦力ばかりが重視されるようになると、長い時間軸で知を蓄積し、未知の課題に向き合う力を育てる大学本来の役割が弱まってしまうおそれがあります。
2025年6月23日の裁判所判断が映す緊張
インタビューで語られた懸念と響き合う出来事として、2025年6月23日にボストンで報じられたニュースがあります。米連邦判事が、ハーバード大学で学ぶために入国しようとする外国人留学生を防ごうとしたトランプ政権の計画を差し止めたのです。
この判断は、政権とハーバードという名門大学との間に存在する緊張関係を改めて浮かび上がらせました。国境を越えて学生や研究者が行き来することは、高等教育と学術研究にとって欠かせない前提ですが、それ自体が政治的な争点となりうる現実が示された形です。
ボル氏が語った、大学の自由な探究とリベラル教育への逆風は、こうした入国・留学をめぐる政策の揺れとも深くつながっています。大学が社会に開かれた場であり続けられるかどうかは、国内だけでなく国際的な動きにも左右されているといえるでしょう。
1636年創立の歴史が示すレジリエンス
こうした逆風の中でも、ボル氏はハーバードの長い歴史を引き合いに出し、一定の楽観もにじませました。ハーバードは1636年に創立され、合衆国が成立するより前から存在してきた大学です。その歴史自体が、時代ごとの政治や社会の変化を乗り越えてきたレジリエンスの証しだと語ります。
政治環境や世論が変化しても、大学という制度は世代を超えて存続し、知の蓄積を続けてきました。ボル氏は、この長期的な視点こそが、目先の緊張や対立を相対化しつつ、大学が社会に貢献し続けるために必要だと示唆しているように見えます。
日本の大学への示唆:読者が考えたい3つのポイント
ボル氏の語る米国高等教育の現状は、日本を含む他の国々の大学にも通じる論点を含んでいます。newstomo.comの読者として、次のようなポイントを自分ごととして考えてみることができそうです。
- ブランドや偏差値よりも、教える側と学ぶ側の喜びや成長をどう優先するか
- 人文・社会・自然科学を横断するリベラル教育の価値を、社会の中でどう守り、説明していくか
- 政治や世論の変化の中で、大学が長期的な知の蓄積と自由な探究をどう確保していくか
入国・留学をめぐる裁判や、リベラル教育への批判など、大学が直面する課題は簡単には解決しません。それでも、ボル氏が示すように、教育と研究の双方を大切にしながら、歴史の長いスパンで大学の役割を捉え直すことが、これからの高等教育を考える出発点になりそうです。
Reference(s):
Professor Peter K. Bol of Harvard on academia and current climate
cgtn.com








