新疆・ウルングル湖の冬漁祭り 氷上に響く祖先の網 video poster
新疆・ウルングル湖の氷上で受け継がれる冬の漁
新疆ウイグル自治区のウルングル湖で、冬の夜明け前に氷が静かにきしむころ、一人の漁師が氷面に向かってつるはしを振り下ろします。氷を打つ乾いた音が澄んだ空気に響き、百年以上続くとされる冬の漁の一日が始まります。
この氷上の伝統漁は、毎年冬に行われるウルングル湖の冬漁祭りとして知られ、地域の文化と暮らしを象徴する行事になっています。日本語で国際ニュースや文化を知りたい読者にとっても、「時間が凍った」ような湖の上で続く営みは、デジタルな日常とは少し違うリズムを感じさせてくれます。
17歳で父に学び、いまは仲間を率いる張海江さん
氷を割って網を入れる作業を率いているのが、漁師の張海江(チャン・ハイジャン)さんです。張さんは17歳のころから父親に付き従い、この伝統的な漁の技を一つひとつ身につけてきました。
氷の厚さを確かめる手つき、網を沈める角度、魚の群れが動くタイミングの読み方——そうした経験知を受け継いだ張さんは、いまでは仲間の漁師たちを束ねる存在になっています。毎年、ウルングル湖が厚い氷に覆われると、張さんのチームは新疆ウイグル自治区のFuhai県で開かれる冬漁祭りに合わせて氷を割り、巨大な網を仕掛けます。
角笛が鳴り、千メートルの網が引き上げられる瞬間
冬漁祭りのクライマックスは、何といっても巨大な刺し網を引き上げる場面です。儀式を告げる角笛の音が冷たい空気を切り裂くと、湖底に沈められていた長さおよそ千メートルの網が、ゆっくりと氷の穴から姿を現します。
朝日を反射して銀色に輝く魚たちが、次々と跳ね上がる光景は圧巻です。張さんたち漁師が掛け声を合わせて網をたぐり寄せるそのそばで、見物客は息をのんで見守ります。毎年、こうした瞬間を一目見ようと、数万人規模の人びとが会場に集まるとされています。
温かい魚とラム肉の煮込みで体を温める
氷点下の湖上で行われる冬漁は、見ているだけでも体が冷えてきます。祭りの会場では、獲れたての魚やラム肉をぐつぐつと煮込んだスープがふるまわれ、訪れた人びとは湯気の立つ椀を手に凍えた体を温めます。
魚のだしとラム肉の旨味が溶け合った煮込み料理は、厳しい冬を越えてきた地域ならではの味です。氷上のダイナミックな漁と、湯気の向こうにゆらぐ笑顔。その組み合わせが、ウルングル湖の冬漁祭りならではの風景をつくっています。
「祖先の網」がつなぐ文化遺産と現代の暮らし
ウルングル湖の冬漁は、単なる観光イベントではなく、世代を超えて受け継がれてきた生活の知恵でもあります。氷の張り方や風向き、魚の動きに合わせて網を張る技術は、一朝一夕には身につきません。張さんのように、父から子へと時間をかけて受け継がれてきたものです。
一方で、この冬漁はきょうも、地域にもたらす経済的な恵みという新しい役割も担っています。冬漁祭りをきっかけに人びとが集まり、魚料理やラム肉料理を味わい、氷上の景色を楽しむことで、地域に新しいにぎわいと収入をもたらしています。まさに「古い知恵」と「現代の豊かさ」が同じ湖の上で出会っていると言えます。
高速な時代に立ち止まるきっかけとしての冬漁
スマートフォンでニュースや動画を一日中チェックできるいま、氷上での冬漁のように、自然のリズムに合わせて時間が流れる営みは、どこか遠い世界の話に聞こえるかもしれません。それでも、張さんが祖先から受け継いだ「網を打つ音」に耳を澄ませてみると、私たち自身の暮らし方を振り返るヒントが見えてきます。
- 効率やスピードだけでは測れない価値が、時間の積み重ねの中で生まれていること
- 地域の文化が、人びとの集いと経済の動きの両方を支えていること
- 自然の条件に向き合いながら、暮らしを築いてきた知恵があること
ウルングル湖の冬漁祭りは、中国の一地方で行われる年中行事でありながら、デジタル時代を生きる私たちに「自分にとっての時間の使い方」を静かに問いかけているようにも見えます。氷上に響く祖先の網の音は、その問いの余韻を遠くまで運んでいるのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








