クアラルンプールのチャイナタウンで明代陶器片が現代アートに video poster
2025年現在、マレーシアの首都クアラルンプールのチャイナタウンで、16世紀末から17世紀初頭の明代の陶器のかけらが、色鮮やかなモザイク彫刻として生まれ変わり、観光客と地元の人の両方を惹きつけています。手がけているのはアーティストのアリス・チャンさんです。
明代の陶器片がモザイク彫刻に
チャイナタウンの一角に並ぶチャンさんの彫刻作品は、表面が無数の陶器片で覆われたモザイクアートです。素焼きや釉薬の色、割れた断面の質感が重なり合い、遠目にはカラフルな彫刻として、近づくと一つひとつの破片の歴史が立ち上がってきます。こうした作品は、観光客と地元の人の双方を引きつける存在になっています。
チャンさんは、これらの現代アート作品を古代のシルクロードと結びつけ、明代におけるマレーシアの「世界の交差点」としての役割を浮かび上がらせたいと考えています。何気なく街を歩く人が、作品をきっかけに、海を行き交った交易や人の往来に思いをはせることができる仕掛けです。
ワンリ号沈没船と9,000点の陶器片
チャンさんが素材として用いている陶器の破片は、マレーシア沖で見つかったワンリ号沈没船から引き上げられたものです。これらは16世紀末から17世紀初頭、明代の時期に作られた陶器で、一度は割れて船とともに海底に沈みました。
ワンリ号の沈没船からは、およそ9,000点におよぶ陶器片が回収されています。ユネスコはこの沈没船を、シルクロード計画の一環として世界水中文化遺産サイトに位置づけており、当時の海上交易の姿を物語る重要な手がかりとしています。
沈没の背景には、ポルトガル船とオランダ船の戦闘があったとされ、激しい戦いのさなかの爆発によってワンリ号は海の底へと沈んだと考えられています。チャンさんの作品に使われている陶器片は、その出来事の「証言者」とも言える存在です。
シルクロードとマレーシアの記憶をつなぐ
シルクロードというと、陸路のイメージが強いかもしれませんが、ワンリ号が象徴するのは、海を通じた交易の歴史です。東アジアで生まれた陶器が海上ルートを通って世界へ運ばれ、マレーシア周辺はその重要な中継地点となっていました。
チャンさんのモザイク彫刻は、その歴史を視覚的に、しかもごく身近な場所で感じさせる装置になっています。数百年前に割れ、海底に眠っていたかけらが、2025年のクアラルンプールで再び人々の目を引いている——その時間のギャップこそが、作品の強さを生み出していると言えるでしょう。
歴史的遺物をアートにするという選択
本来であれば博物館の展示物として静かに保管されるような陶器片を、現代アートの素材として再構成することについては、考え方が分かれるところでもあります。保存を重んじる立場からは慎重な声が上がるかもしれませんし、一方で、作品を通じて多くの人が歴史に興味を持つきっかけになるという見方もあります。
チャンさんの試みは、ユネスコが位置づけるシルクロードの物語を、専門的な博物館の展示だけでなく、日常の風景の中で体験できるようにするアプローチとも言えます。観光客にとっては「写真映えするアート」であると同時に、マレーシアの歴史的な役割を静かに伝える教材にもなり得ます。
この記事から考えたいポイント
クアラルンプールのチャイナタウンに生まれたこの小さなアート空間は、歴史と観光、保存と活用のバランスについて考えさせてくれます。読者のみなさんは、次のような問いをどう受け止めるでしょうか。
- 歴史的な出土品や遺物を、アート作品として再利用することの意味と限界はどこにあるのか
- 観光地でのアート展示は、文化遺産への関心をどのように高め、あるいは消費してしまうのか
- シルクロードの物語を、21世紀のアジアの都市はどのように語り継いでいくべきなのか
チャイナタウンを訪れた人が、チャンさんの作品の前で立ち止まり、数百年の時間と海を越えた往来に思いを巡らせる。その一瞬一瞬が、マレーシアとアジアの歴史を現在につなぎ直す試みでもあります。
Reference(s):
cgtn.com








