千年の窯、若き陶工がよみがえらせる伝統──景徳鎮のLi Yanxun video poster
中国・景徳鎮で、千年以上続く陶磁器の伝統に新しい命を吹き込もうとしている若い職人がいます。潮州出身のLi Yanxun(リ・ヤンスン)さんは、「陶磁器の魂は装飾ではなく素材にある」という気づきから、古い技を現代にアップデートする挑戦を続けています。
景徳鎮で見つけた「陶磁器の魂」
約22年前、Li Yanxunさんは故郷の潮州を離れ、陶磁器の産地として知られる景徳鎮に向かいました。そこで彼がたどり着いた答えは、多くの人が重視しがちな華やかな模様や形ではなく、「土や釉薬(ゆうやく)といった素材こそが、陶磁器の本質を決める」というシンプルだが深い気づきでした。
つまり、どれだけ技巧的な絵付けを施しても、素材そのものの理解が浅ければ、本当に納得のいく作品にはならない。Liさんはそう考え、従来の常識から一歩離れた道を選びます。
装飾より「素材」へ──過去の成功を捨てた決断
装飾で評価されてきた自らの実績をあえて脇に置き、Liさんは陶磁器の素材研究に没頭します。土の配合、釉薬の組み合わせ、焼成温度の微妙な違い──そうした地味で時間のかかる作業を、一から積み重ねていきました。
華やかな作品づくりから一時距離を取り、あえて「見えない部分」に光を当てる。その選択は、短期的な成功よりも、長く続く表現を目指す姿勢の表れともいえます。
1280℃の実験窯がよみがえらせた唐三彩
Liさんの探究心は、唐代の代表的な彩色陶器「唐三彩」にも向かいました。彼は釉薬の組成と焼成条件を何度も変えながら試験を重ね、ついには1280℃という高温で唐三彩の釉薬を焼成することに成功します。
その結果生まれたのは、唐代の輝きを思わせつつも、現代の感性にも響く色と質感を備えた作品でした。歴史資料を「再現」するのではなく、当時の精神を今の時代に「翻訳」し直すような試みともいえます。
高温での焼成は、ほんのわずかな条件差で色や質感が大きく変わる難しい挑戦です。それでも実験を重ね続けた結果として、古代の技が現代の窯で息を吹き返しました。
「The Millennial Kiln」が示す、伝統と革新のバランス
この取り組みは、英語タイトルである"The Millennial Kiln: Reviving Tradition through Fresh Innovation"(千年の窯:伝統を新しい発想でよみがえらせる)という言葉にも象徴されています。
- 千年単位で受け継がれてきた技法や感性を尊重すること
- 一方で、そのままの形で「保存」するのではなく、現代の素材研究や感覚を通して「更新」すること
- 過去と現在を対立させず、対話させる視点を持つこと
Liさんの姿は、「伝統か革新か」という二者択一ではなく、「伝統をどう革新的に扱うか」という第三の道を示しているように見えます。
ドキュメンタリーが切り取る現代の職人像
こうした古代技術の再生への挑戦は、CGTNのドキュメンタリー番組"Rejuvenation of Ancient Crafts"でも紹介されています。この作品は、2025年7月28日に初公開され、Liさんのように古い技を新しい形でよみがえらせようとする職人たちの姿を追っています。
窯の前で試行錯誤を繰り返す日常、釉薬のわずかな違いに一喜一憂する表情、歴史資料と向き合う静かな時間──そうした場面を通じて、伝統工芸が決して「過去のもの」ではなく、今まさに作り変えられ続けている営みであることが伝わってきます。
なぜ今、伝統工芸の「再生」が気になるのか
デジタル技術が急速に進化するなかで、土や炎といったアナログな要素を扱う伝統工芸が、むしろ新鮮に感じられるという声も増えています。Liさんの取り組みは、次のような問いを私たちに投げかけています。
- 「古いもの」を、そのまま保存するだけでよいのか
- 伝統を現代に引き寄せるには、どれだけの実験と失敗が必要なのか
- 素材やプロセスへの理解は、私たちの「ものを見る目」をどう変えるのか
唐三彩の鮮やかな色に、現代の窯から生まれた新たな輝きが重なるとき、そこには単なるノスタルジーではない、「いま・ここ」に根ざした表現が立ち上がります。
読者への小さなヒント
スマートフォンの画面越しに完成品だけを見るのではなく、その背後にある素材や温度、時間の積み重ねに想像を向けてみると、日常の中の「もの」の見え方は少し変わるかもしれません。
Li Yanxunさんが1280℃の窯の前で探し続けているものは、きっと唐代の色だけではなく、「伝統をどう生きたものとして受け継ぐか」という、私たち自身にも関わる問いなのだと感じさせられます。
Reference(s):
The Millennial Kiln: Reviving Tradition through Fresh Innovation
cgtn.com








