新疆の草原に響くモンゴル長調 8歳から歌い続ける歌い手が守る記憶 video poster
新疆北部の広大な草原で、モンゴルの長い歌がいまも静かに響いています。都市化が進む現代にあって、この伝統音楽は草原の人びとの記憶と精神世界をつなぐ大切な鍵になっています。
草原に響くモンゴル長調とは
モンゴルの長い歌は、決まったリズムに縛られず、一つの言葉を複数の音でゆっくりと伸ばして歌う独特の声楽です。ゆるやかで伸びやかな旋律は、果てしなく広がる草原と、そこに生きる人びとの精神世界を表現しているといわれます。
ゆっくりとしたテンポで、風のように長く続く声。その響きは、草原を駆ける馬の蹄の音や、遊牧の暮らしの記憶を呼び起こし、聞く人に大きな空と静かな時間を思い出させます。
タオ・ウトゥナソンが受け継いだ歌
この古い歌の伝統を体現している一人が、民謡歌い手であり文化の担い手でもあるタオ・ウトゥナソンです。彼は8歳のころ、フェルトで覆われたユルトの中で母から歌を教わり、モンゴルの長い歌の世界に入りました。
あれから何十年も、彼は歌い続けてきました。そして今では300人を超える弟子を育て、単なる歌ではなく、草原の暮らしと祖先の記憶そのものを受け渡しています。
タオは、長い歌が生き続けるかぎり、自分の祖先の記憶と精神もまた生き続けると信じています。だからこそ、一人ひとりの弟子に対して、音程や技術だけでなく、歌の背景にある思いを丁寧に伝えようとしているのです。
都市のノイズと草原の記憶
現代の都市は、車の走行音や電子音、絶え間ない情報の通知音など、さまざまなノイズにあふれています。そうした音の渦の中で育つ次の世代が、草原の歌にどのように出会うのかは、大きな課題でもあります。
タオが願っているのは、若い世代が長い歌を通じて、次のようなものを感じ取ることです。
- 馬の蹄の響きのような、草原のリズム
- 風が吹き抜けるステップの息づかい
- 遠く離れていても戻っていけるふるさとの感覚
彼にとって長い歌とは、過去の遺産ではなく、いまも続いている帰る場所のような存在です。都市で暮らす若者がその歌を口ずさむとき、草原と都市、過去と現在が静かにつながっていきます。
私たちへの問い 何を受け継いでいくのか
新疆の草原で響くモンゴル長調の物語は、日本に暮らす私たちにとっても他人事ではありません。急速に変化する社会の中で、どんな記憶や価値観を次の世代に渡していくのかという問いは、どの地域にも共通しているからです。
タオ・ウトゥナソンが歩んできた道のりから、次のようなヒントが見えてきます。
- 小さなころから身近な人に教わったものは、一生ものの核になる
- 技術だけでなく、その背景や物語を語ることで、文化はより深く伝わる
- 速さや効率だけでは測れない、ゆっくりした時間が心の居場所をつくる
2025年の今、世界のさまざまな地域で伝統文化の継承が課題になっています。その中で、新疆北部の草原に響く長い歌は、私たちは何を残し、何を手放すのかという静かな問いを投げかけています。
通勤電車の中でも、カフェで一息つくときでも、ふと耳を澄ませてみると、自分の中にも帰る場所のような記憶の声が聞こえてくるかもしれません。タオ・ウトゥナソンが守り続ける歌は、その声に気づくきっかけを、静かに届けてくれています。
Reference(s):
cgtn.com








