中国発レインボー・チェンバー・シンガーズ:Jin Chengzhiが語る15年とこれから video poster
日常の喜びや悩みをそのまま歌に変え、インターネット世代の共感を集めてきた合唱団がレインボー・チェンバー・シンガーズです。2010年に学生メンバーによって結成されて以来、心に響くバラードとユーモアあふれる楽曲を行き来しながら、新しい世代の文化的な声として存在感を高めています。
創設者で芸術監督のJin Chengzhi氏は、北京での公演の合間に、これまでの歩みと音楽観、そして合唱団の未来について語りました。本記事では、そのインタビュー内容を手がかりに、レインボー・チェンバー・シンガーズの現在地を紐解きます。
レインボー・チェンバー・シンガーズとは
Jin氏が音楽大学在学中に立ち上げたレインボー・チェンバー・シンガーズは、今では約100人規模の合唱団へと成長し、これまでに150回以上のコンサートを行ってきました。2010年の結成から約15年がたった2025年現在も、その勢いは衰えるどころか増す一方です。
心にしみるバラードから、思わず笑ってしまうようなユーモラスな曲まで、等身大の日常を題材にした作品が特徴です。日常生活をそのまま歌にする合唱団として、若い世代の気分や価値観を代弁する存在になっています。
北京公演で感じた「ようやく準備ができた」感覚
今回の北京での公演は、レインボー・チェンバー・シンガーズにとって6回目の舞台でした。Jin氏は初期のことを振り返り、北京で歌うことはずっと「試験」のように感じていたと語ります。準備が十分ではないのではないかという不安が常につきまとっていたといいます。
それでも、観客の温かい反応が迷いながらも続ける勇気を与えてきました。公演のたびに寄せられるフィードバックが、自信より先に立つ不安を少しずつ押し戻してくれたのです。
そして現在の北京公演について、Jin氏は「今日はようやく、準備ができたと感じる。どの曲も自分たちのスタイル、内容、感情を出し切った。後悔はなく、あるのは純粋な努力と情熱だけだ」という思いにたどり着いたと話します。長い時間をかけて育ててきたレパートリーと、観客との信頼関係が、この言葉の裏側にあります。
変化し続けるアイデンティティ:「その時の自分」に正直に歌う
レインボー・チェンバー・シンガーズのアイデンティティについて問われると、Jin氏は「虹(Rainbow)の核にあるのは、自分たちに正直な歌を歌うことだ」と語ります。必ずしもオリジナル曲にこだわるわけではなく、その時々の人生のステージで自分たちに響く曲を選び、歌ってきました。
Jin氏は「25歳の頃と、今の35歳では考えていることがまったく違う」と話します。楽曲は、その瞬間に世界をどう見ているか、何を感じているかの鏡のようなもの。喜びや悲しみだけでなく、言葉にしづらい感情も含めて、その時の自分たちのリアルを音楽に刻もうとしているのが伝わってきます。
そこにあるのは、流行や「盛り上がり」よりも、自分たちの心が動くかどうかという基準です。その姿勢が、時代と共に年齢を重ねる観客と、若い新しい観客の双方に届いているようです。
「高く、明るく」よりも、本音を探る音楽へ
Jin氏は最近、20代の頃の演奏をメンバーと振り返り、当時は「高い音を出したり、明るく歌ったりしなければならない」と思い込んでいたと笑います。華やかで勢いのある表現が、良い音楽だと感じていた時期があったといいます。
しかし今は、音域やテンポよりも、「自分はいま何を考え、何を感じているのか」を音楽を通して探ることに関心が移りました。楽曲をあらかじめ決められた感情の箱に押し込むのではなく、その時点での自分の心と丁寧に向き合う姿勢が強くなっています。
固定されたイメージに合わせて演じるのではなく、「この年齢の自分は何を表現したいのか」という問いを起点に作品づくりをすること。それが結果的に、若い観客にとっても等身大で、共感しやすい表現になっているようです。
合唱が教えてくれた「ひとりでは届かない景色」
3歳でピアノを学び始め、中国音楽学院を経て上海音楽学院へと進んだJin氏。2010年には上海の音楽大学在学中にレインボー・チェンバー・シンガーズを結成しました。音楽的な土台を築いてきた長い時間の中で、合唱との出会いが決定的な転機になったといいます。
大学の学生合唱団に参加したことで、Jin氏は本当の意味で合唱の魅力に開眼しました。子どもの頃にも合唱団で歌ってはいたものの、その魅力を深く理解していたわけではありませんでした。
後になって気づいたのは、「合唱の美しさは、一人ひとりが集まり、自分だけでは到達できない何か大きなものを一緒につくり上げるところ」にあるということでした。Jin氏にとっての喜びは、指揮そのものよりも、他者と共に音楽をつくるプロセス全体にあります。
レインボー・チェンバー・シンガーズは、まさにその実践の場です。一人では見られない景色を、集団で見に行く。そのプロセスを楽しむ感覚が、団全体の空気にも浸透しています。
プロではないからこその熱量 ― メンバーを支える仕組み
レインボー・チェンバー・シンガーズの多くのメンバーは、本業を別に持ちながら合唱に取り組んでいます。それでも、Jin氏は「メンバーの時間の使い方は、しばしばフルタイムの歌い手に匹敵する」と語ります。
合唱団には「宿題」の仕組みがあり、リハーサル以外の時間も各自で練習を重ねることが前提になっています。中には、この合唱団を「人生でいちばん大切な趣味」と位置づけているメンバーもいるといいます。
Jin氏は、こうした献身に強い感謝を示しつつ、「私たちの関係は双方向だ」と表現します。メンバーは指揮者を信頼し、指揮者はメンバーの正直なフィードバックを大切にする。その相互の信頼とエネルギーが、合唱団を前に進める原動力になっています。
ツアーの先に見据えるもの ― 愛が巡るプロジェクト
現在進行中のツアーの先に、Jin氏はどんな未来を描いているのでしょうか。彼の視線の先には、いくつかの並行するプロジェクトがあります。
Jin氏によれば、レインボー・チェンバー・シンガーズは現在、次の3つのプロジェクトを同時に進めています。
- コンサートシリーズ「Living in Love!」
- 各地の音楽フェスティバルへの出演
- 合唱劇などの大規模なステージ作品
どのプロジェクトも、エネルギーの源は常に「舞台と客席の双方」にあります。観客の中から新たに合唱団に加わる人もいるといい、その循環が途切れないことで、インスピレーションも枯れることがないとJin氏は感じているといいます。
自分はその循環の一部でいられることに、ただ幸運さえ感じている――そんな静かな幸福感が、Jin氏の言葉の端々からにじみます。
日本の私たちにとっての「レインボー的生き方」とは
中国で生まれたこの合唱団の物語は、日本を含むアジアの都市で生きる私たちにも、いくつかの示唆を与えてくれます。
- 日常をそのまま表現する勇気 ― 特別な事件ではなく、生活の小さな喜びや葛藤をそのまま歌にする姿勢は、SNSで自分を「盛る」ことに慣れた私たちに、等身大の自己表現の価値を思い出させます。
- 年齢とともに変わる感情を認める ― 25歳の自分と35歳の自分では、世界の見え方が違うというJin氏の言葉は、「変わってしまうこと」への不安をやわらげ、変化を前向きに受け止めるヒントになります。
- コミュニティとしての芸術 ― 合唱を「ひとりでは完成しないプロジェクト」と捉える視点は、職場やオンラインコミュニティなど、私たちの日常のチームワークにも通じます。
レインボー・チェンバー・シンガーズの歩みは、「完璧さ」よりも「正直さ」と「関係性」を重んじる、新しい時代の表現のあり方を体現しているように見えます。忙しい日々の中でふと立ち止まり、自分はいま何を感じているのか、誰と何をつくり上げたいのか――そんな問いを静かに投げかけてくれる合唱団だと言えるでしょう。
Reference(s):
In conversation: Jin Chengzhi on music, life, and Rainbow's journey
cgtn.com








