映画『Dongji Rescue』とハリウッド式物語 監督たちの視点 video poster
映画『Dongji Rescue』が映した新しい歴史映画のかたち
今年公開された映画『Dongji Rescue』が、「ハリウッド式の物語構成ではないか」という議論を呼んでいます。スピード感のある展開や、感情の起伏を強調した描写が特徴とされ、中国の歴史を描く作品として妥当なのかどうか、視聴者や評論家のあいだで意見が分かれているためです。
こうした声に対し、監督の管虎(グアン・フー)氏が中国の国際メディア・CGTNの単独インタビューで見解を語り、歴史映画『The Sinking of the Lisbon Maru』を手がけた監督の方励(ファン・リー)氏も加わって、自身の経験から「歴史をどう物語るか」をめぐる考え方を共有しました。
「ハリウッド式」論争とは何か
『Dongji Rescue』をめぐる議論の背景には、中国映画が近年、よりグローバルな観客を意識した作品作りを進めているという流れがあります。今回の作品でも、次のような点が「ハリウッド的だ」と指摘されています。
- 主人公の成長物語を中心に据えた、分かりやすいドラマ構造
- 緊張と緩和を繰り返すアクションや救出シーンの設計
- 音楽やカメラワークを使った、感情を盛り上げる演出
一方で、「娯楽性を高めるあまり、歴史の重みが軽く見えてしまうのではないか」という懸念もあります。2025年現在、歴史認識や戦争の記憶をめぐる議論が国際的に続く中で、こうした表現をどう評価するかは、単なる映画評にとどまらないテーマになっています。
管虎監督が語る「物語は国境を越える」視点
インタビューで管虎監督は、『Dongji Rescue』をめぐる議論に正面から向き合いました。詳細な発言内容は多岐にわたりますが、大きくまとめると次のような考え方が示されたといえます。
- 映画の語り口にはさまざまなスタイルがあり、「ハリウッド式」もその一つに過ぎないこと
- 重要なのは、形式そのものではなく、物語を通じて何を伝えたいのかという核心であること
- 観客の共感を得るために、キャラクターの感情や選択を丁寧に描くことは、どの国の映画でも共通する課題であること
管監督は、世界中の観客が共有しやすい物語の型を取り入れつつも、その中に自国の歴史や人々の記憶をどう埋め込むかが、現代の映画作りの鍵だと強調したと受け止められます。
方励監督が語る「歴史映画の責任」
第二次世界大戦期の歴史を扱った『The Sinking of the Lisbon Maru』を手がけた方励監督は、歴史映画に求められる「責任」について自身の経験から語りました。ここで焦点になったのは、次の三つです。
- 史実の尊重:事実関係や登場人物の背景を丁寧にリサーチし、脚色との線引きを明確にすること
- 犠牲者への敬意:悲劇を単なるドラマの材料として消費せず、当時の人々の尊厳を守る視点を持つこと
- 複雑さの維持:善悪を単純に二分するのではなく、歴史の中にある葛藤やグレーゾーンも描くこと
方監督は、観客が歴史を「自分ごと」として受け止められるようにするには、エンターテインメント性も必要だとしつつ、それが事実を歪める方向に働いてしまわないよう、細心の注意が必要だと指摘しました。
歴史とエンタメのあいだで揺れる現代映画
『Dongji Rescue』をめぐる議論と、管虎・方励両監督の発言は、次のようなより大きな問いにつながっています。
- 歴史の悲劇を描く作品に、どこまでスリルやカタルシスを持ち込めるのか
- 国や地域の記憶を守りつつ、世界の観客にも届く物語にするには何が必要か
- グローバル標準の「見やすさ」と、その土地ならではの語り口は、対立するのか、それとも補い合えるのか
これは、中国映画だけでなく、日本や他の国と地域の歴史映画にも共通するテーマです。国際ニュースとして見ても、各国が自らの歴史をどう物語り、世界にどう発信するかは、ソフトパワーや相互理解に直結する問題になりつつあります。
私たち視聴者に残される問い
インタビューの最後に浮かび上がるのは、「正しい答え」は一本ではないという事実です。同じ作品を見ても、歴史教育として期待する人もいれば、純粋なエンターテインメントとして楽しみたい人もいます。
だからこそ、歴史を扱う映画を見るとき、次のような視点を自分の中に持っておくことが大切になりそうです。
- 作品は「歴史そのもの」ではなく、あくまで創作された物語であることを意識する
- 気になるテーマがあれば、自分でも資料や他の作品にあたり、多面的に考えてみる
- 気に入った点だけでなく、違和感を覚えた表現についても、周囲と対話してみる
『Dongji Rescue』をめぐる議論は、単に一作品の評価を超えて、「歴史をどう語り継ぐのか」という普遍的なテーマを投げかけています。スマートフォンで映画を気軽に楽しめる今だからこそ、一つひとつの作品から、自分なりの問いを持ち帰る習慣を育てていきたいところです。
Reference(s):
cgtn.com








