中国の靴職人ア・クアン、路上からハーバード同窓会スピーチへ video poster
中国南部・広東省で両手で「歩き」ながら路上で靴を修理してきた男性、ア・クアン。SNSで語った何気ない夢がきっかけで、ハーバード大学同窓会の場でスピーチを行う機会をつかみました。障害や逆境と向き合う生き方として、国境を越えて共感を呼んでいます。
6歳で両脚を失い、それでも路上に立ち続けた
ア・クアンは、中国南部・広東省出身の靴職人です。幼い頃から路上の靴修理の屋台で生計を立ててきましたが、その姿は少し特別です。両脚がないため、彼は地面に手をつき、両手で体を支えながら移動します。
人生が大きく変わったのは6歳のときでした。交通事故で両脚を失い、身体的には深い傷を負いました。しかし、心までは折れませんでした。彼はその後も、日々の暮らしの中で仕事を続け、自分なりのペースで生活を築いてきました。
ヘレン・ケラーの一冊がくれた「生きる力」
ア・クアンが挫折から立ち上がるきっかけとなったのは、ヘレン・ケラーの著書『Three Days to See(3日間だけ見えるとしたら)』でした。本の中で語られる「限られた感覚を最大限に生かす」というメッセージが、彼の心に深く響いたといいます。
ア・クアンは、「持っている感覚を最大限に生かすこと。一つひとつが贈り物だ」と語り、自身の動画や短いメッセージを通じて、その考え方を共有してきました。彼にとって大切なのは、失ったものよりも「今あるもの」に目を向けることです。
日常を発信する動画から生まれた「ハーバードで話したい」という夢
ア・クアンは、路上での仕事や日々の暮らしの様子をSNSや動画で発信しています。両手で歩きながら働く姿や、冗談を交えた素朴な語り口は、多くの人にとって励ましとなっています。
ある日、彼は動画の中で「いつかハーバードでスピーチをしてみたい」と何気なく語りました。その一言に、フォロワーたちが反応します。視聴者はコメントやシェアを通じてその夢を広げ、彼の声をより多くの人に届けました。
北京のハーバード同窓会へ届いた声
ア・クアンの動画は、北京にあるハーバード大学同窓会の会長である徐亮(シュー・リャン)氏の目にも留まります。徐氏は彼のストーリーに共感し、自ら連絡を取り、ハーバード大学卒業生に向けてスピーチを行う機会を提案しました。
こうしてア・クアンは、ハーバード大学同窓会のイベントに招かれました。長年、路上の靴修理で生計を立ててきた彼が、今度はハーバードの卒業生たちの前で、自身の経験とメッセージを語る立場になったのです。
「私たちを前に進ませるのは脚ではなく、人生への愛」
ア・クアンが伝えようとしているのは、障害の有無にかかわらず通じるシンプルなメッセージです。それは「私たちを前に進ませるのは脚ではなく、人生そのものへの愛だ」という考え方です。
彼は、視覚や聴覚、触覚など、私たちが当たり前だと思いがちな感覚を「贈り物」と表現します。そして、その感覚を使い切るように毎日を生きることこそが、逆境を乗り越える力になると語ります。
デジタル時代の「人間らしさ」を映すストーリー
ア・クアンの物語は、中国の地方都市の路上から、世界的な名門大学のネットワークへとつながりました。その背景には、スマートフォンとSNSという、ごく身近なテクノロジーがあります。
- 路上での小さな仕事の姿を、動画が「物語」として世界に届ける。
- フォロワーの共感が、一人の夢を後押しする力になる。
- 名門大学の同窓会と、路上の靴職人が直接つながる。
国際ニュースというと、政治や経済の大きな動きが注目されがちです。しかし、こうした一人の生活者のストーリーもまた、現代の中国社会やグローバルなつながり方を映し出しています。
私たちへの問いかけ:何を「失った」と感じ、何を「持っている」と見ているか
ア・クアンの人生は、「人間の精神の力は、逆境を乗り越えるだけでなく、さらに大きなことに挑戦する原動力になる」という事実を静かに示しています。
忙しい日常の中で、私たちはつい「ないもの」に目を向けがちです。時間がない、お金がない、才能がない。その一方で、両脚を失いながらも両手で歩き、感覚を「贈り物」と呼ぶア・クアンは、「今あるもの」に光を当て続けています。
彼のストーリーは、読者一人ひとりに問いかけます。
- もし自分が持っている感覚や環境を「贈り物」と捉え直したら、何が変わるだろうか。
- SNSで日々流れていく無数の動画の中から、自分はどんな声を拾い上げたいのか。
- 自分の小さな夢を、周りの誰かと分かち合う勇気を持てるか。
路上の靴職人からハーバード同窓会のスピーカーへ。ア・クアンの旅は、劇的なサクセスストーリーというよりも、「日々をどう生きるか」を静かに見直させてくれる物語と言えるでしょう。
Reference(s):
A cobbler's journey: From street stall to Harvard alumni talk
cgtn.com








