国連から山西へ:Z世代に“遺産を翻訳”するキュレーターの挑戦 video poster
「伝統は過去を保存するだけでなく、いまを生き続けられる力に変えるもの」——2026年3月現在、中国本土・山西省の文化をめぐって、そんな視点が静かに注目を集めています。太原出身で、オーストリアの国連で働いた経験を持つキュレーター・程怡蓉(Cheng Yirong)氏が、故郷に戻り「Black Myth Wukong: Encounter Shanxi Exhibition」を手がけながら、若い世代に向けて山西の古建築の魅力を“現代の言葉”で届けようとしているからです。
国連の現場から、故郷・太原へ
程氏は、国連での勤務を経て山西省の省都・太原に戻り、展示のキュレーターとして活動しています。国際機関で培った経験を背景に、自分のルーツでもある地域の文化遺産を、より開かれた形で紹介する役割を担っているといいます。
本人は自らを「文化のコネクター(つなぎ役)」と位置づけ、専門家の間で通じる表現に閉じない伝え方を意識している、という趣旨を語っています。
「遺産を翻訳する」とは何か
ここでいう「翻訳」は、外国語を別の言語に置き換えるだけの意味ではありません。程氏が目指すのは、古建築が持つ価値や空気感を、Z世代が自分の生活感覚で受け取れる形に“言い換える”ことです。
学術用語を、生活の言葉へ
文化財や建築の説明は、どうしても専門用語が増えがちです。程氏はその壁を意識し、次のような方向で表現を整えているといいます。
- 難しい言い回しを減らす(学術的な語り口から距離を取る)
- 建物の“魂”に触れる導線を作る(情報より体験の順番を重視する)
- 若い世代の目線で再発見を促す(「知識」より「気づき」を先に置く)
「保存」ではなく、「生き続ける力」へ
冒頭の言葉が象徴するのは、伝統を“動かないもの”として棚に置くのではなく、いまの感性と接続して、次の担い手へ渡していくという考え方です。展示という形式は、その接点を作るための手段のひとつになっています。
山西の古建築を“現代のレンズ”で見る
程氏は、山西の古建築の魅力を「若い世代が現代的なレンズで見直せるようにする」と述べています。ここでのポイントは、古建築を“昔のすごいもの”として固定するのではなく、いまの視点で見たときに何が立ち上がってくるかを丁寧に探る姿勢です。
スマートフォンで情報が流れていく時代ほど、文化遺産は「知っている/知らない」の二択になりやすい面があります。だからこそ、展示の場で立ち止まって見たくなる理由をどう編み直すかが問われます。
静かなテーマ:次の世代に“手渡す”ための設計
程氏の取り組みが投げかける問いはシンプルです。文化遺産は、専門家が語り尽くした時点で守られるのではなく、次の世代が自分の言葉で語れるようになったときに、はじめて長く残っていくのではないか——。
国連という国際的な現場から故郷へ戻った一人のキュレーターの歩みは、文化が「保存」と「更新」のあいだで揺れながら、次へ進むためのヒントを示しているのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








