COP29で国連版カーボン市場に前進 カーボンクレジット基準が合意
2025年12月現在、アゼルバイジャンの首都バクーで開幕した国連気候変動会議「COP29」で、温室効果ガス削減プロジェクトから生まれるカーボンクレジットの質を定める基準が承認されました。国連が後押しするグローバル炭素市場の本格始動に向け、大きな一歩となります。
COP29で何が決まったのか
今回合意されたのは、国連主導の世界共通の炭素市場で取引されるカーボンクレジットについて、その「質」を担保するための基準です。2週間の日程で行われるCOP29の初日に早くも合意がまとまり、交渉関係者の一人は「早ければ来年にも市場が動き出す可能性がある」と話しています。
各国政府は、このほかにも気候変動対策の資金拠出(クライメートファイナンス)に関する新たな合意をまとめることを目指しており、今回の決定はその一部を先行して固めた形です。
グローバル炭素市場とカーボンクレジットとは
カーボンクレジットとは、世界のどこかで行われた温室効果ガスの削減やCO2の吸収・除去プロジェクトを一定の量に換算し、「1トンのCO2削減」などの形でクレジットとして発行する仕組みです。国や企業は、自らが排出する分の一部をこれらのクレジットで相殺(オフセット)することができます。
プロジェクトの例として、次のようなものが挙げられています。
- 海岸沿いでCO2を吸収するマングローブ林の保全・再生
- 排煙処理設備の導入などによる工場の排出削減
- 農村部の家庭に、煙の少ないクリーンなかまどや調理器具を普及させる事業
こうしたプロジェクトに資金が流れれば、温室効果ガスの削減と同時に、健康被害の軽減や生計の向上など、現地コミュニティの暮らしを改善する効果も期待されています。
パリ協定と米国の動き:企業はどう関わるのか
今回の市場は、地球温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定のもとで構想されてきました。米国では、大統領選で当選したドナルド・トランプ氏が、再びパリ協定からの離脱を目指すと発言していますが、このことが国際交渉に影を落としている面もあります。
メキシコの元気候交渉官で、現在はカーボン市場のデータ分析を行う企業で働くフアン・カルロス・アレドンド・ブルン氏は、今回の合意について「パリ協定からどこかの国が離脱するかどうかにかかわらず、カーボン市場の具体的な運用に近づける」と評価します。
仮に米国がパリ協定から離れた場合でも、米国企業が自発的な脱炭素目標を達成するために、この国連支援の市場からクレジットを購入し、グローバルな気候変動対策に関与し続ける道が残される可能性があります。
人権と信頼性への懸念
一方で、今回の基準が全ての懸念に応えたわけではありません。環境・人権団体の一部は、プロジェクトの対象地域に暮らす人々の権利をどう守るのかといった点で、基準が十分とは言えないと批判しています。
法律支援などを行う非営利団体ナマティの共同ディレクター、レベッカ・アイワークス氏は「多くの資金提供者は、市場が投資に値するほど安定していて信頼できるのか、不安を抱いている」と指摘します。その上で、「強い基準がなければ、市場の発展をむしろ妨げかねない」とも述べ、今回の決定だけでは不十分だと訴えています。
合意プロセスへの不満と今後の焦点
批判は内容だけではなく、決め方にも向けられています。今回の基準は少数の技術専門家グループによってまとめられ、一部の国は「最終案に意見を反映する機会が不十分だった」と不満を示しました。
熱帯林が多く残る国々の連合体「レインフォレスト・ネーション連合」の事務局長で、パプアニューギニアの元気候担当特使でもあるケビン・コンラッド氏は、「われわれは結果としての基準内容には賛成するが、その決め方には賛同できない」と述べ、監督委員会が委任された権限を超えたのではないかと懸念を表明しました。
COP29ではこのほかにも、市場全体の透明性や二重計上の防止策など、炭素市場を「強く、信頼できる枠組み」にするためのルール作りが続きます。
ビジネスや投資家にとっての意味
国際ビジネス団体である国際排出取引協会(IETA)は、この国連支援の炭素市場について、2030年までに年間2500億ドル規模の取引を生み出し、年間50億トンのCO2排出削減につながる可能性があると試算しています。
日本を含む各国の企業や金融機関にとっても、今回の合意は次のような問いを投げかけます。
- 自社の脱炭素戦略の中で、どの程度カーボンクレジットを活用するのか
- 投資先のプロジェクトが、環境だけでなく人権や地域社会にも配慮しているかをどうチェックするか
- 将来、国や地域の規制が厳しくなった場合にも通用する基準であるか
カーボンクレジットは、うまく設計すれば途上国の持続可能な発展を後押しし、世界全体の排出削減を加速させる手段になり得ます。その一方で、基準やガバナンス(統治)の設計を誤れば、「数字合わせ」に終始し、現場の人々の権利を損なう危険もあります。
「読みやすいが考えさせられる」論点
今回のCOP29での合意は、グローバル炭素市場のスタートラインに立つための重要な一歩です。しかし、それだけで気候危機に十分なペースで対応できるわけではありません。各国の排出削減努力をどう「実物の削減」として積み上げるのか、そして市場メカニズムを誰のために設計するのかが、今後の大きな論点になります。
ニュースを追う私たち一人ひとりにとっても、「クレジットを買えばそれでよいのか」「どのプロジェクトを応援すべきか」といった視点で、この新しい国際ルールを見ていくことが求められています。
Reference(s):
cgtn.com








